共通テスト「情報」対策が必要な受験生とは

 高等学校習指導要領では「情報Ⅰ」を高校生全員が必ず履修しなければならない科目に指定していますが、共通テスト「情報」は、必ず受験しなければならない科目ではありません。大学受験生を志望大学と入試区分・方式別に分類して見ていきましょう。

志望大学と入試区分・方式別の共通テスト「情報」の必要性
志望大学と入試区分・方式別の共通テスト「情報」の必要性
※東京個別指導学院が作成

 まず、共通テストに出願・受験しない受験生は、共通テスト「情報」の対策は必要ないことを理解しましょう。上表ⒹとⒼです。

 以前のコラムで、私立大学入学者の約6割は学校推薦型選抜や総合型選抜による、いわゆる「年内入試」入学者で、一般選抜による入学者は約4割に過ぎないと述べました。私立大学年内入試の受験生Ⓖは、共通テストの前に合否が決まるので、共通テストの動向に影響を受けません。私立大学専願者のうちⒹのように、各私立大学が実施する個別試験のみを受験する場合、共通テスト受験は「必須」ではありません。

 また、ⒺⒻのように私立大学専願者が共通テストを受験する場合でも、その全員が「情報」を受験しなければならないわけではないのです。共通テストの結果を利用した入試を行う私立大学は多いのですが、共通テスト利用・併用入試(ⒺⒻ)でも「情報」を使って受験できる大学は大多数ではありません。この点は後述します。

 このように、私立大学専願者にとっては、共通テスト「情報」の影響はほとんどないと言えます。

 共通テスト「情報」の受験勉強をする必要があるのは、ⒶⒷⒸの国公立大学志望者にほぼ限られます。下図のように、国立大学の一般選抜では、全大学が何らかの形で「情報」を試験科目に課しています。

 一方で、公立大学の一般選抜では13%が「情報」を課していません。例えば、東京都立大学法学部(前期)では、共通テスト・個別試験とも「情報」の出題がありません。横浜市立大学国際教養学部、国際商学部、理学部それぞれの前期B方式で共通テスト「情報」は選択科目であり、必須ではありません(A方式は必須ですのでご注意ください)。個別試験でも「情報」の出題はありません。

 このように、「情報」の受験準備をしなくても挑戦できる公立大学があることも知っておくとよいでしょう。

「情報」実施大学の割合
株式会社ラーンズの調査結果をもとに東京個別指導学院が作成

 また、国公立大学の総合型選抜と学校推薦型選抜では共通テストを課す大学があり、割合としては国立大学のほうが公立大学よりも大きいことがわかります。国公立大学の年内入試のみを受験するケースは少ないように思いますが、志望する国公立大学の年内入試で不本意な結果となってしまった場合に一般選抜で再チャレンジできるよう、共通テスト「情報」対策を視野に入れておくとよいでしょう。

まとめ:
共通テスト「情報」の受験勉強をする必要があるのは国公立大学志望者にほぼ限られる

国公立大学志望者でも、「情報」対策は共通テスト対策で十分

 では、国公立大学の個別試験で「情報」を出題する大学はあるのでしょうか。2023年11月20日の段階で、個別試験で「情報」を必須とする大学は、広島市立大学情報科学部後期のみ確認できています。

 その他の個別試験では、電気通信大学の前期、高知大学理工学部情報科学科の情報・物理受験(前期)で選択科目として実施されることが目につく程度です。選択科目ですから、「情報」に強くなければ電気通信大学や高知大学の受験に不利になるということはないでしょう。つまり、国公立大学志望者でも、「情報」の対策は、共通テスト対策に限られると言ってよいのです。

国公立大学入試での「情報」のウエイトは低い

 難関大学であればあるほど、多くの受験生が合否ボーダーラインに集中します。受験では1点を競う争いが繰り広げられるものの、一般的に2025年度入試での「情報」の重みはさほど大きくありません。

 共通テストの問題の配点(満点)は、国立大学一般選抜では基本的に1,000点満点となります。図のように「情報」は1,000点の中の100点、つまり10%を占めており、決して小さい配点ではないように思えます。しかし、大学学部は教科ごとに共通テストの配点を変えることができるのです。

