感想戦とは何か――敗者が切り出す、もう一つの対局

将棋最高峰のタイトル戦の一つである「竜王戦」で、2024年、25年と2年連続で挑戦者となり、26年には、トップ棋士12人による早指しトーナメント戦である「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」で決勝進出を果たすなど、多くの将棋ファンを魅了する佐々木勇気八段。

「勝負の世界なので、勝つこともあれば、負けることもあります。たとえ負けたとしても、次の対局まで悔しさを引きずらないことが大事だと思っています」

16歳でプロ棋士となり、32年の人生の半分をプロとして過ごしてきた佐々木八段は、数多くの対局を通じて得た心の持ちようを、そんなふうに語る。

とはいえ、負けた直後には、やはり言葉にできないほどの悔しさが込み上げるものだ。それが冷めやらぬ中で、対局の直後に行われるのが「感想戦」である。

感想戦とは……

対局が終わった後、対戦した両者が将棋盤を前に座り直し、「あの局面ではこう指すべきだったか」「あそこで別の手を選んでいたら?」と指し手を振り返る将棋独自の習慣のこと。

勝敗にかかわらず互いの読み筋や考えを共有することで、次の対局への学びを深める場となっている。プロの世界では対局後に行われるのが慣例で、1時間以上に及ぶこともある。

佐々木八段:正直、「負けました」と言って、相手に頭を下げるのはつらい。でも、数秒間の沈黙の中で頭を切り替え、敗者の側から「ここは、こう指すべきだったでしょうか?」と問いかけを始めるのです。

悔しさがまったく残っていないわけではありませんが、相手がどんな筋を読んでいたのか、違う手を打っていれば形勢はどう変わっていたのだろうか、という気付きや発見が得られるので、悔しさに勝る“学び”があると感じています。

学んだことが、そのまま次の対局に生かせるとは限らない。対戦する相手や、その時々で局面は大きく変わるからだ。

時間がたち、幾つもの対局を重ねるうちに、「あの対局で何を学んだのか?」ということすら忘れてしまうこともある。

しかし、「目の前の局面を眺めているうちに、頭の奥に埋もれていた記憶がふっとよみがえり、勝ちにつながる一手となることがあります。潜在的に積み重ねられた“学び”が、突破口を切り開く直観力を生み出すのです。そう考えると、感想戦は棋士にとって、自らの直観力を養う貴重な機会だといえるのではないでしょうか」と佐々木八段は語る。

この考え方は、ビジネスの世界にも通じるものがある。例えば、経営の神様と呼ばれる松下幸之助は、直観力に基づく経営判断は、修練を積み重ねるほど科学では及ばぬほどの正確性を持つと説いている。

経営のセンスを高める上でも、経営判断ごとの振り返りと“学び”を愚直に積み重ねていくことが大切だといえるのではないか。

佐々木八段:数あるボードゲームの中でも、対局の後に感想戦を行うのは将棋などごく限られたものしかありません。長い歴史と伝統の中で感想戦という文化が定着したのは、それが「意味あること」だと先人の方々が認識されたからでしょう。

私は棋士の一人として、将棋の伝統と文化に誇りを持っています。ただ強くなるだけでなく、将棋の魅力や楽しさを次の世代を担う子どもたちに伝えることで、その伝統と文化を守っていきたいと思います。

一流の棋士が負けた後の「感想戦」に向き合うマインドとは――佐々木勇気八段に聞く、心を豊かにする将棋の力

47年間にわたって「将棋日本シリーズ」を応援するJTグループ

かくいう佐々木八段自身も、幼少期から将棋を始めている。1994年にスイスのジュネーブで生まれ、埼玉県三郷市に移り住み、5歳のときに初めて将棋盤に向かった。

その後めきめきと腕を上げ、小学校3年生(9歳)になった03年に「将棋日本シリーズ テーブルマークこども大会」の東京大会 低学年部門で優勝している。

翌04年には同じ東京大会の高学年部門でも優勝し、これをきっかけにプロ棋士への登竜門である日本将棋連盟の「奨励会」に入会した。わずか10歳のときだ。

佐々木八段にプロ入りへの道を開いた「テーブルマークこども大会」は、JTグループ(日本たばこ産業)が80年度から協賛をしている「将棋日本シリーズ」の子ども向け大会である。

当時、日本将棋連盟会長であった大山康晴十五世名人の「棋士によるタイトル戦に匹敵するような真剣勝負を、各地の将棋ファンにお見せしたい」という思いが、同シリーズの創設につながった。

「将棋日本シリーズ」には、「テーブルマークこども大会」の他に、トップ棋士がトーナメント戦を争う「JTプロ公式戦」がある。

出場できるのは前回優勝者と、日本将棋連盟公式戦(竜王/名人/叡王/王位/王座/棋聖/棋王/王将)のタイトルホルダー、および前年度賞金ランキング上位の棋士の合計12人のみ。170人以上いるプロ棋士のうち、1割にも満たない「プロ中のプロ」しか参加できない狭き門だ。

