早めに合格校を確保しようという動き

 まず総括として小学部教務本部長の西川敦先生が登壇し、2024年度入試の受験生の動向と来年度以降の受験に向けての展望を解説した。

受験率が上昇、男女ともに「安全志向」が目立つ

 全国的に少子化が進んでいるが、首都圏においてはその減少は緩やか。2月1日午前の受験者数を、首都圏1都3県の公立小学校6年生の在籍者数で割って求めた「受験率」は少しずつ上昇してきており、今年度は昨年度よりも0.26ポイント高い18.12%だった。今後も、当面の間は首都圏の中学入試は厳しい状況が続くことになる。こうした状況を受けて、今年度は男女ともに「安全志向」が目立った。

 男女ともに共通していたのは「早めの日程で合格校を確保しようとする動き」1月入試や2月1日・2日の午後入試などを活用して、合格校を早めに確保する動きが顕著だった。

 サピックス生の今年度の平均受験校数は6.0校で、昨年度よりも0.2校増加した。これは1月中の平均受験校数が増加したことによる。また、2月中の午後入試の平均受験校数は昨年度と変わらず0.9校で、これらのデータからも先ほど述べたような受験生の動きが読み取れる。

男子では「チャレンジ層」の回避、女子では第一志望校の多様化が見られる

 男子については、人気校の中で難化が予想された学校がいくつかあり、そうした学校で「チャレンジ層」の回避が目立った。具体的には駒場東邦と早稲田で、もともと人気の高い両校だが、昨年度のサピックスの公開模試「学校別サピックスオープン」では、その前年度に比べて15~25%ほど両校の受験者数が増えた。しかし、実際の入試の志願者数は、昨年度より3~5%程度の増加にとどまった。これは、模擬試験の段階で人気上昇が明らかであったため、難化を警戒して、「チャレンジ層」が回避した結果と考えられる。

 筑駒は今年度から学区域が拡大され、より多くの地域から受験できるようになったが、実際の入試の志願者数は昨年度より5.3%の増加にとどまった。学区域が広がった分に応じて増えたという印象。「学校別サピックスオープン」の段階から受験者数はさほど増えていなかったため、志願者数としては予想通りの結果だった。

 一方の女子については、近年、上位層が第一志望校に選ぶ学校の多様化が進んでいる。そうした状況の中、今年度も桜蔭、女子学院、雙葉のいわゆる「女子御三家」の人気は根強かった。伝統校の普遍的な教育方針に魅力を感じている方が依然として多く、それが御三家の変わらぬ人気につながっていると感じている。

 なお、2026年度入試においては2月1日が日曜日になる。ミッション系の学校は、日曜日に試験をすることを避ける傾向にあるため、2月1日が日曜日だった前回の2015年度入試では、女子学院や立教女学院などが試験日を別の日に移動させた。入試日程の変更や受験生の動向変化に注意してほしい。

 来年度以降の受験に向けて、志望校選びはできる限り子どもと一緒に学校に足を運び、子どもに合う学校を見つけてほしい。子どもの「この学校に行きたい」という気持ちを大切にしてほしい。

 中学入試の出題レベルは長いスパンで見ると難化している。自分で考える、自分で表現することが高いレベルで求められている。子どもと接する際は、サポート役に徹することが成功の秘訣。

 伸びる生徒は、「志」に向かって「ひたむき」に努力する生徒。また、授業への参加度が高い生徒。サピックスは生徒がたくさん考え、たくさん書いてもらうという、生徒が主役の塾。サピックスは授業を大切にし、授業を通して生徒をたくましく育てていくこと約束するとのことだ。

「見たことがあるが難しい」の増加 

 統括の後は、2024年度の入試問題について、各教科の担当教師が解説をした。

算数は典型題が多かったものの、難易度は高い

 算数は小島先生。はじめに全体的な傾向として、それまでに一度も触れたことがないような斬新な問題は少なく、いわゆる典型題で勝負が決まっている。近年増加傾向にあった典型題にひとひねりを加えた出題については、今年度は控えめだった。ただし、丸暗記した解き方に数値をあてがうだけで正解できるものは少なく、設定に従って適切に解法を運用する必要がある題材や、高い練度を要求する問題が選ばれる傾向にある。

