町岡さんの話は次のとおりだった。

 コンサルティング会社は、戸田さんのお寺に「霊園と納骨堂の建設」を勧めた。資金と運営はコンサル会社が紹介する霊園業者が担当し、戸田さんのお寺は宗教法人の名義で形式的な運営主体となる。つまり、運営は霊園業者が行なうかわりに戸田さんはお寺の名義を貸し、2000坪の境内地を提供するという契約だった。そして、戸田さんは霊園業者が銀行から受ける融資の保証人になった。

 ところが、霊園業者は銀行への返済の遅延を繰り返したうえ、経営破綻し、倒産に至った。霊園と納骨堂の建設事業は頓挫した。

 戸田さんには保証人として多額の借金返還義務が残った。その返済に窮した戸田さんは寺の宝を古美術商に売り、それが露見して僧籍を失ったというわけだ。

 「戸田さんのところ、檀家が300軒あったんですよ。もったいないですよね」

 町岡さんが言う。わが東法院の檀家はいまや十数軒。それにくらべると相当に恵まれている。そんな戸田さんでさえ、将来に不安を抱き、コンサル会社を頼った*わけだ。

写真はイメージです Photo:PIXTA

 「ところで、松谷さんのところの檀家って、今どのくらいですか?」

 町岡さんが唐突に話を変えた。たしかお寺の長女に婿入りした町岡さんのところは相当の大寺だったはずだ。少し盛って言おうかと思ったが、こんなところで見栄を張っても仕方ない。

 「このところ減る一方で今では十数軒ほどですよ」

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多くの住職は世襲で寺を継ぐため、一般企業における経営や財務を学ぶ機会がない。

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