総合型選抜で慶應に合格した先輩たちから学ぶ

 まずはカドデ推薦塾の代表で、総合型選抜で慶應に合格した山永絵里香さんが登壇し、ワークショップの目的が語られた。

「参加者にはこの夏から対策に取り組んでほしいのですが、まず合格するイメージをつかむ。2つ目は自分の合格戦略を立てましょう。3つ目は受験を経て大学を卒業したのちの、人生の道筋を立てましょう。この3つが今回のイベントの課題です」

 それらを考えるためには、何はともあれ先輩たちの体験が知りたい。そこで総合型選抜で慶應に入学した学生たちが自分の体験を語った。

アスリートのキャリア支援政策を高校時代から研究

 慶應義塾大学法学部政治学科の女子学生が登壇した。高校2年生から1年間、アメリカに留学した。スポーツが好きだったことから、「アスリートのキャリア支援政策を、日本とヨーロッパの政策比較という形で研究する」というテーマを立ち上げた。

 優秀な成績を残したアスリートも、大学卒業と同時に引退することが多いと知り、それをどうにかできないのかと思ったのがきっかけだという。論文を読んだり、アスリートにインタビューをしたりし、研究を続けた。これを志望理由として法学部のFIT入試に合格した。

 次にカドデ推薦塾のチーフ講師で、文学部の城山寛介さんが自分の体験を語った。県立の進学校時代に不登校になり、通信制高校に転校し、時間に余裕ができたので地域活動などに参加した。その経験の中で、「中高生と大人のコミュニケーションがもっと円滑にできないか」と思うようになった。

 このテーマは教育学や社会学の切り口でもアプローチできるが、ポッドキャスト(インターネットラジオ)番組に参加したことからメディア社会学から研究をしたいと決めた。慶應の文学部社会学専修ではメディア社会学が学べ、慶應大学メディア・コミュニケーション研究所という機関もあり、学部の2年生からそこで学ぶことができる。そのため、慶應文学部を志望したと語った。

 また、法学部政治学科の男子学生は、長崎県出身で、中学1年の時に北方領土問題を考えるプロジェクトの募集に応募。

 それから継続的に北方領土問題を調査する機会があり、当事者からのヒアリングも行い、外交官になってこの問題を解決したいと思い立った。慶應の法学部政治学科ではロシア研究ができるために、慶應法学部のFIT入試を受験して合格した。「大学に入学するためではなく、自分が興味を持ったことを追求して、それが総合型選抜につながった」と話した。

自分の関心事を引き出していく

 慶應生たちのプレゼンテーションが終わると、山永さんからこの日のワークの説明がされる。城山さんは高校生時代に「どうしたら中高生と大人がお互いの意見をきちんと交換できるか。そのためにメディアをどう活用すればよいのか」という「問い」を見つけた。この「自分の問い」を見つけるのが、今回のワークショップで行うワークだ。

 参加者はまだ自分が何を社会問題として捉え、何を課題解決したいのかはわからないはずなので、まずは小さな興味から発見していこうという試みだ。ワークシートに自分の関心事や自分の活動を書き、それに関連するキーワードを並べていく。なかなか出てこない場合はネットの関連検索機能も利用する。

 例えば、ある参加者は学童ボランティアに参加し、さまざまな子どもに関する情報が入ってくるため、最初に軸として「子ども」というキーワードを書き、人権や学童、メディアなどのワードを書き込んでいく。

 ある参加者が「歌舞伎町のトー横キッズがメディアに取り上げられると、さらに子どもたちが集まってくる。危険もあるわけで、どうにかならないか」と言うと、「だからといって情報を遮断することは、報道の自由や情報を得る権利の侵害になるよね」と大学生たちが意見を出し、そういった会話によって受験生は発想を広げていく。次にそのキーワードから疑問文を作っていく。その際にChatGPTを利用する方法も紹介する。

 ワーク終了時に山永さんが対策のスケジュールを話した。高校1年次は幅広い活動を行い、自分の興味を探していき、高校2年次は少しずつ明らかになっていく興味に沿って、研究テーマにつながる活動実績を作り、高校3年次はこれまでの活動実績を出願書類に落とし込んでいく。

 この一連の流れを経て総合型選抜に挑戦することで、多面的なものの見方や考えを言葉にする力を身につけ、将来を描くことができる学びを習得していく。総合型選抜を目指す意義を提示したところでワークショップは終了した。

「推薦対策は費用がかかることに疑問を感じた」

 イベントの終了後に、参加者たちに感想を聞いた。高校2年の女子参加者の保護者はこう話す。

「中高一貫の進学校に通っていて、成績はやや伸び悩んでいますが、部活動や文化祭の実行委員の活動を頑張ってたくましく育っています。ですので、活動実績も評価対象になる総合型選抜について今日は勉強にきました」

 また、参加者の高校生はこう話した。

「大学生と話すことで、自分が何に興味があるのかがわかってきました。部活動でやっているダンスよりも、人間関係といったことに私は関心があると知ることができ、今後の探究学習や総合型選抜の準備に活かそうと思います」

   カドデ推薦塾の代表、山永さんはカドデ推薦塾を作った経緯を語った。山永さんも総合型選抜で慶應に入学したが、受験生時代に推薦対策塾の費用の高さに疑問を感じたという。費用が高いと、対策ができる生徒とできない生徒の間に格差が生じてしまう。推薦対策の費用の高騰を解決したいという最初のコンセプトがあるので、費用は安く抑えているという。

ワークショップに参加して

 注目される総合型選抜入試。今回のワークショップもグループで参加する高校生もいれば、保護者同伴で来ている高校生もいた。SNS経由でこのイベントを知った参加者がほとんどで、受験生や保護者がネットで情報を集めていることもわかる。今回のワークショップは、総合型選抜で合格した大学生たちと交流できたことも、受験生にとって刺激になったようだ。

慶應義塾大学の総合型選抜について

 慶應義塾大学の総合型選抜には、以下の3種類がある。詳しくは慶應義塾大学の学部入試案内を参照したい。

  対象学部 募集人員
自主応募制による
推薦入学者選考
文学部 120人
FIT入試 法学部

法律学科:最大80人

政治学科:最大80人

AO入試

理工学部

電気情報工学科:最大10名程度
数理科学科:最大10名程度
化学科:最大4名程度

総合政策学部

・環境情報学部

総合政策学部

・環境情報学部ともに150名

看護医療学部

若干名

参照:慶應義塾大学の学部入試案内