 次に注目問題として、「日頃から数に対して興味・関心を持つことで有利になる問題」、「知識に加えて、自分で作図をするなどの対応力が求められる図形問題」が挙げられた。「意欲的な姿勢と正しい取り組みの積み重ねによる、ゆるぎない底力をつけることが大切」とまとめたうえで、最後に「サピックスは今後も積極的に取り組める授業と、学習効果の高い教材・テストを提供し、生徒が万全の状態で受験を迎えられるようサポートしていきたい」と締めくくった。

国語にはその学校の求める生徒像が表れる

 国語は加納先生。入試問題には、学校がどんな生徒を求めているかが表れるが、それが特に顕著なのが国語である。筑駒の問題文には「人の気持ちを理解するために努力することが大切である」とあった。難題に直面した時に、しっかりと考え続けてほしいというメッセージが読み取れる。

 今年度の説明文では「安易にわかろうとせず、わからないまま考えていく」ことや「正しいとされる価値観に対して自分で考え、立ち向かう」ことの大切さを述べた問題文が目立った。物事の本質を考える問題も多く、アリストテレスやニーチェ、カントといった哲学者を扱う問題文も目立った。

 多様で難度の高い問題が多く、その対策としては、わからなくても自分なりに考え、粘り強く問題に向き合うことが大切だ。サピックスには、入試を乗り越える力を育成する教材と環境が用意されているとのことだ。

理科は難易度の高い典型題が、4分野で偏りなく出題

 理科は藤原先生。今年度の理科の傾向は「まんべんなく、バランスよく出題された」である。物理・化学・生物・地学の4分野で偏りが少なく、苦手分野で大きな穴をつくらない学習が重要であった。例えば、電気やてこの計算は得意だが、生物や地学分野の知識は苦手だという受験生は苦労した入試だった。

 出題内容はオーソドックスな典型題が多くを占めたが、年々その典型題の難度が上がっている。例えば物理分野では、女子学院や豊島岡、聖光学院で出題された空気の浮力を考える問題が挙げられる。そのため、難度が上がっている典型題を確実に正答できるような日々の学習の積み重ね、たゆまぬ努力が重要だ。

 それに加え、いわゆる「初見」といわれるその場ではじめて見る問題にも対応しなければならない。また、従来の傾向を踏襲するものだが、身の回りの生活に関係するものを題材とした出題も多く見られる。

 理科の入試にもトレンドはあるが、サピックスではそれを織り込んだ授業・テキスト・テスト、そして動画を提供している。テキストにある二次元コードを読み込むと、内容に関連する実験や観察などの動画を見て学習できる。スパイラル方式で生徒の時期や学力に合った学習ができるようになっているので、サピックスを信じ、日々の授業と家庭での学習を大切にしてほしい。

社会では知識に加え、多角的に粘り強く考える力が求められる

 社会の分析を担当した武井先生は、今年度の入試で求められた3つの点を中心に話を進めた。1点目が「知識を得ることの貪欲さ」である。サレジオ学院中の「荒物屋が取り扱う品」を問うた出題に対しては、机上の学習以外からも知識を得ていくことや、さまざまなことに興味を持ち、それを放置せずに知識を得ていくことが大切である。

 2点目が「粘り強く考え抜く力」である。例えば、気候に関する雨温図の出題では、受験生が見たことのあるグラフではなく、日照時間を示したり、情報を提示する月を少なくしたりした出題が増えている。こうした切り口を変えた出題に対しては、粘り強く資料を分析することや、覚えた知識を何とか使おうと考え抜くことが大切である。

 3点目について、近年は小学生を社会の一員と捉え、話題の出来事や社会問題をさまざまな視点から分析したり、改善案など考えたりするような出題が見られる。そのために、「多角的に考える力」を養っていくことが重要である。そして、こうした姿勢や力を得るために、サピックスの教材やテストを通じてたくさん悩み考え、授業で教師との対話を重ねていくことがもっとも重要であると話し、講演を締めくくった。

サピックスの入試分析会に参加して

 算数の解説の途中で、図形に自分で描き込む問題が取り上げられた。配布された資料の中にも掲載されている問題だ。ペンで線を描き込み、解こうとしている保護者たちが目に入った。実際に問題を解いて、問題を理解しようという保護者層であることがわかる。講師たちの「サピックスを信じて」という言葉に、きちんと応えることができる保護者たちの姿が印象的であった。