入塾テスト対策の必要性は、塾によって違う

 入塾テスト対策をすべきかどうか、その答えは「塾によってケースバイケース」である。

 塾によっては、クラスで授業や宿題の内容が大きく違うので、クラスの変動がやや起きにくくなる。中には講師の意向がクラス分けに反映されるところもある。しかし、基本的にどこの塾もクラス分けのテストの偏差値順でクラスが決まっていくので、クラスの昇降はそれなりにあるから、入塾前にがっつりとした準備が必要かというと疑問だ。なぜなら、無理に上のクラスに入ると、ついていけない可能性もあるからだ。

SAPIXではクラスの入れ替えが頻繁

 一方、SAPIXはクラスが激しく入れ替わることで知られる。特に大規模校舎だと「まるでジェットコースター」のように上下するとも聞く。

 なぜそうなるのか。小学5年までは全クラス同じテストを受けるからだ。この場合、下位クラスも上位クラスも同じ条件で競う。現在のクラスに関係なく、純粋に点数順で次のクラスが決まっていく。このシステムがあるから生徒たちは「頑張れば上に行ける」とモチベーションが上がり、上に行こうと努力するわけだ。

 他塾からSAPIXに転塾した生徒の保護者は言う。

「塾によってはクラス分けに先生の意向が入るところもあります。それで上がれないと悔しいじゃないですか。そういった不平等がないのがSAPIXのよさです。いったん下がっても次で上がれる可能性があると努力できます」

 クラスの入れ替えが頻繁なのを嫌う子どもや親もいるが、それが性格に合う子どもも存在するのだ。そして実際、SAPIXから開成に合格した生徒たちで「最初はDクラス。一緒に開成に受かった子はもっと下だった」という話もあるし、「最下位のクラスからスタートして期待してなかったのに、小学4年の7月の組分けテストでαクラスに入った」という話も聞かされる。

 SAPIX自由が丘校は1学年に400人以上がいる大規模校舎だ。何十ものクラスがある。なので自由が丘校の生徒の保護者たちはこう話す。

「小学5年以降は最上位帯は固定されますが、それ以外は乱高下です」

入塾テスト対策をすることのリスク

 そして、入塾テストの前に対策をして上位クラスから始めることには、デメリットというかリスクもあるのだ。

 入塾時に上位クラスに在籍するのは経験値が高い生徒だ。低学年から中学受験の塾に通っていたり、通信講座で学んでいたりすれば上位クラスに入れる。

 ある生徒は入塾時にSAPIX中規模校舎のα2、つまり上から2番目のクラスからスタートしたという。入塾テストを受ける前に、市販のテキストで対策をしたからである。ところが、その生徒はだんだんとクラスが落ちていき、小学6年では真ん中より下のクラスになっていた。

 それを気にしない性格だったからいいが、中にはその現実に傷つく生徒もいる。そうなってくると、追い抜かれ、クラスが落ちていく生徒は自己肯定感が下がりかねない。反対に最初から真ん中より下位のクラスでそれを維持していたら、特に何も感じることはないかもしれない。

「SAPIXの下位のクラスにいる生徒は自己肯定感が低くなるのよ」と主張する人がいるが、それは一概にはいえない。特に気にせず、楽しく塾に通っている生徒もいる。

「うちの娘は最初、下位クラスにいましたが、小学4年の後半からは真ん中ぐらいのクラスにいます。娘はクラスが上がって真ん中なのでご機嫌ですが、上位のクラスから移ってきた子は元気がなかったですね。お母さんも目を合わせてくれなかったぐらいです」(SAPIX中規模校の生徒の保護者)

 入塾前に無理な対策をすると、子どもの性格によってはリスクがあるということを忘れないようにしたい。

資質のある子が上がっていくシステム

 全クラスに同じテスト問題を受けさせる塾では、「上位クラスしかやらない問題が組分けテストに出るから、下位クラスだと組分けテストで不利になる」と話す人もいるようだ。

 これに対しても「塾によって違う」ではないだろうか。SAPIXでは、すべての生徒に同じテキストを配り、クラスによって扱う問題を変える。しかし、少なくとも小学4年まではクラスによって習う内容にそうは大きく差がないことが多い。この場合、下位クラスにいても発展問題(上のクラスのみが授業で習う難しい問題)もテキストで見ることができる。資質のある生徒なら下位のクラスの宿題範囲の基礎的な問題はスラスラと解いてしまい、指示されなかった難しい問題にも挑戦しようと思うだろう。他塾でも上のクラスが学んでいる難しい問題をおさえておけば、組み分けテストで点数を取ることはできよう。

 小学4年のテキストは全体的に内容がやさしいので、下位クラスに在籍していても資質のある生徒、つまり応用力がある生徒なら、授業で習っていない難しい問題も解けることは多々あろう。

中学受験は「資質次第」という面もある

 中学受験はやってみないとわからない面がある。人間、向き不向きがあるのだ。

 保護者が自身の幼い頃の記憶を語る。

「幼い頃からピアノを習っていて、ある時期まで私が一番上手でした。ところが、あとから入ってきた子がぐんぐんうまくなって、抜かれた記憶があります。中学受験も同じで、最初は上にいても、あとから入ってきた“資質がある子”に抜かれていくんですよ

 その「追い抜いていく生徒たち」の保護者の話もしばしば聞く。

「友達がSAPIXに通っているから自分も行くんだというので入れたんですよ。小学4年はテキストも簡単だから、別に親が教える必要もありませんでした。そうしたら、小学4年の7月の組分けテストで一気に6クラス上がって、小学3年から通っていた友達を追い抜いてしまって」(同保護者)

 考えてみてほしい。まったく経験値がない生徒にとって、中学受験の入塾テストには「なんだこれは? 見たことない図形だ」「こんなに問題文が長いなんて」という初めて見るタイプの問題が並んでいる。

 小学校で習っていることと、中学受験塾で習うことはまったく違ってくる。文章題にはトリックが仕組まれている。経験値がある生徒なら引っかからないが、初めての生徒は素直に引っかかるから点数が取れない。

 しかし資質があれば、塾で勉強をしていけばどんどん伸びていき、点数が取れるようになる。こうした、資質の差が中学受験には大きく影響を与える。

個別指導塾漬けになるリスクも

 入塾の段階で無理をして上位クラスに入っても、その後、落ちていったり、落とさないように個別指導塾依存(個別指導塾にも同時に通うこと)になったりすると、親子で苦労することになりかねない。入塾前から上のクラスを狙いすぎず、実力相応のスタートを切ったほうが無理のない中学受験ができるのかもしれない。