グローバルなホテルチェーン各社がしのぎを削る本丸であり、星野リゾートがこれまで築いてきたブランド力がすぐには通用しない北米や欧州の市場へ「日本旅館」で勝負したいという星野リゾートの星野佳路代表。目下、北米や欧州の市場で「日本旅館」のニーズはない、と言い切る星野代表が、それでもこのコンセプトでの進出にこだわるのには教科書通りの理由がある。
北米に「日本旅館」という市場を創造する
星野リゾートは目下、海外で四つのホテルを展開しています。バリ島の「星のやバリ」、台湾の「星のやグーグァン」、米ハワイ・オアフ島「サーフジャック ハワイ」、中国浙江省の天台山の「嘉助天台」です。これらの地域は、ある程度は星野リゾートの現時点でのブランド力が通用しており、日本展開の延長線上にあるといえます。
しかし、それは同時に現時点での海外展開の限界でもあります。
一方、北米や欧州といったエリアは、グローバルなホテルチェーン各社がしのぎを削る本丸であり、私たちにとって今までの強みがすぐに通用する市場ではありません。真のグローバル展開とは、北米や欧州市場で長期的に持続可能な成長を維持できる競争力を持つことであり、それは星野リゾートにとってチャレンジングな取り組みであることを覚悟しています。
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。
日本のホテル運営会社が欧米市場に挑戦するに当たり、「日本旅館」で参入していく必要があると考えている点を前回記事『星野リゾート代表が、コロナ禍でも海外展開は「今しかない」と考える理由』で述べました。欧米市場が自然に抱く「日本のホテル運営会社が運営するホテルなのだから……」という要素を満たす必要があるのです。
それにはいくつもの方法や幅があると思いますが、市場の心にインパクトを残すために私は最初は「日本旅館」で参入していきたいと思っています。星野リゾートは1914年に軽井沢の星野温泉旅館からスタートした企業です。日本文化のテーマパークのごとき「日本旅館」で参入することがグローバル市場の気持ちにスーッと入っていく唯一の方法であると考えています。
「アメリカに日本旅館に泊まりたいというニーズはあるのか?」と質問されることがあります。実のところ、今それについて市場調査をしても、そのものズバリのニーズは出てこないでしょう。