米ワシントンのホワイトハウスで宣誓する連邦準備制度理事会(FRB)新議長のケビン・ウォーシュ氏=5月22日 Photo:AFP=JIJI米ワシントンのホワイトハウスで宣誓する連邦準備制度理事会(FRB)新議長のケビン・ウォーシュ氏=5月22日 Photo:AFP=JIJI

インフレ対応の遅れを取り戻すため、パウエルFRBは急激な利上げに踏み切った。しかし、その過程で金融システムの脆弱性も浮かび上がった。パウエル氏の議長時代の総括とウォーシュ新議長を待つ試練を取り上げる後編では、インフレ退治の過程と25年のFRBの金融政策戦略レビューによる政策枠組みの修正、財政膨張、AI投資ブーム、政治圧力に直面するウォーシュ新議長の課題を探る。(BNPパリバ証券経済調査本部長兼チーフエコノミスト 河野龍太郎)

>>前編『パウエルFRBはなぜインフレ加速を「一時的」と見誤ったのか?低インフレ時代の枠組みが招いた判断の遅れ』から読む

インフレ退治へ急旋回した
パウエルFRB

 第三幕(2022~23年)でパウエルFRBはインフレ退治に追われる。

 22年3月からFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを開始し、7月までに4度にわたる計2.25%の大幅利上げを行った(0~0.25%→2.25~2.5%)。

 その後、8月のジャクソンホール会議で、パウエル氏が1970年代末から80年代初頭にかけてインフレ退治に名をはせたポール・ボルカー元議長を想起させる発言(「やり遂げるまで、高金利政策を続けなければならない」)を行ったのは、「インフレは一時的」という判断で失われかけたFRBの信認を回復するためだった。

 この方針表明後、FRBは22年末までにさらに3度にわたる大幅利上げを行い(2.25~2.5%→4.25~4.5%)、23年にも4度の利上げを行った(4.25~4.5%→5.25~5.5%)。

 その間、長期国債価格の下落を背景に、23年3月のシリコンバレー銀行の破綻に象徴される地方銀行の経営不安がくすぶった。FRBは流動性供給で金融安定を支えつつ、政策金利はインフレ抑制のために高水準を維持したのである。

 もっとも、現代のFRBが1980年代初頭のボルカー氏をそのまま再演できるはずもなかった。金融システムは複雑化し、国債市場、地方銀行、ノンバンク、商業不動産、そして巨大な政府債務が、金融政策運営の大きな制約となっている。

 インフレを抑えるための高金利政策は、同時に金融システムにストレスを与えかねない。グローバル金融危機時とコロナ危機時に、中央銀行のバランスシートが大きく膨らんだことも、財政膨張を容易にし、この問題を複雑にしていた。パウエルFRBは、インフレ抑制と金融安定の間で難しいかじ取りを迫られた。

 この意味で、パウエルFRBの8年間は、中央銀行が低インフレ時代の成功体験から抜け出す過程でもあった。彼は、コロナ危機から世界経済を救ったが、高インフレを見逃した。その代償として急激な利上げを迫られた。

 その過程で、中央銀行のバランスシートが拡大していることが、金融システムに脆弱性をもたらしていることも明らかになった。

 低インフレ時代の成功体験から抜け出し、修正を試みたのが25年の金融政策戦略レビューであった。次ページでは、25年のレビューにおける修正に焦点を当てるところから、現在に至るパウエルFRBの軌跡を振り返り、ウォーシュ新議長が直面する課題を取り上げる。