焦りと不安。受験生の気持ちは変化していく

 大学受験が近づくにつれて、受験生の心のなかでは焦りや不安が大きくなってきます。そうした気持ちの変化を受け止めてやわらげてあげる、心を落ち着かせてあげることが、受験生をもつ親御さんには求められます。では、心身ともにベストな状態で試験日を迎えるために、どのような心構えや配慮をもって受験生に接すればよいのでしょうか。

 まず受験生の気持ちは、成績によって、とりわけ合格可能性の判断材料となる模試の点数によって大きく左右されます。勉強を始めたばかりのころは、やる気に満ちていますし、さしたる悩みも不安もありませんでした。挽回が可能な時期には、余計な不安や焦りといったネガティブな気持ちは湧いてこないものです。そして努力したことで自信を得た子どもは、何の憂いも悩みもないまま受験の日を迎えます。

 しかし、勉強してもなかなか成績に結びつかない子ども、思うように模試の点数がとれない子どもは、しだいに心の中に不安や焦りといったネガティブな気持ちが生まれ始めます。

「模試を受けたくない」と投げ出してしまう子どもも

 模試で思うように結果が出ない状態が続くと、模試の点数や偏差値の開示を拒否したり、模試の話や志望校の話になると不機嫌になったりする子どもも出てきます。「もういやだ、これ以上模試を受けたくない」などと言い出す受験生もいます。

 とくに3年生に、そうした拒否反応を示す傾向がみられます。確かに大学受験が近づくにつれて模試の数は多くなり、ひと月で2回受けるようなこともあります。模試を受けるのがつらくなることもあるでしょう。

 子どもがそうした“模試疲れ”を感じているようであれば、模試を受ける回数を減らすようすすめてみてもよいでしょう。受験すると決めていた模試を休むと癖になることもあるのでよくありませんが、申し込む回数を減らしてみることで、またやる気を取り戻すこともあります。

 しかし、それでも模試に対する拒絶感がなくならないようであれば状況はより深刻です。「やっても結果が出ないからやりたくない」と完全に自信を失ってしまっている可能性があります。

 特に3年生の秋以降は、模試の判定や過去問の点数と、受験までの残り期間を考えることで、志望校に合格できるかどうかがわかるようになってきます。現実的に志望校に合格するのは難しいとわかったときのダメージは、受験生にとって非常に大きなものです。知識を入れ始め、成長を実感できた初期と異なり、復習の時間が多くなって成長が鈍化し、苦しくなることも夏休み後に多くなります。

 最悪の場合、勉強をやめて高校にも行かなくなり、大学受験を放棄するおそれもあります

 私が受験生から受ける相談も、多くが成績に関するものです。しかしこればかりは、勉強の手を止めて悩んでいても改善されることはありません。むしろ悪化し続けます。試行錯誤しながらでも勉強を続けて、成績を上げることでしか解決できない問題です。

 解決策があるとすれば、得意な科目を使って勝負できる大学に変更するか、勉強のやり方を改善するかです。

 この時期に成績が上がらないという問題に直面した場合は、自力で解決するよりも、知識をもっている人や塾・予備校に、打開策を聞くのがよいでしょう。今までの学習状況を正確に把握し、幅広い知識から解決策を模索する必要があるからです。

大学受験を控える子どもへのフォローアップ方法5選

 万が一、子どもが大学受験に対して後ろ向きの状態に陥って、「大学を受けたくない」などと言い出したら、どのように対処するのが望ましいのでしょうか。受験生をフォローアップするためにどのように接するか悩む保護者の方も多いと思います。具体的なフォローアップ方法を紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

勉強と無関係な会話で子どもの気持ちを明るくする

 大学受験が子どもの心にもたらすプレッシャーは非常に大きく、決して軽くみてはいけません。最悪の場合には受験に悩み苦しみ、うつ病のような状態に陥って心療内科に通うような子どももいます。そのような事態を防ぐためには、子どもの不安や苦しみ、異変に少しでも早く気づき、対策していくことが親としての役割といってよいでしょう。

 特に注意してほしい時期が、3年生の夏休み明けです。夏休み前までは「受験までまだ時間がある」と思っていたような子どもも、秋口ぐらいになると「気づいたら受験まで半年を切っている!」と、残された時間を強く意識するようになります。それに伴い、理想と現実のギャップを否応なく突きつけられる子どもも出てくるのです。

