DXの裏で起きていた作業の複雑化とAI導入の落とし穴

多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだ結果、皮肉にも現場では「システムが増え過ぎたことによる業務の複雑化」という新たな問題が発生している。

インターネットを中心とした非対面サービスを展開してきたオリックス銀行も例外ではない。同社は2017年ごろから社内システムのクラウド化を推進し、クラウド化率98%を達成するなど紙やアナログ業務のシステム化を進めてきた。だが、その裏で、社員が複数のシステムをまたいで作業しなければならない状況が生まれていたのだ。システム間のデータの受け渡しは手作業のコピー&ペーストに頼り、全体として不便な業務環境になっていた。

「本来、現場の社員は、企画を立案したり、お客さまを訪ねるといった業務に時間を使うべきです。ところが現実には、複雑化したシステムの使い方を覚えたり、正しい手続きを調べる作業に膨大な時間が費やされていました」と、オリックス銀行システム第二部長の髙橋裕樹氏は振り返る。

AIの成果が出る会社と出ない会社の違いは? オリックス銀行の実践に見るAI変革の勘所オリックス銀行
システム第二部長
髙橋裕樹氏

では、そこに最新のAIを投入すれば課題は解決するのだろうか?単にAIを導入して個人の作業スピードが上がったとしても、それだけでは企業としての経営成果には表れにくく、効果の測定すら困難、と髙橋氏は冷静に分析する。

「仮に5分で1件だった処理が5分で2件できるようになっても、それで人件費などの固定費が直接下がるわけではなく、結局『局所的な効率化』で終わってしまうものです。だからこそ、単なる作業時間の削減ではなく、人間では不可能だったことの実現や、売り上げ・品質といったトップラインの向上という別の本質的な成果を目指す必要があります」(髙橋氏)

つまり、経営成果を生み出すAI活用を実現するには、まず前提となるシステム乱立の解消が不可欠だったのだ。この課題に対し、同社には二つの選択肢があった。全てのシステムを一からきれいに作り直すか、それとも既存のシステム同士をうまく「つなぐ」かである。

一から作り直さない。既存システムを“つなぐ”という選択

膨大な時間とコストがかかる一からの作り直しは現実的ではない。そこで同社は既存のシステムを生かしたまま、スムーズにつなぐ回路を作る、という戦略を選択した。そして、この「乱立したシステム同士をうまくつなぐ基盤」として選ばれたのが、企業のシステム・データとAIをつなぎ、現場主導の業務変革を支えるプラットフォーム「Workato(ワーカート)」である。

Workatoは、社内に散在するさまざまなシステムやデータをプログラミングなし(ノーコード/ローコード)でスムーズに連携させ、業務プロセス全体を自動化・制御できるプラットフォームだ。専門知識がなくても画面上で直感的に処理を組み立てられる扱いやすさと、金融機関の複雑な処理までカバーできる拡張性を兼ね備えている点が大きな特徴である。

この「つなぐ力」に加え、比較的覚えやすく、幅広いことができるWorkatoを前提に置くことで、同社は開発のアプローチも大きく見直すことができた。

まず、従来型の外部発注だけに頼るのではなく、内製リソースを中心とする開発へと軸足を移した。日々進化するAIのスピードに追い付けず、自社にノウハウもたまらないからだ。

「外部へ丸投げしてわれわれが何も理解できない状態と、自社でノウハウを理解した上で進める状態とでは全く違います。変化の速いAI時代だからこそ、自社の内製リソース中心で開発を回し、社内に技術力と知見を蓄積していくことが不可欠です」と、オリックス銀行執行役員の清水直彦氏は内製開発の意図を語る。

AIの成果が出る会社と出ない会社の違いは? オリックス銀行の実践に見るAI変革の勘所オリックス銀行
執行役員 システム第一部、システム第二部、IT統括部、事業統括部
情報セキュリティ統括部、ビジネスサポート部 管掌
清水直彦氏

併せて、開発をIT部門だけに任せる構造も見直した。どの業務に課題があり、何を変える必要があるかを知るビジネス部門自身が、開発に主体的に関わることが重要だからだ。

そこで同社では、現場のビジネス部門がIT部門と一緒に画面を見ながら開発を進める体制をつくった。比較的覚えやすく、幅広いことができるWorkatoの特性も、プログラミング未経験の現場社員が加わる上で力となった。

「簡単なツールはできることが限られ、自由度の高いツールは覚える労力が大きい。扱いやすく、幅広い業務に対応できる点でWorkatoが当社に一番合っていました」と髙橋氏は語る。

さらに同社では、「PoC(概念実証)」を前提とせず、最初から本番化を見据えてプロジェクトを進める考え方を重視している。検証を省くのではなく、先行事例や技術情報を事前に十分に調べ、実現可能性の確度を高めた上で取り組む。PoCそのものが目的化することを避け、最初から「本番運用で成果を出す」ことにコミットするためだ。

