このところ、めっきり肌寒さが増している。今年は秋になっても比較的気温が高めだったため、10月後半以降の急激な冷え込みには、閉口した人も多いのではないだろうか。
こんな季節、やはり嬉しいのが、食卓で囲む鍋だ。旬の魚介類や肉類、野菜などをつつくだけで、いつしか寒さを忘れる至福の気分を味わえる。同時に、山海の幸が溢れる日本に生まれた幸せを、しみじみと噛みしめられるのではないか。
さて、そんな“国民食”の鍋であるが、毎シーズンごとにトレンドが存在するのをご存じだろうか? 記憶に新しいのが、2008年のカレー鍋、そして2009年のトマト鍋などだ。そして2011年には「スンドゥブ鍋」が登場し、ヒットしている。
この火点け役となったのが、『スンドゥブ 韓国家庭料理 豆腐でつくるチゲの素』(丸大食品)だ。折からの韓国ブームに加え、美男美女揃いの韓流スターたちが醸し出す健康イメージ、さらには、豆腐と卵があればすぐにつくれる利便性がヒットの要因であるという。
また、出汁や醤油のイメージが強いヒガシマルも、韓国風すき焼きのプルコギに注目し、「黒のプルコギ鍋つゆ」「赤のプルコギ鍋つゆ」(ともに347円)を発売。エバラも濃厚な本格派スープが楽しめる「韓国チゲの素 ソルロンタン風」「韓国チゲの素 スンドゥブチゲ風」(ともに242円)で好評を博している。
一方、「ぐるなび」による『2012年冬のトレンド鍋予報』によれば、「海鮮トマト鍋」が最も支持されている(2012年8月、20歳以上の男女約1400名にリサーチ)。同社は、「濃厚な味のブームが依然続いており、トマトと海鮮のダブルの味わいが人気を集めたのではないか」と見ている。
さらにもう1点、「和」というキーワードで見渡せば、今年前半に絶大な人気を誇った「塩麹」が、当然のごとく鍋シーンにもお目見えしている。ヤマサ醤油の「塩麹鍋つゆ」(368円)、キッコーマンの「塩麹でつくる白湯鍋スープ」(357円)など、濃密な麹の香りが楽しめる逸品だ。
このように、この冬は具材に濃厚なスープを絡ませていただく、少々パンチのある鍋が流行しているようだ。鍋のトレンドは、食品メーカーが旗振り役となり、流行を生み出している感も否めないが、これも日本の食の成熟ぶりを示すものではないか。舌の肥えた日本人の味覚と食を追求する飽くなき欲求は、どこまでも進化している。
(田島 薫/5時から作家塾(R))