日米半導体サプライチェーン強靱化の要

2026年7月4日、広島県の西条盆地はあいにくの雨に見舞われたが、新たなクリーンルームの起工式が開催されたマイクロン広島工場内は高揚感に包まれていた。式典には米マイクロン・テクノロジー(以下、マイクロン)のサンジェイ・メロートラ社長兼CEOや、グローバル・オペレーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)のマニッシュ・バーティア氏に加え、赤澤亮正経済産業大臣、岸田文雄元首相、横田美香広島県知事、リチャード・ラーセン在大阪・神戸米国総領事らが出席し、ジョージ・グラス駐日米国大使もビデオメッセージを寄せた。

異例ともいえる顔触れがそろったのは、このプロジェクトが一企業の戦略を超えて日本の半導体政策の中核を担うからであり、半導体サプライチェーン強靱化における日米連携の要でもあるからだ。経済産業省は25年9月、同社のメモリ半導体の開発・製造プロジェクトに最大5360億円の支援を決定。これを受け、既存工場西側で段階的にクリーンルームを整備する長期計画が本格的に動き出した。

メロートラCEOはスピーチで、13年以来の累計投資額が240億ドルを超えたことを明かし、「新たに100億ドル、1.5兆円の投資を行います。日本における最大級の半導体投資となるでしょう」と語った。第1期工事のクリーンルーム面積は約30万平方フィート(約2万8000平方メートル)。製造装置の搬入開始は28年後半を予定しており、将来的に1000人以上の雇用も見込まれているという。

赤澤経産大臣は、マイクロンの国内における戦略的な重みをこう強調した。「半導体は経済安全保障の観点から極めて重要な戦略物資です。マイクロンはわが国でDRAMを製造する唯一の企業であり、同社への支援は、わが国の経済的自律性そのものを守ることにつながります」。

式典に合わせてビデオメッセージを寄せたグラス駐日米国大使は、「7月4日という米国の独立記念日に、マイクロンの施設増強を祝えることを光栄に思います。これは日米パートナーシップの強固さと、安全な半導体の未来への共通のコミットメントを示す歴史的な瞬間です」と述べた。

AI時代のメモリ半導体、なぜ広島が「世界の中核」なのか。1.5兆円投資のマイクロンEVPが語る10年ビジョン新クリーンルームの完成予想図(今後変更される可能性があります)

AI時代の主役は「メモリ半導体」

なぜ今、メモリ半導体がこれほどまでに重要なのか。その理由はAIの急速な普及にある。生成AIを動かすデータセンターでは、大量の計算を超高速で処理するため、桁違いの量のメモリが必要となる。例えば、AI処理の中核を担うGPU(画像処理半導体)1個に対し、HBMという広帯域メモリを12層に積層したメモリキューブが8基(計96個のメモリチップ)必要となるのだ。半導体市場に占めるメモリの構成比は、25年は28%だったが、26年には50%を超えると予測されている。メモリは、今やAI時代の半導体産業の「主役」なのである。

同社の業績がその事実を物語っている。6月24日に発表された26年第3四半期(3〜5月)決算における売上高は414.6億ドル。前年同期比約4.5倍、粗利益率は84.6%という驚異的な数字を記録している。

その最前線が、広島だ。

1988年にNEC広島として操業を開始し、エルピーダメモリを経て、13年8月からマイクロンの一員となったこの工場は、35年以上にわたり日本のDRAM開発・製造を支えてきた。22年には世界初となる1β(ワンベータ)世代DRAMの量産を開始し、さらにその後、日本で初めて量産EUV(極端紫外線)露光装置も導入。現在、世界最先端となっている1γ(ワンガンマ)世代DRAMの量産もここ広島で行っている。マイクロンは広島を「研究開発と量産機能が一体化した、DRAMテクノロジーの中核を担う最も重要な拠点」と位置付ける。

起工式を締めくくる閉会のあいさつに立ったのは、マイクロンのグローバルな製造・調達・サプライチェーン全体を統括するEVPのバーティア氏だった。マイクロンへ入社したのは17年。この日、19年の新製造棟完成、22年の1β量産開始に続いて3度にわたる「広島の節目」に立ち会ったことになる。

広島工場がマイクロンの世界戦略に占める唯一無二の役割、そしてAIスーパーサイクルが半導体産業にもたらす構造的変化、さらには10年後のビジョンについて、単独インタビューでバーティア氏に語ってもらった。

マイクロンの新たな章が広島から始まる

──本日、広島で起工式を迎えられた率直なお気持ちをお聞かせください。

非常にうれしく、エキサイトしています。13年にマイクロンとエルピーダが合併してから積み上げてきた歴史の一章が閉じられ、次の新たな章が始まる瞬間だと感じています。この13年間、広島への240億ドルという投資を経て、私たちは最先端のDRAMとHBM技術を誇る存在となりました。今日の起工式によって、このクリーンルームの増強がさらなる先端技術の開発を加速させていく。日本、そしてマイクロン広島は、今、世界の最先端にいます。

AI時代のメモリ半導体、なぜ広島が「世界の中核」なのか。1.5兆円投資のマイクロンEVPが語る10年ビジョンマイクロン・テクノロジー
グローバル・オペレーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)
マニッシュ・バーティア
(プロフィール)
米マサチューセッツ工科大学卒業、同大学院で機械工学修士号を取得。MITスローン経営大学院で経営学修士号を取得後、Leaders for Manufacturingフェロー。Western Digital Corporation、SanDisk Corporation、Matrix Semiconductorで経営幹部を務め、McKinsey & Companyではコンサルティングを担当。2017年マイクロン入社、半導体製造部門で活躍。現在、製造・調達・サプライチェーン全体を統括し、広島をはじめ米国(アイダホ州・ニューヨーク州・バージニア州)、台湾、シンガポールなど、世界6カ国以上の国と地域の製造拠点のグローバル戦略を主導する。U.S.-Japan Business Councilのボードメンバーも務める。

