良問だった三角比を問う第1問〔2〕

――数学IAは、前回の平均点57.68点が今回は37.96点と、19.72点も落ち込んでいます。

石田  数学IAは、前回よりも大幅に難化したと考えられます。100点満点ですが、入試センターの発表によれば、71点取れれば上位4%の最高ランクに入れるということです。私が教えている東大理IIIの受験生でも80点台でした。

 難化した主要な原因は、問題文から条件を読み取る、与えられた構想に基づいて思考するといった共通テストが目指す方向性が、前回よりもさらに明確になった出題だったことでしょう。さらに、数学的な本質まできちんと理解していないとつまずく箇所がいくつも設定されていたことに加えて、データの分析や確率、整数の問題でかなり面倒な計算を要求されていたことから、前回同様の傾向と構えていた受験生にとっては、厳しい問題であっただろうと思います。

――第1問と第2問は必答、第3問から第5問のうち2問を選択するものです。第1問の〔1〕は、センター試験でもよく出ていたように思えます。

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石田 そうですね。文字式の計算で、(1)は基本問題。(2)で新たにxとyという文字が導入されますが、この誘導の意味を理解して問題の流れに乗る必要があります。ただこのような設問の仕方は従来のセンター試験でもありました。この問いの流れを理解できないと最後の設問で戸惑ってしまいます。

 続く第1問〔2〕〔3〕、第2問は今回の共通テストの特徴をよく表していた問題でした。

 第1問〔2〕は三角比についての問題ですが、三角比(タンジェント)の意味の理解に加えて、「比」の理解が問われていました。まずは太郎さんと花子さんの会話があり、水平方向と垂直方向で縮尺が異なる立面図から、正しい情報を読み取る必要がありました。

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 そして垂直方向の縮尺2万5000分の1を水平方向の10万分の1の縮尺に直して考えたときに、元の大きさと直した後の大きさがどうなるかを考えるのですが、これが意外とできていません。小学校で学んでいるはずの「比」の意味を本質まできちんと理解できているかを問う問題でした。それに加えて、角度と正接の値の関係、三角比の表の読み取りなど、まさに教科書に書いてある基礎・基本の理解を問う良問でした。それがゆえに、これらの理解が曖昧だった場合には、この問題でかなり時間を取られたものと思われます。

 第1問〔3〕は、図形の計量と2次関数という2つの単元にまたがる出題です。(1)は基本問題ですが、(2)は「外接円の半径が出てきたら正弦定理」といったようなパターン学習しかしていなかった場合には、与えられた辺の長さについての条件式があまり見慣れないものなので、はじめの辺ABの値の範囲を求めるというところでつまずいてしまったでしょう。

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 しかし、図1のように、「数学的根拠を考えながら自分で図を書いてみる」という、図形問題での基本動作ができていれば、この辺ABの値の範囲はすぐに求められます。「解法パターンを覚えて当てはめる」よりも、「対象の特徴をよく観察して捉える」という基礎・基本が重要だったということです。また、その後の垂線の長さの最大値を求めるには、(1)の設問がヒントだと気付くことも必要でした。結局、はじめの辺ABの値の範囲が、最大値を決めるポイントになっています。

図1 第1問〔3〕は、手描きでこのような図を描けるかが分かれ目になった
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