共通テストの配点
共通テストの配点

 京都大学教育学部(理系)の場合は、共通テスト1,000点満点が、265点満点に圧縮されます。その圧縮率は各教科一律ではなく、教科により異なっています。

京都大学教育学部(理系)の共通テストの配点
京都大学教育学部(理系)の共通テストの配点
※京都大学HP掲載の2025年度入試予告をもとに東京個別指導学院が作成

 さらに、国公立大学のほとんどは、共通テストに加えて個別試験を課します。京都大学教育学部(理系)の場合は、合格者を決定する合計点での配点比率が20%を超えるのは「数学」「外国語」、次いで「国語」です。これに比べて「情報」は1.6%と、ウエイトが非常に小さいことがわかります。

京都大学教育学部(理系)の共通テストと個別試験の配点

京都大学教育学部(理系)の共通テストと個別試験の配点
※京都大学HP掲載の2025年度入試予告をもとに東京個別指導学院が作成

  主な国立大学の、前期日程の合計点に対する「情報」の割合は表のようになっています。学部・学科により割合が異なりますので、最大・最小のものを示しました。

主な国立大学の前期日程の合計点に対する「情報」の割合

主な国立大学の前期日程の合計点に対する「情報」の割合
※各大学HP掲載の2025年度入試予告をもとに東京個別指導学院が作成

 最も配点ウエイトが高かったのは京都大学経済学部(文系)の5.88%、最も低いのが大阪大学経済学部B配点の0.5%です。このように、国公立大学入試での「情報」のウエイトは決して高くないのです。

 なお、北海道大学は2025年度入試で共通テスト「情報」受験が必須ですが、配点しないことを発表しています(合格者決定の際、同点の場合に「情報」の成績を活用する)。東京工業大学は共通テストの成績については、第1段階選抜のみに使用するため「-」としています。

志望する大学・学部により優先順位が変わる

 受験勉強の最大の目標は志望校に合格することですから、限られた時間の中で行う戦略としては、配点の高い科目や差がつきやすい科目を優先して取り組んだほうが有利になります。現在、「情報」の受験対策が進んでいないと感じている高校生は少なくないと思いますが、不安になるようであれば、「情報」以外の受験勉強に集中して、志望校の入試でウエイトの高い教科・科目の対策に学習時間や学習量をかけたほうがよいと思います。

 その理由を示したのが下表です。京都大学教育学部を受験したAさんとBさんは、共通テストの素点が同じでも、合否判定に利用する換算得点では、共通テスト部分265点満点中で28点もの差がついてしまうのです。京都大学教育学部受験における学習の優先順位をつけてみると、1位は「英語」「数学」です。2位は「国語」、3位は「理科」、4位「地理・歴史、公民」、5位が「情報」となります。同じ学習時間であれば、「情報」にかけるよりも「地理・歴史、公民」の選択科目(例えば「公共・倫理」)に重きを置いたほうが効率的な学習となります。

京都大学教育学部の共通テストの配点をもとにした素点と換算点の例

京都大学教育学部の共通テストの配点をもとにした素点と換算点の例
※京都大学HP掲載の2025年度入試予告をもとに東京個別指導学院が作成

 ただし、すべての学部・学科にいえることではないことにご注意ください。東京学芸大学教育学部中等教育専攻情報コースでは、「情報」のウエイトは「外国語」「国語」「理科」並みに12.9%と高いのです。

東京学芸大学教育学部中等教育専攻情報コースの配点

東京学芸大学教育学部中等教育専攻情報コースの配点
※東京学芸大学HP掲載の2025年度入試予告をもとに東京個別指導学院が作成

 また、「横浜市立大学国際教養学部、国際商学部、理学部それぞれの前期B方式は、共通テスト『情報』が選択科目」だと先述しましたが、学校推薦型選抜では必須です。国際教養学部・国際商学部では「情報」が「理科」と同じ配点、理学部では「情報」が「地理・歴史、公民」と同じ配点です。

 このように志望大学や入試方法によって、学習の優先順位は変わってくるのです。志望する大学・学部・入試方式で課される科目・配点を大学HPでチェックしておくと、優先順位をつける目安になります。

