東京大合格者ランキングの裏事情

安田 国公立大では3番目に多い東京大の志願者数は170人減りました。合格者数のランキングを見ると、1位開成、2位灘、3位筑波大学附属駒場、4位麻布、5位聖光学院と中高一貫の男子校が続き、6位西大和学園、7位桜蔭、8位渋谷教育学園幕張、9位都立日比谷、10位駒場東邦となりました。

 2020年度より合格者をそれぞれ23人ずつ増やした西大和学園と日比谷がランクインし、海城と栄光学園がランクアウトしています。日比谷は2018年以来のトップ10入りで、63人合格ですが、60人以上合格は1970年の99人合格以来51年ぶりになります。

後藤 11位に神奈川県立横浜翠嵐、15位に埼玉県立浦和が、21位に愛知県立の旭丘と岡崎が入るなど、公立高校の躍進が今回は目立ちました。ここで注目したいのは、同じ都府県内での公立トップ校同士の差です。

 東京では日比谷が躍進しましたが、西の合格者数は変わらず、同様に神奈川では横浜翠嵐が湘南を圧倒しています。このあたりは高校受験の塾の影響があるかもしれませんね。塾にとって合格実績は大事です。

 塾の競争が激しい神奈川では、横浜翠嵐と湘南とを合わせて合格者数を提示するよりも「横浜翠嵐 ○名」と打ち出したほうがインパクトがあるから、受験先を一つに絞って生徒を誘導しました。特に高校無償化で、仮に横浜翠嵐に不合格でも私立の特進コースが拾ってくれるから横浜翠嵐はこれまでにないほどの志願者が集まりました。入学段階で、横浜翠嵐と湘南とでは既に差がついていたんです。そうした中でも、湘南の今の高3生は成績が良いようなので、2022年度は期待できるのではないでしょうか。

 一方、日比谷は入学時から東大受験を生徒に意識させていましたから受験者も多かったのでしょう。特に中学受験で失敗した生徒が日比谷には少なくないですからリベンジの気持ちも強いのだと思います。安全志向が強かった2021年度において最後まで強気で生徒を引っ張った結果ではないでしょうか。

 関西では、京都大合格者数で見ると、1位北野が95人に対して、6位天王寺は53人と半分くらいで、同じ大阪府立のライバル校間の格差拡大が著しい。

安田 東大では合格者に占める女子受験者の割合が2割を超えました。

後藤 たぶん共学校では女子の合格者が多かった。女子の半分ぐらいは文系で合格しています。

 一つの要因として考えられるのが、家計の問題です。浪人ができないので、東大合否のボーダーライン上の文系志望者は、2020年内に学校推薦型や総合型で私立大に早めに逃げています。その部分の受験者が抜けたので、ボーダーラインのところが空いてしまい、玉突きですっと東大に入れた側面があります。前述の日比谷のように強気の出願が功を奏した側面は大きいのではないでしょうか。

安田 今年は文系の数学の問題が易しかったといわれていますが、中高一貫校の生徒が数学は得意ですから、易しい問題では差が付きにくく公立の躍進につながったようです。都立日比谷、県立浦和など5割以上が文系の合格者です。

後藤 一方で、数学が簡単だと数学が得意な受験生は数学でアドバンテージを得られないのです。そこで合格者を減らした学校もあるのではないでしょうか。東大で今回いろいろなことが起こったのも、試験の方式と経済的な不安の影響がそこかしこに出ているからです。長期的な不安というよりも単視眼的な目先の不安というのものが。

 明治大合格者数ランキングのトップ3が、湘南、横浜翠嵐、厚木という神奈川県立高校で占められています。他にも公立高の名前が並んでいますが、MARCHは中堅・上位の私立中高一貫校が進学実績を確保するため力を入れてきた対象です。