タイトル戦と違い、持ち時間が限られた早指しトーナメント戦であることも「JTプロ公式戦」の特徴だ。その分、よりスピーディーでスリリングな対局が繰り広げられることが、多くの将棋ファンを魅了している。

JTグループは、この二つの大会で構成される「将棋日本シリーズ」に47年間にもわたって協賛をしている。

その根底にあるのは、将棋という日本の伝統と文化に育まれたゲームをより多くの人に楽しんでもらい、心の豊かさを育んでもらいたいという思いだ。

JTグループは、「心の豊かさを、もっと。」というグループパーパスを掲げている。その実現に向けて、さまざまな事業や取り組みを通じ、人々の心の豊かさに貢献することを目指している。その一環として「将棋日本シリーズ」を応援し続けているのだ。

将棋は子どもから大人まで、誰もが楽しめるゲームであり、見る、指す、教え合うなど、さまざまな楽しみ方ができる。そんな日本固有の伝統と文化に育まれた素晴らしいゲームをしっかり伝承し、より多くの人々に「心の豊かさ」につながる楽しい「とき」を過ごしてもらいたいというのが、半世紀近くたった今も変わらないJTグループの願いなのである。

一流の棋士が負けた後の「感想戦」に向き合うマインドとは――佐々木勇気八段に聞く、心を豊かにする将棋の力2026年9月26日に行われた「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」大阪大会での準決勝、佐々木勇気八段対斎藤慎太郎八段の対局。勝った佐々木八段は11月29日(日)に行われる決勝戦(関東大会)への進出が決まった
一流の棋士が負けた後の「感想戦」に向き合うマインドとは――佐々木勇気八段に聞く、心を豊かにする将棋の力同日開催された「テーブルマークこども大会」。羽織はかまを着て対局することが子どもたちにとって特別な経験となる

より多くの子どもたちに将棋を好きになってもらいたい

「テーブルマークこども大会」の東京大会で2度優勝した佐々木八段にとって、自らの棋士への道を開いてくれたこの大会には忘れ難いものがあるようだ。

佐々木八段:まだ小さかったので、「プロになりたい」という思いはそれほど強くなかったのですが、結果として今につながっているので、振り返ってみれば大きな節目だったのだと思います。

それよりも、たくさんの子どもと仲良くなって互いに切磋琢磨できたことや、棋士のように羽織はかまを着て、プロと同じ将棋盤や駒を使って指せたのがうれしかったし、誇らしかったですね。

かつて「テーブルマークこども大会」で対局した相手の中には、同じようにプロ棋士となり、今も戦い続けている人もいる。ライバルではあるが、志を同じくする仲間でもあり、交わり合うことで互いの「心の豊かさ」を高め合える存在であるとも感じている。

また、羽織はかまをまとい、プロの将棋盤と駒に触れたことは、「子ども心にも、将棋の伝統と文化の深さを感じさせてくれる貴重な経験でした」と佐々木八段は明かす。

佐々木八段:同じような経験をできるだけ多くの子どもたちが味わって、自分たちに続く世代がどんどん増えてくれるとありがたいですね。その機会を半世紀近くにわたって支え続けてくれているJTグループには感謝しかありません。

将棋は親子で楽しめるゲームであり、最近では子どもの情操教育のために将棋を学ばせる家庭も増えているようだ。

佐々木八段も、将棋の教育面での効用についてこう語る。

「決断しなければならない局面を何度も経験することで『勝負強さ』が養われるかもしれませんし、負けの悔しさを知るので、相手を思いやる心や、優しさも育まれるのではないでしょうか。大会に出場するようになれば、礼儀作法も身に付くはずです」

25年、佐々木八段は「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」に初出場を果たした。先述の通り、同大会は上位12人のプロ棋士しか参戦できない狭き門なので、「テーブルマークこども大会」と「JTプロ公式戦」の二つに出場できた棋士は極めて少ない。

佐々木八段:子どものときに参加した大会の記憶がよみがえって、とても感慨深いものがあります。惜しいところで何度も出場権を逃し、ようやく出られた大会なので精いっぱい頑張りたいですね。

日本の伝統と文化の継承を支え続けるJTグループ協賛の「将棋日本シリーズ」に挑む佐々木八段は、最後にこう言葉を添える。

「棋士って将棋を指すことしかできないですけど、その姿を見て、ちょっとでも将棋の世界に興味を持ってくれる子が増えたら、対局者として本当にうれしいです」

将棋日本シリーズをチェック!

●問い合わせ先
日本たばこ産業株式会社
〒105-6927 東京都港区虎ノ門4-1-1
TEL:03-6636-2914
https://www.jti.co.jp/
 

●「将棋日本シリーズ」に関するお問い合わせ
総合事務局
TEL:03-5166-0290
受付時間:10:00~18:00(土日祝日除く)