宿泊先や飛行機のウェブ予約にとどまらず、自動チェックインやスマートロックなど、旅のさまざまなシーンにITが活用されるようになっている。しかし、その導入判断がコスト効率の向上一辺倒で、お客さまとスタッフの接点を減らす一方にならないよう、星野リゾート代表の星野佳路さんは警鐘を鳴らす。だとすると、ITの導入判断基準はいかにあるべきなのだろうか?
テクノロジーはホテルをどのように変えるか
以前、この連載で、星野リゾートが自社ホームページ(HP)の拡充に力を注いできたことを説明しました(詳細は『星野リゾート代表に聞く、自社HP経由の予約率を驚異の60%に高めた狙いと成果』を参照)。その大きなポイントは、「予約のしやすさ」を追求したことにあります。この発想の起源は、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」という新しい理論に出合ったことがきっかけです。ここでは買いやすさの追求が競争優位に直結することが理論づけられていました。
このようにポジショニング戦略が大きく変化したのは、ITの発展によるものです。スマートフォンで施設とサービス内容を確認し、空き状況と価格を見て予約することができるようになりました。レストラン、交通、そしてアクティビティも自由自在に情報を入手し、旅の行程を設定できるようになってきています。その先には周遊旅行を自分で自由自在に予約できるような機能が出てくるでしょう。
旅の提案の人工知能(AI)化も進んでいます。星野リゾートのHP上でお客さまの要望(「何名で、誰と出かけ、どんな旅にしたいか」など)を五つの項目で選んでいただき、ふさわしい施設候補をご案内する「ぴったりホテル診断」というサービスの提供を開始しました。
旅行者の多くは自分にあった旅をしたいのであり、特定の場所に行くことが目的ではない人も多いはずです。しかし、旅行業界の予約プロセスは「どこに行きたいか」から始まります。つまり、行きたい場所を分かっていない人は、旅行検討プロセスに入れないのです。
ぴったりホテル診断では、場所を聞くことなく顧客が求めている旅の内容にあった旅行先を提案します。これは知名度が少ない観光地への旅を促進することに貢献しています。星野リゾートでは宿泊者(全予約者)に顧客満足度調査へのご協力をお願いしており、返信率が20〜30%あるので、ぴったりホテル診断機能を使ってホテルを選択した顧客とその満足度を結びつけることで、少しずつ提案内容を改善していくことができます。