社内の専門人材を育て上げるため、インハウス化を決断

auやUQモバイルなどの携帯電話サービスをはじめ、個人向けの金融・エネルギー、法人向けのAIやセキュリティーまで多彩なサービスを提供するKDDI。もはや“通信キャリア”の範ちゅうを超えた、社会に欠かせない存在だ。

そんなKDDIの広告・宣伝活動も、近年のデジタル化で大きく変化している。

「かつてはテレビコマーシャルなどのマス広告が中心でしたが、時代とともにインターネット広告やSNSをはじめとするデジタルマーケティングの比率が高まっています。マス広告の影響力はいまだ絶大なものがありますが、デジタルマーケティングの役割も決して小さくはありません」

そう語るのは、KDDIでBtoB向けマーケティングを統括するビジネスグロース事業本部ビジネスマーケティング本部長の馬場剛史氏である。

KDDIが挑んだ「デジタルマーケティング内製化」7年の軌跡!人材育成とコスト削減を実現した組織改革の全貌KDDI ビジネスグロース事業本部 ビジネスマーケティング本部長 馬場剛史氏

2026年3月まではブランド・コミュニケーション本部長としてKDDIのブランド統括を担うほか、au、UQモバイルなど、個人向け携帯電話サービスの広告・宣伝にも関わってきた。

当時、馬場氏は携帯電話サービスの広告・宣伝業務において、大きな改革を行っている。

それが、デジタルマーケティング業務のインハウス化(内製化)だ。

かつてKDDIは、携帯電話サービスのデジタルマーケティング業務を全て外部に委託していた。業務を回すための知見やノウハウが、社内にはなかったからだ。

「長年、マス広告を中心とする広告・宣伝活動を行ってきたので、デジタルマーケティングに精通する社員はあまりいませんでした。そこで、外部の専門会社に業務を委託していたのですが、いつまでも頼りっ放しでは、社内に知見やノウハウがたまりません。社内の専門人材を育て上げるためにも、インハウス化にかじを切るべきだと判断しました」と馬場氏は明かす。

とはいえ、ほとんどゼロの状態から、自分たちだけで業務をインハウス化するのは難しい。そこでKDDIは、グループ会社であるデータテック企業、Supership(スーパーシップ)の支援を仰ぐことにした。

15年にスタートアップ3社が合併して創業したSupershipは、データとテクノロジーを活用してマーケティング活動を高度化する多様なサービスとプロダクトを提供している。

その一つが、デジタルマーケティング業務のインハウス化を伴走支援するサービスである。

KDDIは19年、Supershipから3人の専門人材を受け入れ、インハウス化への取り組みを本格的に開始した。以下、今日に至る7年間の軌跡を見てみよう。

データを有効活用できる基盤を整え、活用ノウハウを移転する

KDDIからの要請を受けてSupershipが派遣した人材の1人が、現在、同社の執行役員で広告プロダクト事業領域とデータソリューション事業領域の事業部長を務める髙橋陽輔氏である。

17年ごろからKDDIに出向しデータ基盤の構築支援に携わっていた髙橋氏は、その経験を生かして、インハウス化のプロジェクトをリードすることになったのだ。

「デジタルマーケティングとデータ活用は切っても切り離せません。データ基盤を整えていたので、それに基づくマーケティング戦略の立案、プランニング、運用、レポーティングを一貫して行うことができました。われわれ自身がそれをやるだけでなく、KDDIの現場の社員の方々と一緒にやることで、知見やノウハウを少しずつ移転し、インハウス化を実現させていきました」(髙橋氏)

KDDIが挑んだ「デジタルマーケティング内製化」7年の軌跡!人材育成とコスト削減を実現した組織改革の全貌Supership 執行役員 広告プロダクト事業領域 事業部長 兼 データソリューション事業領域 事業部長 髙橋陽輔氏

Supershipは、デジタルマーケティングの効果を最大化するDSP(Demand-Side Platform)、SSP(Supply-Side Platform)などの広告配信システムや、社内外の膨大なデータを基に企業のマーケティング活動を最適化するDMP(Data Management Platform)などのプロダクトを提供している。それらを活用しながら、顧客企業ごとのデジタルマーケティングの“勝ち筋”を創り上げられるのが、大きな強みだ。

最初は髙橋氏ら3人で始まったプロジェクトだが、常駐人材は少しずつ増え、最盛期には一つのチームの半数近くをSupershipの人材が占めるまでになった。

KDDIが挑んだ「デジタルマーケティング内製化」7年の軌跡!人材育成とコスト削減を実現した組織改革の全貌データの活用から始まり、運用領域の拡大を経て、人材育成・ナレッジ移転を含む広告宣伝領域全体の伴走へと支援を拡大
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普通なら、外部から派遣されてくる人材は「外注スタッフ」と見なされ、 チームの中で線引きされかねない。

だが、受け入れたKDDIの馬場氏は、「社員たちには、『委託先』や『外注先』といった捉え方ではなく、『自分たちの仲間の一人』として迎え入れてほしいと求めました。対等な関係でなければ、腹を割って話し合うことはできませんし、相手が持つスキルや経験を真摯に学ぼうとする姿勢も生まれないと考えたからです」と語る。