 この時期になると、受験生の多くは志望校の過去問演習に取り組み始めています。何回解いても合格点に到達しないような場合には、焦りや不安といったマイナスの気持ちを強く抱いたり、落ち込んだりすることも珍しくありません。

 そうした子どもの落ち込んだ気持ちを回復させ、やる気を失わせないためにも、保護者のほうから意識して声をかけて密にコミュニケーションをとる必要があります。その際には、ぜひ子どもの気持ちが明るくなるような話、楽しくなるような話を心がけてください。たとえば家族旅行の思い出でもいいでしょうし、子どもが好きなことを話題にしてもよいでしょう。

 受験が近づくと、受験生はみな勉強以外のことを全く考えられなくなり、常に心が張りつめています。そうした勉強とは無関係な話をして、少しでもほっとできる時間をつくってあげることも大切です。

志望校を変える前に、これまでの勉強の取り組みを見直してみる

 夏を過ぎたころになると、模試の点数が思うように伸びない受験生の間では志望校を見直す動きも現れ始めます。子どもが志望校を変えるべきか、初志貫徹するべきかを悩んでいたとしたら、どのようなアドバイスをすればよいのでしょうか。

 成績が伸び悩んでいる原因が不得意教科であれば、他の教科で挽回する方法もあります。

 たとえば、数学が苦手でどうしても70点以上取ることができないのなら、毎回コンスタントに80点前後を取れている英語の勉強により力を入れて、90点以上をめざすことで全体の点数の底上げを図るという戦略が考えられるでしょう。受験する大学の配点を意識して、配点の高い科目に比重を置くとより効果が発揮されます。

 また、それまで過去問の演習をしていなかった、もしくは十分にしてこなかったのであれば、その演習を徹底的に行うことによって、点数が1割から2割伸びることはよくあります。実践的なアウトプットに集中して取り組むことによって、問題を解くコツがおのずと会得できるためです。

 このように、今までの勉強への取り組み方を見直してみることによって、点数を伸ばす余地は十分にあります。志望校を変えるのは、そうした改善の試みを行ってからでも決して遅くはありません。

やむを得ず志望校を変更するときは全面的に肯定する

 一方で、改善策を講じても点数を伸ばすことが難しく、志望校変更を決断せざるを得ないこともあります。しかし、そのときに、どうしても志望校変更の踏ん切りがつかず、ためらい続ける子どももいるでしょう。

 特に、上位校・難関校を狙っているような、勉強に自信のあるタイプの受験生にはそのような傾向がみられます。さらに言えば、志望校を変えることで「親の期待に応えられなかった」と罪悪感をもったり、「周りからどう思われるだろう」という恥ずかしさ、「負けたような気持ちになる」といった負の感情を抱いたりすると、それが要因となって、受験に対するモチベーションが一気に低下してしまうおそれがあります。

 モチベーションを下げないためには、保護者が「今まで一生懸命がんばってきたのだから、何も恥ずかしがることはない。罪悪感をもつこともない」などと伝えて、志望校の変更を全面的に肯定してあげることが必要です。

 肯定する際には、「◯◯の施設が充実しているらしいよ! △△に合っているね」などとその大学の良いところや魅力的なところを調べて教えてあげる、大学の資料に興味をもって一緒に見るなどして、「親も志望校の変更に賛同している」という姿勢をぜひ示してあげてください。そうした保護者の言動があるだけで、子どもは「よし、それなら変えよう」と志望校を変更することに前向きな気持ちになれるものです。

 特に国公立大学の場合には、共通テストや2次試験の科目や配点で大きく戦略が異なることを先の記事で述べました。したがって、なるべく早いうちに、「合格可能性が○%に届かない場合には、○○大学に変更しよう」「○○の科目ができなかったら、○○大学に切り替えよう」などと、他の志望校を候補として想定しておくのが理想的です。

「○○レベルの大学を滑り止めとして考える」「国公立でも○○大しか行けないのなら、私立の××大に行く」などという検討を前もって行っておくことで、志望校をスムーズに切り替えることができます。

編入や大学院進学で、“志望校に入る”という方法を提案する

 なかには、「合格できる大学を受けよう」とすすめても、「○○大学以外には行く気はない」などと拒否する子どももいます。特に志望大学に対する思いがことのほか強い場合には、全く聞く耳をもってくれないこともあります。しかし、別の大学に進んだとしても、やり方次第で志望校に入学できる方法はまだあります。

