もしもコロナ禍に見舞われていなかったとしても、日本の旅行・観光業は長期的にみると必ずしも安泰とはいえない――。星野リゾート代表・星野佳路さんは、その課題の一つに「自然観光の弱さ」を挙げる。なぜ自然観光はそこまで重要なのか? そして、それを解決するための方策とは? (構成/斎藤哲也)

このままではインバウンド格差は埋まらない

 歴史を振り返る上で「if(もし)」は禁物と言いますが、もしもコロナ禍に見舞われなかったとしたら、日本の旅行・観光業は安泰だったでしょうか。

星野佳路(ほしの・よしはる)さん
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

 旺盛なインバウンド(訪日外国人客)需要が続き、東京オリンピック・パラリンピックで外国人観光客の数も跳ね上がる。短期的にはそうでしょう。しかし、持続可能な観光産業という視点から考えた場合、たとえコロナ禍がなかったとしても、日本のインバウンドの現場は弱点を抱えています。その一つは、成長セグメントであるインバウンドの効果が一部の地域に限定され、国内観光地に広くは行き渡っていないということです。

 観光庁の訪日外国人消費動向調査(2019年)によれば、外国人観光客の消費額は、東京だけで全体の35%、上位5都道府県(東京・大阪・北海道・京都・福岡)で全体の70%以上を占めています。この傾向はそれ以前から長く続いているものです。

 数字を見れば分かるように、日本の観光業には構造的なインバウンド格差が生じてしまっている。これは「観光立国」が当初目指していた地域振興の姿とは違った状態になっていることを意味しています。

 このインバウンド格差を生み出している原因は複数ありますが、その一つの要因として、日本の観光業は文化観光に比べて自然観光が弱い点が挙げられます。だから、東京や京都、大阪といった従来の都市型観光地に観光客が集中してしまうわけです。

 誤解のないように言っておくと、自然観光が弱いということは、自然資源に魅力がないということではありません。それどころか、日本各地には豊かな自然がたくさんあり、国立公園は34カ所もあります。にもかかわらず、世界的に見て日本の自然観光が弱い点が問題なのです。