新しい時代の選択肢、「入りたい会社を自ら選んで入る」

 印象に残ったのは、各社で説明をするカンボジア人社員たちの表情だ。社会に一歩先に出た先輩ある彼らは、自分たちの仕事や会社について、とても誇らしげに語っていた。企業で働くということ、サラリーマンになるということ、組織の中で自己実現していくということ。カンボジアの若者にとって、企業人としての人生設計はロールモデルがあまりに少なく、イメージできないのが本音だろう。

 だから今回の就職説明会のように、先輩から後輩へと体験が「手渡し」される機会は貴重だ。

 思えば、カンボジアに「会社文化」が根付き始めてまだ間もない。経済センサスによると、カンボジアの事業所数は、他のアジア諸国に比べてもまだ少ない。就職の多くはコネやツテで決まっているのが現状だ。

 そこへ、コネやツテで「入れる会社に入る」ではなく、「入りたい会社を自ら選んで入る」という新しい選択肢が加わった。その意味で、この就職説明会はカンボジアの若者たちの意識を変える重要なきっかけとなったかもしれない。

 「こんなにいろんな仕事があるんだ、と感動しました」と、ある若者が言った。

 その言葉に、はっとする。貧困の定義は「生き方の選択肢がないこと」だと、途上国で貧しさの現場に直面するたびに思わされてきた。だとすれば、就職説明会はカンボジアの若者たちが、一部ではあっても貧困を脱し、自らの生き方を選べるようになったことを示す場でもあったのだ。

 会場を埋めた一人ひとりの顔が、きらきらとまぶしく見えた。

カンボジア人社員(左)の説明を聞く参加者。給料だけでなく、福利厚生や自己研鑽の機会などにも関心が寄せられたという【撮影/木村文】


(文・撮影/木村文)

筆者紹介:木村文(きむら・あや)
1966年生まれ。国際基督教大学卒業後朝日新聞入社。山口支局、アジア総局員、マニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地発行のフリーペーパー「ニョニュム」編集長に(2012年4月に交代)。現在はフリー。

 

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