 その一つが「編入」です。編入とは、大学在学者等が別の4年制大学の2年生や3年生として入学することを認める制度です。たとえばA大学に入学したあと、2年生や3年生になる段階で、B大学に編入という形で途中から入学することができるのです。

 この編入の制度を使えば、志望大学に後から入り直すことができるわけです。その際、編入学試験を課されることになりますが、しっかりと対策をすれば、上位校・難関校であっても合格は十分可能でしょう。

 編入学試験の形式はさまざまです。経済学などの専門科目と英語、専門科目と小論文といったものやTOEICの点数の提出が求められるケースもあります。国公立大学、私立大学問わず、いずれも通常の受験と比較して受験科目が少ない点や、受験日が異なるため国公立でも複数受験が可能などのメリットがあります。諦めきれない志望校がある場合には、ぜひ検討してほしい選択肢の一つです。

 その他、大学を卒業後に本来志望していた大学の大学院へ進学するという方法があります。大学院に進学するためには院試という入学試験に合格することが必要ですが、科目数や得意不得意を考えると、大学(大学院)によっては大学入試よりも院試のほうが入りやすいことも珍しくありません。将来的に大学院で学ぶことを視野に入れているような受験生は、検討する価値があります。

 編入や大学院進学によって、大学入試では果たせなかった夢を後から実現することは十分可能です。未来への希望を抱かせる選択肢があることを知れば、「とりあえず今は入れる大学に進もう」と、納得して前進することができるでしょう。

 また、その大学に入学すること自体が目標なのか、就職やそれ以外の理由があるのかなど、もう一度目標や自分の価値観を整理することも必要です。場合によっては、志望校に入学することだけではなく、ほかにも目標を達成することのできる手段があるかもしれません。そのような様々な選択肢を提示し、問題から解放してあげることもときには必要です。

滑り止めはどんな状況でも絶対に合格できるところを選ぶ

 行きたい大学が明確に決まっている子どものなかには、「この大学よりも偏差値の低い大学には行かない」と、自分の実力よりも高いところばかりを受験する子どももいます。

 確かにストイックに高い目標を掲げて努力すること自体は悪いことではありません。しかし、多くの受験生を見てきてはっきりと言えることは、どこでもいいから確実に合格できるところを必ず用意して受験に臨むほうがよいということです。

 たとえ、「志望校以外の大学に行くつもりはない」と思っていても、受験の最後の時期になると、“終わり”を意識するようになっていきます。終わりが見えた状態での追い込みは、想像以上に精神的に疲れるものです。

「納得がいかない大学しか合格できなかったら浪人する」と決めていれば努力できると思いますが、どこにも合格できずにネガティブな気持ちで浪人をするとなると、翌年も結果が出ない可能性があります。

 浪人したら必ず現役よりもいい大学に行けるという保証はありません。一つだけでも合格しておくことで、もう1年がんばるか、大学に進むかの選択ができます。

 それでも「受かったらその大学に行かないといけなくなる」と滑り止めをつくることを渋る子どももいるでしょう。それでも「行くか行かないかは後で決めればいいから」などと言って、滑り止めの受験を約束させるべきです。

 1校でも受かっていれば、そこから先の受験は気持ちがだいぶ楽になるはずです。受かっているところがなければ、「このまますべて落ちてしまうかもしれない」という不安が募り、そのために本来の実力を発揮できなくなる危険があるでしょう。そうした意味では、受かった大学がいわば“お守り代わり”になるといえます。

 その際、「どこの大学を選ぶべきか」が問題となりますが、どんな状況でも絶対に合格できるところが一つの基準となります。たとえ風邪を引いて熱が出ているような状態で受験しても、確実に受かるようなところです。点数でいうと、最低合格点のプラス15%を確実に取れるような大学を選ぶとよいでしょう。

まとめ|心の変化を感じよう

 受験生の心は受験日までの期間や成績によって変化します。その変化に気づけるように無関係な会話でもいいので、積極的に子どもと接することが重要です。

 とはいえ、保護者が独力で子どもの受験をすべてサポートすることは決して簡単ではないでしょう。そこで、必要に応じて、外部の専門家に相談したり、アドバイスを求めたりすることをおすすめします。たとえば高校には進路指導を担当している教員がいるでしょうし、塾・予備校に通っていれば講師やスタッフがいつでも相談に応じてくれるはずです。