規制の違いがあることから、公益事業は一般的に地域ビジネスとなるが、英国の経験は他国にとって二つの普遍的な教訓を示している。第一に、エネルギー転換には新たなルール一式が必要であり、従来のルールに手を加えてもうまくいかない可能性が高い。第二に、柔軟性こそが、耐性ある低炭素システム創造の鍵を握る。

 20世紀の電力網は、化石燃料を使う少数の大規模発電所を使って、必要なときに必要なだけ電力を生産していた。だが低炭素の発電網では、広く分散した断続的な再生可能エネルギー源を利用し、スマートグリッドで管理することで、需給バランスと双方向の電力融通の均衡を図る。

 英国は2008年、2050年までに脱炭素社会を実現することを法制化した。しかし、規制当局は国のエネルギーシステムの構造を見直すのではなく、反響の大きいエネルギー料金問題に惰性で注力し続け、核心に踏み込まなかった。当局は2016年、消費者のエネルギーコストが本来あるべき水準を年間約19億ドル上回っていると試算し、新たな供給業者を市場に呼び込むために再度ルールを調整した。新たな供給業者はやって来たが、大半の英国人は従来の供給業者6社のいずれかにとどまり、引き続き高過ぎる料金を支払っていた。これを受け、政府は2019年、請求できるエネルギー単価に上限を設け、大部分の消費者をその対象とした。

 価格上限の設定と、何十社もの小規模事業者間の激しい競争という不都合な組み合わせは、目下の危機の伏線となった。新規参入した業者は、スポット市場で購入したエネルギーを固定価格で販売していた。このモデルはしばらく利益を上げていたが、天然ガス価格が上昇すると赤字に陥った。

 オックスフォード大学エネルギー研究所の研究員、マルコム・キー氏は「現時点では、完全に自由化された市場というよりも、ちょっとした混合市場になっている」と言う。

 耐性ある低炭素エネルギーシステムを構築するために、市場構造と規制を見直す必要が出ている。何より、それにはさまざまな面で柔軟性が必要だ。信頼できる近隣の電力市場との連携、ピーク時に使用量を減らすことをいとわない顧客、再生可能エネルギーによる発電のギャップを埋めるためのバックアップ発電所やエネルギー貯蔵などが考えられる。また、異なる再生可能エネルギーの種類と区域を組み合わせることも有効だ。

 適切な解決策は地域の状況によって異なる。英国には一定の柔軟性がある。異なる電力源の組み合わせ、求めに応じて使用量を減らす産業界の顧客、近隣の送電網との複数の接続といった具合だ。エネルギー貯蔵やクリーンな燃料としてのグリーン水素への投資も行っている。しかし、可変的ながら豊富な風力や海洋資源があるにもかかわらず、英国は天然ガス輸入に過剰に依存しており、電力貯蔵への投資が不足している。これらを是正すれば、将来の天然ガス市場の逼迫(ひっぱく)から身を守る一助となる。天然ガス市場は今後も不安定な状況が続きそうだ。

 英国は二酸化炭素(CO2)排出量の削減に成功したが、耐性ある低炭素エネルギーシステムはまだ手にしていない。他国は英国の初期の失敗に学ぶべきだ。

(The Wall Street Journal/Rochelle Toplensky)

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