「それでも僧侶ですか?」戒名授与で激怒する遺族との縁を、僧侶があっさり切ったワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

私は東北地方某県に存する東法院の住職だ。しかし現在の私は葬儀や法事に「派遣される僧侶」としてどうにか暮らしを立てている。派遣組織は、「明朗会計の安心葬儀」といったテレビCMを流す大手などの業者がある。依頼を受け、現地に赴き、布施を受け取り、導師を務め、経をあげる。後日、受け取った布施の中から、依頼元の派遣会社に手数料を振り込む。本書の内容は、私が実際に体験した事実にもとづいていることを仏に誓ってお約束する。※この記事は、松谷真純『葬式坊主なむなむ日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。ペンネームであり、宗派や寺、派遣会社の名称や登場人物などは全て仮名です。

某月某日 戒名のつけ方
「それでも僧侶なんですか?」

「気配りのお葬式」(仮名)社からの依頼だった。すでに直葬*で故人を見送った人が、戒名の授与のみを同社に依頼し、そのお鉢が私に回ってきた。「大姉号」を希望しているという。

 戒名とは、仏教において亡くなった人に授けられる名前で、死後の仏弟子としての新たな名前を意味する。もともとは出家者が仏の教えに従って生きる決意を示すときに授かるもので、「戒」とは仏の戒律を守ることを、「名」とはその誓いを体現する名を指す。つまり、戒名は、亡くなった人が仏の弟子となり、悟りの道へと進むことを象徴する宗教的な名前というわけなのだ。

 ご存じのとおり、戒名には事実上、ランクがある。本来、戒名は仏の弟子としての平等な名で上下の差はない。ところが、長い歴史の中で社会的慣習として、戒名の末尾に付く「位号」による区分が生まれた。ある宗派の例だと、下から「信士(男性)・信女(女性)」「居士(男性)・大姉(女性)」「院号居士(男性)・院号大姉(女性)」「院殿号」があり、位号が上がるほど格式が高いとされる(宗派により差異あり)。

 たとえば、「信士・信女」は一般的な信者を表す。これが「居士・大姉」になると徳の高い在家信者を意味し、さらに「院号」がつくと、寺院への貢献や社会的地位を讃える意味合いが強まる。「院殿号」は最高位で、昔は大名や豪商などに限って授けられた。

 今回の依頼は「大姉号」だ。通常、檀家寺で授与*してもらおうとすると最低でも30万円以上するし、お寺によっては50万円を超える。

 ところが、最近では格安を売りにする葬儀サービス会社なら、10万円以内で対応してくれる(その半額ほどが業者の手数料)。「気配りのお葬式」社のホームページには7万円と案内されている。

 戒名授与を希望する篠宮博子さん(仮名)に電話した。故人は俗名を篠宮定子(仮名)といい、満年齢で87歳で亡くなったこと、篠宮さんの実母であることなどは「気配りのお葬式」からメール添付で送られてきた資料でわかっている。