【第3章】 2008年03月19日
日本はコンテンツの流通を加速させ、世界に打って出るべき
中村伊知哉・慶應義塾大学DMC機構教授に聞く
世界で急速に進む通信と放送の融合の動きに、遠からず日本も巻き込まれる。また、その兆しはすでに始まっている。これからどんな大変革が起こるのか。旧郵政省出身で、この問題に詳しい中村伊知哉・慶應義塾大学教授に聞いた。
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| 中村伊知哉・慶應義塾大学教授 |
――なぜ今、日本で、通信と放送の垣根を取り払う「情報通信法」(仮称)が必要なのか。
中村:日本では、(通信から見た)「融合」か(放送から見た)「連携」かの言葉遊びを続けてモタモタしているうちに、世界では市場を塗り替えてしまうような技術革新が進んだ。このままでは、日本だけが取り残されてしまう。
マイクロソフト、グーグル、ヤフーなどが、米国のラスベガスで開催された世界最大の家電見本市(CES)で、映像コンテンツの配信ビジネスへの参入を表明したのは2006年初頭のことだった。
マイクロソフトはMTVと提携、グーグルはCBSのドラマをインターネットで配信、ヤフーはテレビの画面でネット映像を利用できるサービスを開始した。これらの動きは、2005年9月にアップルが「iTunes Store」で、映像コンテンツの配信を始めたことに端を発する。
――米国における一連の“動き”が意味することは何か。
中村:主役の交替だ。これまで米国で「通信と放送の融合論」を主導してきた、旧来のAT&Tやタイムワーナーなどの通信・放送企業から、ハリウッドの映像コンテンツを引っ提げて登場したITの巨人たちに替わった。彼らは、主役に躍り出たばかりか、世界展開を宣言した。
危機感を抱いた米国の放送業界は、すぐに動いた。たとえば、全米最大の放送局CBSは、インターネットのグーグル、通信のベライゾン、ケーブルテレビのコムキャストの3社と、トップ企業同士による事業提携に踏み切った。同社のレズリー・ムンバスCEOは、「もはや、私たちはブロード・キャスター(放送局)ではない。コンテンツ・キャスターである」と発言して、世界中の度肝を抜いた。
――日本の放送局は、「情報通信法」の動きには猛反発している。
中村:従来の日本の放送局のビジネスモデル、すなわち“ハード(放送の設備)とソフト(番組の制作)の一体型運営”は間違っていたとは思わない。実際、60年近く続いたのだから、大正解だった。
だが、現在、通信の技術革新やデジタル化は、私たちが考えていたよりも、はるかに速いスピードで進んでいる。いつまでも、狭い国内で綱引きしている場合ではない。社会の変化と実態に即して抜本的に“制度”を見直し、コンテンツが流通する“取引市場”の整備と“産・官・学の協働”を推進していく。そして、日本が誇るコンテンツで世界市場に打って出るべきだ。
現在、通信の国内市場は16兆円、放送の市場は4兆円なので、計20兆円。これを国内で21兆~22兆円に増やそうとするのではなく、世界で30兆~40兆円にも成長させられる方策を、皆で真剣に考えるべきではないだろうか。
(聞き手:『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨仁)
中村伊知哉●慶應義塾大学DMC機構教授/国際IT財団専務理事
1961年、京都府生まれ。京都大学卒業後、大阪大学大学院博士課程を単位取得後に退学。京大在学中は、後に世界中でブレイクした日本の女性ロックバンド「少年ナイフ」を世に送り出す。84年、旧郵政省入省。電気通信局、放送行政局、通信政策局、仏パリ駐在などを経て退官。米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ客員教授、米スタンフォード日本センター研究所長を経て、2006年9月から現職。08年4月、新設の慶應義塾大学大学院メディア・デザイン研究科教授に転じる予定。近著に、『「通信と放送の融合」のこれから』(翔泳社)がある。
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この4月から総務省の審議会で本格的な議論がスタートする「情報通信法」。 「情報」と「通信」の融合を目指すこの法律は、メディアの大再編へと波及すること必至だ。情報通信法は何をもたらすのか。
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