保険代理店経営で問われる「守り」と「攻め」の両立

保険代理店を取り巻く経営環境が大きく変わりつつある。保険業法改正などへの対応がこれまで以上に求められる一方、代理店には営業成果の拡大も求められる。コンプライアンス対応という「守り」と、営業力強化という「攻め」をどう両立させるのか。この問いは、いま多くの代理店経営者が直面する経営課題といえる。

こうした課題をテーマに、2026年2月25日、都内で保険代理店向けの国際カンファレンス「ITC Agents Japan」が開催された。同イベントでは、世界の保険テクノロジーや代理店経営の最新動向が共有され、多くの保険会社・代理店関係者が参加した。そのセッションの一つとして、セールスフォース・ジャパンが「保険業法対応と営業成果の両立:AIと協業する新しい代理店営業モデル」と題した講演を実施した。

同社が提示したのは、AIエージェントを活用し、コンプライアンス対応と営業生産性の向上を同時に実現する新しい代理店営業モデルだ。

そもそもSalesforce(セールスフォース)は、顧客情報や営業活動のデータを一元管理するクラウド型CRM(顧客関係管理)のプラットフォームとして知られる。日本国内のCRM市場において約10年連続でトップクラスのシェアを維持しており、近年では日本生命保険やアフラック生命保険、東京海上日動火災保険といった大手保険会社ともAI活用などにおける戦略的提携が進むなど、業界内で圧倒的な実績を持ち、信頼を得ている。Salesforceを活用することで、顧客との接点の強化や成約までのプロセスの効率化を推進し、提供価値を最大化できるとして、世界中の大手企業から中小企業まで多様な領域の企業で採用されている。

では、なぜいま、保険代理店にCRMが必要なのか。そして、なぜその基盤としてSalesforceが選ばれるのか。セッションでは、改めて、その問いへの具体的な解が示された。

データ活用が代理店経営を変える

まず登壇したのは、セールスフォース・ジャパンで保険業界を担当する東山勇介氏だ。東山氏は、保険業界でいま起きている変化について、「コンプライアンスへの対応はもはや避けて通れない。一方で、顧客への価値提供を通じて営業成果を高めていくことも同時に求められている」と指摘する。代理店経営において、守りと攻めの両立は不可避のテーマになっているという。

その上で東山氏は、こうした課題を解く鍵として「データの活用」を挙げた。代理店では、顧客情報が紙やExcel、あるいは募集人の頭の中にとどまり、属人化しているケースが少なくない。顧客への提供価値を高め、組織として営業力を向上させるためには、顧客情報や営業活動のデータを蓄積し、共有、活用できる環境が不可欠だという。

「CRMの役割は大きく三つあります。まず情報を蓄積すること。募集人の頭の中にある情報を、組織として引き継げる形でデータとして残す。次に、それをボタン一つで社内に共有できるようにする。そして三つ目はデータをアクションにつなげること、例えば蓄積された過去の経緯を踏まえて顧客に最適な提案を行うことです」

保険代理店の「営業革命」をAIエージェントが切り開く。「守り」のコンプライアンスと「攻め」の両輪駆動経営とは何かセールスフォース・ジャパン
インダストリーアドバイザー
第1部 部長
東山勇介

このようなデータ活用の基盤として東山氏が挙げたのがCRMである。顧客を中心に据えたデータ基盤を整備することで、営業活動の高度化だけでなく、経営層が活動データを直接把握し、意思決定の高度化にもつなげることができるという。

さらに東山氏は、データ基盤の整備がAIの価値を大きく高めると説明した。AIは単独のツールとして使うのではなく、営業活動の業務プロセスに組み込み、業務に必要なデータを提供することで初めて実務的な効果を発揮するという考え方だ。

「コンプライアンスのための仕組みを整えることは重要ですが、それだけでは現場の負担が増えるだけになりかねません。AIを使うことで、コンプライアンス対応と営業成果の両立を実現できると考えています」

その具体像を示すため、続いてセールスフォース・ジャパンの坂本怜氏が、AIエージェントを活用した保険営業のデモンストレーションを紹介した。

保険代理店のデータ活用を支えるCRM

坂本氏が示したのは、AIエージェントを活用して保険募集のプロセス全体を支援する営業モデルだ。保険業法改正への対応を単なる規制対応にとどめるのではなく、営業活動の質を高める仕組みとして活用することができると説明する。

「保険業法改正は単なる規制強化ではありません。正しくプロセスを設計し、可視化することができれば、それ自体が営業成果を最大化する武器になります」

保険代理店の「営業革命」をAIエージェントが切り開く。「守り」のコンプライアンスと「攻め」の両輪駆動経営とは何かセールスフォース・ジャパン
シニアソリューションエンジニア
坂本 怜

デモでは、まず商談前の準備段階が紹介された。SalesforceのCRMでは顧客情報を中心に営業活動のデータが整理されており、募集人は必要な情報にすぐアクセスできる。さらにAIを活用したトレーニング機能を通じて、トップセールスの商談ノウハウや説明ロジックを学ぶことも可能だ。ロールプレイングやフィードバックを繰り返すことで、営業組織全体のスキル向上を図ることができる。

実際の商談では、AIが営業プロセスをガイドする。ヒアリング項目や入力フォームが提示され、募集人はその指示に沿って顧客の状況を整理していく。入力された情報はその場で可視化され、公的保険制度を差し引いた不足保障額などが画面上に示される仕組みだ。顧客は自分に必要な保障額を端的に理解できるため、納得感のある提案につながるという。

