地方には、タクシーが待っていない小さな駅が数多くあります。例えば私の地元の長野県を考えると、新幹線が止まる駅は軽井沢、佐久平、上田、長野、飯山の五つです。こうした駅ではタクシーが駅前で待機していますが、ローカル線の小さな駅にはタクシーはほとんどいません。私の自宅からの最寄駅であるしなの鉄道の信濃追分駅にはタクシーは待ってくれていないのです。

 しかし、信濃追分駅周辺には、魅力的な観光資源が数多くあります。素敵なカフェや朝食で有名なレストラン、そして浅間山の登山口にも近い。ただ、駅から先の移動手段が貧弱であまり活用されていません。

 もし、こういう駅に限定してライドシェアサービスを合法化できれば(既存タクシー事業者にとって採算が合わない駅)、地域の観光ポテンシャルは一変するでしょう。駅の周りには民家や農地が広がっていますから、近くにいる人たちのクルマが活用されます。地域の方々の副業にもなるのです。これはヒッチハイカーが、乗せてくれる人に合法的に謝礼を支払う新しい仕組みと考えることもできます。

 実際には、地方ではタクシーが待っている大きな駅よりも、タクシーが待っていないローカル線の駅の方がはるかに多くあり、ライドシェア導入はそれらの駅の観光地としての価値向上につながります。

ライドシェアがローカル線を救う

 星野リゾートが経営している「アルツ磐梯」(福島県)というスキー場を見ても、ライドシェアの必要性を実感します。

 最寄りの磐梯町駅からアルツ磐梯スキー場まで、タクシーでおよそ15分かかります。ただ、磐梯町駅は小さな駅なので、タクシーは待機していません。タクシーに乗りたい場合は、駅に貼り紙してある電話番号に電話して会津若松市から呼ぶことになります。

 タクシー到着までだいたい40分かかり、15分先の観光施設に行こうとしているだけなので便利な状態とは言えません。同時に、会津若松のタクシー会社にとっても、15分の乗車時間のために、往復で80分かかるのですから、決して割のいい仕事ではありません。

 こういう駅こそライドシェアの出番です。

 磐梯町駅の周りには街がありますから、ライドシェアに活用できる自家用車には事欠きません。駅から呼ばれたら、数分で到着できる。そうなれば、アルツ磐梯だけでなく、磐梯地域での移動の利便性が劇的に改善するのです。スキー場のリフトは16:30に止まり、その直後に多くの方が最寄りの駅までの移動を開始します。スキー場スタッフは自分の車で通勤していて、帰宅時にシェアライドで顧客を駅まで送迎することができるとさまざまな面で合理的です。

 人口減少が進む現在、危機に見舞われている地方のローカル線は少なくありません。現場では知恵を絞って、なんとかローカル線を維持しようとしています。ライドシェアは、そういったローカル線の駅の魅力を向上し、観光資源としての価値を上げるための有力な手段になり得るのです。

テクノロジーが地方を変革する

 先述のように、日本では今でもライドシェアサービスは禁止されています。それは、過去の環境において合理的だったルールと、それによって保護されている既得権ビジネスに今でも縛られているからです。しかし、環境は大きく変化しています。新幹線が来て、ローカル線とその駅周辺は衰退してきている。地方の人口は減少している。地方にとって観光が重要な産業になろうとしている。そして世界ではITの進化が観光に大きな変革をもたらそうとしているのです。

 今こそ日本の地方はITの変革パワーをいち早く取り込むべきです。それを拒むということは、ビートルズが世界を席巻し始めたときに、「あんなうるさい不良の音楽を聴いちゃいけない」と親に怒られて聴かないまま、世界のスタンダードに乗り遅れる、というのと同じです。

 世界に目を向ければ、民泊やライドシェアは、観光地を決める条件になりつつあります。そこに背を向け続けることは、旅行市場のグローバルスタンダードから遅れをとり、競争力を弱めることにつながると考えています。

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