──現在の「AIスーパーサイクル」と呼ばれる現象を、長年この業界でキャリアを積んでこられたバーティアさんはどのようにご覧になっていますか。過去のメモリ不足の局面とは何が根本的に違うのでしょうか。

今、AIにとって大きな構造的変化が、需要の面で起きているというふうに考えています。過去にも、メモリやストレージが不足した局面はありました。2000年代のインターネット・PCの時代、09〜10年ごろのスマートフォンの時代、17〜18年ごろの第1世代クラウドの時代──それぞれに不足は起きていた。しかし現在の状況は、本質的に異なっています。

今求められているメモリは、これまでよりもさらにスピードが速く、容量が大きく、かつ消費電力が少ないものです。そしてそれを実現することによって、お客さまの製品の能力が改善されるだけでなく、ビジネスのエコノミクスまで変えることができる。つまり、私たちが提供しているのは「単なるメモリ」ではなく、「インテリジェンス」をもたらすものなのです。

この構造的変化は1年で終わるものではありません。AIが人々の仕事の仕方、暮らし方、余暇の過ごし方により一層関わっていくようになるにつれて、AIメモリの価値はどんどん上がっていく。長期的・持続的な変化だと確信しています。

──直近四半期の決算では、売上高が前年同期比約4.5倍、粗利益率84.6%という驚異的な業績を記録しました。トップマネジメントの一人として、この結果をどう評価されますか。

私たちは、まさにこの瞬間のために、何年もかけてしっかりと準備を積み重ねてきました。DRAMやNANDフラッシュの基盤技術を磨き、AI向けHBMからデータセンター向け高性能SSDまで幅広い製品ポートフォリオを構築してきたのです。これはビジョンを持って投資を続けてきた、その成果です。

同時に、世界各拠点の設備も増強し続けてきました。特に広島拠点では、1β、1γといった次世代DRAM技術の開発を進め、その実現に不可欠なEUV露光装置を日本で初めて量産に導入しています。これらは全て今日という節目を迎えるための準備です。

AIエコシステムの中でメモリが果たすことになる価値と重要性を早くから理解し、各段階でパートナーとして支えてくださった日本政府および経済産業省にも大変感謝しています。

世界最先端のDRAM開発を、ここ日本からリードしていく

──数あるマイクロンの拠点の中で、広島を特別なものにしているのは何でしょうか。

広島は13年のエルピーダメモリとの統合以前からも、35年以上にわたって優れたDRAM開発能力を培ってきた歴史的な拠点です。最大の強みは、「最先端の研究開発機能」と「DRAMおよびHBMの量産機能」が同じ場所に集約されている点にあります。これは、世界の半導体業界を見渡しても唯一無二の体制です。

さらに、広島には誇るべき三つの強みがあります。

1.    優秀なエンジニアリング人材:統合前から何十年にもわたり、この地で受け継がれてきたDRAM技術の蓄積と、高度なスキルを持つ人材が今の広島を支えています。

2.    日本政府との強固なパートナーシップ:経済産業省をはじめとする政府関係者の皆さまから、長年にわたり一貫したサポートを頂いています。投資計画を緊密に連携しながら進められる環境が、経営における確信を生んでいます。

3.    日本の装置・材料メーカーとのエコシステム:広島工場で使用する材料の約80%を日本のサプライヤーから調達しています。この緊密なエコシステムがあるからこそ、私たちは技術を迅速かつ着実に進化させることができます。

「世界最先端のDRAM開発をリードしているのは日本である」と胸を張って言える現在の状況は、これら三つの強みが重なり合って実現したものです。

──需給ギャップ、性能向上、低消費電力化といった課題に対し、マイクロンとしてどう対処するのでしょうか。広島の役割も併せてお聞かせください。

需給ギャップについては、27年を超えてもなお不足状態が続くとみています。私たちは供給を増やしていますが、需要がそれ以上のスピードで伸びているからです。こうした状況だからこそ、この広島のクリーンルーム増強への投資に、私たちは自信を持って踏み切ることができています。

性能向上と低消費電力化については、研究開発と量産が一体化した広島だからこそ取り組めるテーマです。生産チーム・オペレーションチームが一丸となって、さらに生産性を上げ、より優れた製品をお客さまに届けるべく、日々取り組んでいます。

──最後に、広島・日本の社会へのメッセージと、10年後の広島工場のビジョンをお聞かせください。

現在すでに、広島はDRAM・HBMの世界的な中心地として認識されています。10年後は、さらに私たちが投資を積み重ねることで、より多くの半導体関連サプライヤーが広島に集積し、人材のスキルアップが進み、広島県が日本はもとより世界をリードする存在になっているはずです。

AIはこれからさらに人々の生活に広く浸透し、AIメモリ半導体の重要性はどんどん高まります。日本の経済成長にとっても、人口減少を補う才能・技術という観点からも、広島、そしてマイクロンはますます重要な役割を果たすと確信しています。世界にとっても、日本にとっても、広島はなくてはならない存在になっていく。そのためのしっかりとしたチームが、広島にはあります。

●問い合わせ先
マイクロンメモリ ジャパン株式会社
https://jp.micron.com