私立大学専願の場合、「情報」を選択科目にするのはお勧めできない

 では、私立大学専願者はどうでしょうか。入試区分別に見ていきましょう。

年内入試の場合Ⓖ

 公募制の学校推薦型選抜や総合型選抜でも、一部の大学では学科試験を課しています。その教科・科目数は1~3科に限られており、「情報」受験を必須とする大学は2023年11月20日時点では確認できていません。

 例えば、近畿大学は例年12月に大規模な公募制推薦(学力検査による入試)を行いますが、2025年度出題科目に「情報」を予告していません。帝京大学では、すでに2024年度入試の総合型選抜において、基礎能力適性検査の選択科目に「情報」が含まれています。2025年度の出題科目に「情報」が含まれるとも予告していますが、「必須」とすることはないと思われます。

共通テスト利用・併用入試の場合ⒺⒻ

 共通テスト「情報」を選択科目として採用する大学は早稲田大学、明治大学、立教大学、中央大学、法政大学など数多くあります。しかし、その中で「情報」を必須とする大学は、2023年11月20日時点では確認できていません。

大学個別入試の場合Ⓓ

 2024年度入試で慶應義塾大学、駒澤大学、東洋大学、武蔵野大学、麗澤大学、東京国際大学、湘南工科大学、名古屋文理大学、関西国際大学などで「情報」を出題科目としていますが、どの大学も選択科目としています。

 2025年度からは、日本大学文理学部「A方式」、立正大学「情報受験方式」、京都産業大学理学部・情報理工学部などが、入試科目に「情報」を組み込んだ個別学力試験を新たに実施することを発表しています。しかし、これらの大学でも「情報」は選択科目であるか、「情報」が必須の入試を行うものの「情報」を必須としない別の入試方式でも受験できるようになっています。

 つまり、私立大学で「情報」受験を必須とする大学はないと言えます。「情報」が好きで得意な受験生でなければ、無理に「情報」の受験勉強に時間や労力を割く必要はないのです。

 首都圏の主な私立大学の経済学部(経済学科)を併願しようとすると、下表のように「情報」を選択科目として活用できる大学・入試方式は限られていることがわかります。これらの大学を受験する場合は「数学」や「歴史総合・日本史探究」などを選択科目にしたほうが、大学選びや併願の幅が広がるでしょう。私立大学専願の場合、「情報」を選択科目にするのはお勧めできないということになります。

私立大学の共通テスト「情報」の選択可否
私立大学の共通テスト「情報」の選択可否
※各大学の2025年度入試科目発表内容をもとに東京個別指導学院が作成。早稲田大学と明治大学は政治経済学部。

2025年度入試で「情報」が最重要な受験生は少数派

「数理・データサイエンス・AI教育」は、文理を問わずすべての生徒が身につけるべき教養です。「情報」の授業では積極的に参加して、必要な知識・スキルを身につけてほしいと思います。また、高大接続の観点からも、「情報」の知識や技能が大学教育を受けるうえで必要な水準に達しているかどうかを測るために、共通テスト「情報」は重要であると個人的には考えています。

 しかし、「志望する大学の合格を勝ち取る」ための受験勉強という観点で見たらどうでしょうか。入試のルールは、「得点が高い順に合格者が決まっていく」というものです。その観点で2025年度の大学入試における「情報」のインパクトは極めて限定的だと言えます。

 大学受験のために「情報」を勉強しなければならない受験生は、当面は一部に限られます。ですから、必要以上に「情報」を不安に思ったり、焦ったりする必要はありません。そのような時間があったら、他の受験勉強を進めましょう。現在の入試ルールで合格を競う以上、このような結論になります。

おわりに

 これからの社会を生き抜いていくために「情報」教育は極めて重要です。その重要性を認めたうえで、「情報」の学習が受験学年で最も重要なのかというと、そうではない生徒のほうが多いのではないのでしょうか。大学受験生にとっては、「志望する大学に入学すること」が最大の目標です。まずは、志望大学へ合格するための最善策を考え、実行しましょう。

 大学でも学びは続きます。「デジタル時代の読み書きそろばん」とも言われる「数理・データサイエンス・AI教育」は、国の方針に従い、各大学が基礎的な能力を育成するためのプログラム(※)を始めています。ぜひ学びを深めていきましょう。

※ https://www.mext.go.jp/content/20230825-mxt_senmon01-000016191_4.pdf