契約の最終段階では、顧客のスマートフォンにURLを送信し、デジタル署名による意向確認を行う。画面には「公的保険の説明を受けた」「比較推奨理由の説明を受けた」などの確認事項が表示され、顧客は内容を確認した上で署名する。この署名は改ざんできない形でCRMに保存されるため、募集プロセスの証跡としても機能する。

商談終了後の事務作業もAIが支援する。録音データを基に面談内容を自動で文字起こしし、要点を整理した面談記録を作成する。さらに次回の商談に向けたアクションの提案も提示されるため、営業担当者は事務作業に費やしていた時間を次の提案準備に充てることができるという。坂本氏は、こうした仕組みによって面談記録作成などの作業時間を「15分から1分程度まで短縮できる」と説明した。

AIの役割は営業支援だけではない。デモでは、監査部門によるコンプライアンスチェックの仕組みも紹介された。AIは面談記録や顧客の意向データを分析し、「顧客が元本保証を重視しているにもかかわらず変額保険を契約している」などの不整合がないかを自動で検知する。異常が検出された場合はアラートが送られ、監査部門はダッシュボードで詳細を確認できる。

こうした仕組みによって、監査担当者は膨大な契約を一つ一つ確認する必要がなくなる。データとAIを活用することで、組織の健全性を損なう可能性のある事象を早期に発見し、是正措置につなげることができるという。坂本氏は「コンプライアンス対応を強化しながら、営業活動の生産性も同時に高めることができる」と強調した。

データとAIが支える募集プロセスの可視化

デモの内容を受けて、東山氏は改めて今回のポイントを整理した。保険業法改正への対応では、比較推奨販売の適切性などの確認・検証に必要となる記録や確認・検証・改善といった体制の整備が重要になるが、AIを活用することでこれらの業務を仕組みとして運用できるようになるという。

「重要なのは記録をきちんと残すことです。そのデータを基に、営業部門とは別の監査部門や保険会社が適切性を確認できる環境をつくることが求められています」

AIとデータを組み合わせることで、こうした監査業務も効率化できる。募集プロセスの記録や音声データを分析し、問題の可能性がある案件を自動的に抽出することで、監査担当者は重点的に確認すべき案件に集中できるようになる。東山氏は「データを使い、AIを使うことで可視化が進み、サンプリングチェックも容易になる」と説明する。

こうした取り組みは単なるコンプライアンス対応にとどまらない。営業活動の記録や顧客データが蓄積されることで、組織としての営業力の向上にもつながるという。

「コンプライアンスのためだけに投資をするのではなく、同時に営業活動の効率化や高度化を実現できる。そうした仕組みを作ることが重要です」

その基盤となるのがCRMである。顧客情報や営業活動の履歴を一元的に管理し、マーケティングから商談、契約後のフォローまでを一つのプラットフォームで扱うことで、代理店業務を一気通貫で管理することが可能になる。

保険代理店の「営業革命」をAIエージェントが切り開く。「守り」のコンプライアンスと「攻め」の両輪駆動経営とは何かAgentforceは、「保険業界に特化」し、「オープン」な拡張性があり、「業務に組み込まれている」という三つの「強み」がある

SalesforceのAIエージェント「Agentforce(エージェントフォース)」は、こうしたCRM環境の中に最初から組み込まれている点が最大の特長だ。現在普及している一般的な生成AIツールは、自社の顧客データを直接理解していない。そのため、実務に組み込むには連携開発コストや、金融機関として越えるべきセキュリティの壁が立ちはだかる。
 
しかし、強固なセキュリティ環境(トラスト)を基盤とするSalesforceのCRMと一体化したAIであれば、その心配はない。顧客データを完全に理解したAIが、顧客属性や過去の商談履歴を踏まえ、「生命保険の商談時に、火災保険の更新時期が近いことを検知して見直しを提案する」といった、属人化を防ぐ「攻め」のクロスセル支援までを業務のワークフロー内で自然に実行してくれる。
 
加えて、保険業界特有の収納業務など自社機能にない領域においても、数千社のパートナーソリューションと容易に連携できるオープンな拡張性を備えている点も、経営基盤として選ばれる理由となっている。
 
保険営業において最終的に顧客の意思決定を後押しするのは、人の役割だ。高額で長期にわたる商品だからこそ、顧客が安心して判断できる環境をつくることが求められる。AIやシステムは、そのための時間を生み出す基盤だと東山氏は強調する。
 
「AIやシステムに任せられることは徹底的に任せる。そうすることで、営業担当者はお客さまに寄り添い、本当に価値のある提案に集中できるようになります」

保険代理店の「営業革命」をAIエージェントが切り開く。「守り」のコンプライアンスと「攻め」の両輪駆動経営とは何かAgentforceならば、保険業法対応の「守り」と営業成果という「攻め」が両立できる

こうした仕組みは、保険代理店にとってコンプライアンス対応を単なる規制対応ではなく、営業力強化につなげる経営基盤になり得る。

セッションは、コンプライアンス対応と営業成果の両立という難題に対し、AIとデータを活用した新しい代理店営業の姿が示されたものだった。今回紹介されたデモの内容は、実際の画面を通じて確認することもできる。

詳細・デモ動画の視聴はこちら

●問い合わせ先
株式会社セールスフォース・ジャパン
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワー(Salesforce Tower)
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