ノウハウを吸収し、自走できる体制を確立したいという思いの強さが、こんなエピソードの中にも見え隠れする。

社内人材のスキルやエンゲージメントが向上

一方で、KDDIに常駐したSupershipのスタッフたちも、馬場氏やマーケティング部門の社員たちと思いを共有し、「仲間の一人」として伴走支援に努めた。

「自分たちの利益を追求するのではなく、『KDDIのために何をすべきか?』という発想の下で支援を行いました。KDDIの社員の皆さんは、デジタルマーケティングの専門家ではないかもしれませんが、業務課題に対する認識は非常に明確で、『こうあるべきだ』という目的意識も強く持っておられます。一方で、われわれは課題を解決し、目標を達成させるための実務的なノウハウを持っています。互いの力を持ち寄り、目指す方向性を共有することで、一丸となった取り組みが実現できたと思います」(髙橋氏)

「仲間」であると同時に、Supershipは外部からの視点を持っている。その立場から課題や問題点を客観的に抽出し、解決するための提案ができた。

「具体的には、デジタルマーケティングの実務だけでなく、組織の在り方や運用体制の見直しといった、より上位のレイヤーに至るまで提案させていただきました。デジタル人材を育成するための研修制度の設計もお手伝いしています」と髙橋氏は語る。

KDDIが挑んだ「デジタルマーケティング内製化」7年の軌跡!人材育成とコスト削減を実現した組織改革の全貌内製化とは、全てを自前化することではなく、戦略・運用判断・知見をグループ内に残すこと
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以上のような7年間にわたる伴走支援を経て、KDDIは目標としていたデジタルマーケティング業務のインハウス化を実現した。

その成果について馬場氏は、「Supershipが整えてくれたデータ基盤を活用しながら、自分たちの手で高度な施策を実行できる体制が整いました。社内にデジタルマーケティングのノウハウがしっかりと根付いたことこそが、最も大きな収穫だと感じています」と評価する。

実際、社員個人のスキルスコアは向上。加えて、チーム全体のエンゲージメントスコアもKDDI内でずばぬけて高くなったという。

「日常的に肩を並べて会話をし、自分にはない専門性を持つパートナーから刺激や学びを得る。そうした環境が、個人の成長や仕事への手応え、やりがいにダイレクトにつながったのだと感じています」(馬場氏)

こうした組織や人の変化に加え、馬場氏は、「外部の専門会社に支払っていた費用がなくなり、年間数億円単位のキャッシュアウトが消滅したことも効果の一つです」とも語った。その他、キャンペーンごとにバラバラだった広告データを一元管理・分析できる環境が整ったことで、効果の可視化が可能になり、経営層に対して根拠を持った投資説明や予算獲得ができるようになったという。

大手企業向けの伴走支援サービスを正式に提供開始

Supershipは、KDDIへの支援実績を踏まえ、大手企業向けの広告運用インハウス化伴走支援サービスを正式に提供開始した。

「デジタルマーケティングに欠かせないデータ基盤の構築から、それを使った広告配信まで、技術と運用の両面で支援できるのがわれわれの強みです。一般的なコンサルティングファームのようにただ提案をするだけでなく、実務経験を持つ人材がお客さまのそばに常駐し、伴走支援する実行力を持っていることが大きな価値であると自負しています」と、サービスの魅力について説明するのは、Supershipビジネスコンサルティング事業領域事業部長兼アドオペレーション統括の種木将之氏である。

KDDIが挑んだ「デジタルマーケティング内製化」7年の軌跡!人材育成とコスト削減を実現した組織改革の全貌Supership ビジネスコンサルティング事業領域 事業部長 兼 アドオペレーション統括 種木将之氏

種木氏は、インハウス化の本質的なメリットについて、「コストの抑制だけではありません。最大の価値は、社外にあったノウハウが自社に蓄積され、広告効果の改善と意思決定のスピードアップが実現することです」と語る。

「私たちは常駐を通じてクライアントと伴走し、課題を理解した上で一緒に運用を実行します。事業の戦略や課題を理解した上で実行するのと、KPIだけを渡されて動くのとでは、明らかにクオリティーが変わります」と髙橋氏も付け加える。

DSP、SSP、DMPといった、データ活用のためのさまざまなプロダクトを持っているSupership。例えば同社のDMPである「Fortuna(フォーチュナ)」は、約3億5000万IDにも及ぶパブリックデータと社内データとを掛け合わせ、それを基により高度なデジタルマーケティング施策が打てるサービスだ。

同社がこうしたデータ基盤の構築・活用を事業の根幹に置く背景について、種木氏は、「AIがますます重要になる今、その精度や質を左右するのはデータです。データ基盤を整え、そこからアウトプットを引き出す業務こそ、私たちが力を発揮できる領域です」と説明する。

データの活用領域も、広告配信にとどまらない。「顧客との接点は、認知・集客を担う広告だけでなく、契約前後のナーチャリングも重要です。CRMを活用しながら、この両方をデータ基軸で一元的に捉えることで、LTV(顧客生涯価値)を高めるマーケティングを展開できると考えています」(種木氏)

こうしたデータを扱う業務の性質上、クライアントが持つ機密データに深く踏み込むことになる。だからこそ、Supershipは、インハウス化支援として顧客企業と伴走し、信頼関係を築きながら課題解決に当たることが不可欠だと考えているのだ。

「インハウス化に伴走して単に運用を引き継ぐだけでなく、クライアントのマーケティング力が社内に根付くまで寄り添い、事業成長に貢献していきたいと考えています」(種木氏)

デジタルマーケティング業務のインハウス化は、企業の成長のために欠かせない取り組みの一つとなりつつある。

KDDIの馬場氏は、「人が一番の資本。社内人材の専門性やスキルを上げることが、会社にとって重要です。Supershipの伴走支援は、その力を与えてくれる頼もしい存在だと思います」と語った。

●問い合わせ先
Supership株式会社
https://supership.jp/