ここでも、Workatoの扱いやすさが役立った。画面上で素早く試作や修正ができるため、事前の確認作業からそのままスムーズに本番運用へと移行できる。大がかりな検証期間を挟むことなく、スピード感を持って現場への実装を進めることができたのだ。

AIエージェントに「社員証」を授与。成果を生む組織文化のつくり方

ビジネス部門が主体性を持ってAI活用を進めるに当たり、同社が重視したのが、AIエージェントを現場にどう受け入れてもらうかという点だ。単なる便利ツールやアシスタントとして現場に配るのではなく、「社員と対等に協働する新入社員(デジタル社員)」として迎える考え方を打ち出したのだ。

その象徴的な出来事が、融資書類のチェック支援エージェント「totsuGO(トツゴー)くん」の公開当日に開催された「入社式」である。

融資審査では、膨大な量の稟議書類と管理シートの数値が一致しているかを人間が手作業で確認しており、営業管理職の稼働時間の約3割がこの確認作業に奪われていた。そこで、書類の文字や数字を自動で読み取り突合(トツゴー)するAIとして開発されたのが「totsuGOくん」だった。

公開当日、Workatoのキャラクターにスーツを着せた社員証が用意され、髙橋氏自らが祝辞を述べて現場に授与する入社式が執り行われた。「IT部門が作ったツールではなく、共に働く新入社員です。現場で使いながら一緒に育ててください」というメッセージを伝えることで、現場が主体となってAIを温かく迎え入れ、自ら育てていく組織文化を育んだ。

これらの取り組みが実を結んだ一例が、投資用マンションローンの営業審査支援エージェントだ。「現場担当2人・IT担当3人」のわずか5人のチームが、Workatoを活用することで約6カ月という短期間で本番稼働まで立ち上げた。

従来、営業担当者は不動産会社から届く物件チラシの内容を手入力し、過去の取り扱い履歴や周辺情報と照合する作業に追われていた。だが本来、営業が集中すべきは顧客との対話や判断業務であり、情報の入力や検索に時間を奪われるのは大きな課題だった。

これをWorkato上のAIエージェントが代替。チラシからの自動情報抽出、社内データベース(Salesforceなど)との照合、さらには判断レポートの作成までを自律的に実行する。担当者は届いたレポートを確認して最終判断を下すだけでよくなり、年間で約2500時間相当の営業稼働の削減が見込める大きな成果を生み出している。

勝手な乱立とコスト膨大化を防ぐ「AIに何でもやらせない」全社ガバナンス

「現場が自らAIエージェントを作る」という取り組みが全社へ広がるにつれて、経営層が次に直面するのが、社員が勝手に作った不完全なAIが乱立するリスクや、社内ルールの形骸化、そして「AI利用料(コスト)の膨大化」という新たな壁である。

特に厳格なセキュリティーと正確性が求められる金融機関において、意図しない誤処理や情報の不当アクセスは絶対に避けなければならない。

この課題に対し、IT部門の役割も大きく変化した。従来の「現場から要望を聞いて作る請負役」から、「ビジネス課題を理解する現場が安心・安全に挑戦できるよう環境を整えるガードレール役」へとシフトしたのだ。

全社共通基盤としてのWorkatoは、この安全管理とコスト最適化を両立させる「AI制御・実行基盤(Control &Execution Plane)」として威力を発揮する。

Workato上ではAIが実行できる処理をあらかじめ制限できるため、意図しない暴走や不正アクセスを未然に防ぐことができる。

さらに、コスト最適化にも大きく貢献する。全ての作業をAIに任せるのではなく、決まったルール通りのデータ転記などは従来のプログラムに低コストで処理させ、高度な判断が必要な部分だけをAIに任せる使い分けが可能だからだ。

単純な作業まで高価なAIに処理させて無駄なコストを発生させてしまう企業も多い中、Workato上で従来プログラムとAIを組み合わせることで、処理の正確性を保ちながらAI利用料を大幅に抑えることができる。

オリックス銀行は今後、AIエージェントの全社展開をさらに加速させる。まずは全社35部署で1部署当たり二つ程度を展開し、これを足掛かりにさらなる活用拡大を目指す。すでに現場の部長自らがAI活用に前向きに関わり、プロジェクトに加わるケースも出てきているという。

清水氏が最後に強調したのは、ツールの性能そのものよりも、AIという大きな変化を柔軟に捉え、組織として変化に対応し続けることの重要性だ。

「AIの登場は、インターネットやスマートフォンに続く大きな時代の転換点です。この変化を柔軟に捉え、息切れすることなく粘り強く取り組み続けていくしかありません」(清水氏)

成果が出る会社と出ない会社の差は、AIの性能よりも、それを使いこなす仕組みと姿勢にある。現場が主体となってビジネス課題を解決し、IT部門と共通基盤がその安全とコストを支える。オリックス銀行の実践は、AI時代における企業変革の確かな答えを示している。

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●問い合わせ先
Workato株式会社
〒100-6609 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー9F
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