世界が脱炭素に走ると、資源価格の上昇ドミノが起こる納得の理由Photo:123RF

世界的な熱源交換は
コストなしに達成不可能

「脱炭素」が今、世界中のトレンドになっている。日本政府は欧米と歩調を合わせるため、6月のG7(先進7カ国首脳会議)では石炭火力発電の開発援助や輸出支援を終了させるために具体的な措置をとることで合意した。こうした政府の方針を受け、2030年や2050年までに「二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」を標榜する企業も増えている。

 主に炭素は、エネルギーとして用いたときに温室効果ガスとして大気中に排出される。脱炭素というのは、言い換えると「世界的な熱源交換を行う」といえる。そして、熱源の交換は、コストなしで達成することは不可能だ。

 CO2の排出量が少ない熱源は、例えば電気でいうと、水力、ガス火力、太陽光、風力、地熱、潮力、原子力などが挙げられる。CO2を全く排出しない再生可能エネルギーで全て電気を賄うことができるならよい。しかし電力の安定供給を考えると、CO2排出量の多い石炭や石油火力から、CO2排出量の少ないガス火力による発電比率を高め、原子力発電の比率も引き上げる、というのが現実解だろう。

 例えば、石炭による発電が65%を占める中国では、全てを再生可能エネルギーに変更するのは不可能だ。実際、原子力発電所の建設を推進しているし、今後は海外にも中国製の原子力発電設備販売を促進する計画である。しかしこれにしても「従来の石炭火力発電所を廃棄して、新しい発電所を建設する」ことに他ならず、この分の初期投資コストは当然かかることになる。

 一方、我が国では東日本大震災以降、原発は実質的に再稼働ができないため、LNGや石炭などにシフトし、同時に再エネの導入を進めた。再エネを普及させるために、電力消費者は企業・個人を問わず「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という形で再エネのコストを負担している。

 経済産業省の試算では2021年度の賦課金は、総額で3兆円程度が見込まれている。これは消費税を1%引き上げたときの税収増と同じ金額である。

「再エネ使用→化石燃料の需要消滅→コスト低下」という一般的なイメージがあるかもしれないが、実際はそうではない。

 熱源の交換は、そう簡単にはできない。仮にできたとしても、燃料の調達ルートを確保し、その調達の安定性・持続性を確認するほか、価格の安定性、電力の品質維持などを検討する必要がある。

 本論から少し横道にそれるが、「価格の安定性」に関しては先物市場で取引が可能な商品でない限り、自主的にコントロールすることは不可能だ。特殊な企業のみが提供可能な熱源を利用した場合、価格高騰時や現物供給不足が発生した場合の現物確保にはほとんど打ち手がない。

 石炭火力発電の比率が高いドイツが、米国から待ったをかけられているにもかかわらず、ロシアから直接ガスを輸入する「ノルドストリーム2」プロジェクトを推進しようとしているのは、ロシアと政治的に対立しているウクライナ経由のガス調達の代替手段を確保したい、という意図があるためだ。

 これはウクライナとロシアの政治リスク顕在化による供給リスクを回避するためのものだ。仮に脱炭素に用いる資源が政治的に対立する国からしか取得できない場合、これと同様のことが起きて、販売側の言い値で対象物を取得しなければならなくなる。

 また、仮に原材料の調達が複数ソースから可能な場合でも、資源価格は通常、市場価格で決定される。現在、脱炭素の本命の一つとして注目される水素も当面はナフサ由来のものが主体になるだろうし、仮に水素が低コストで生産できたとしても、取り扱いの拡大と共に水素自体の需給バランスで価格が変動することが予想される。

 つまり、いかなる資源や手段を用いたとしても、それを自給できていない限り価格の変動リスクは残る、ということだ。