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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

あなたの背後に悪霊が見える――。
弱った会社員をカモにする破滅の罠(下)

吉田典史 [ジャーナリスト]
2015年4月28日
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>>(上)より続く

 この時点で、すでに岡安の心は男に取り込まれていた。それほどに、会社でのことや子どもがいないことに空しさを感じていた。子どもがいないと、幸福にはなれないと信じ込む。

 義理の母から、子どもがいないことが「不憫だ」と言われると、数日間は全身の力が抜けていく。特に「子どもができないのは、男である自分に問題があるかのように言われると、死にたくなる」と漏らす。

 あるべき自己像が崩れることが、怖かったという。結婚6年目になると、妻は、盛んに「子どもがいないなんて、もう耐えられない。気がおかしくなる」と繰り返す。そうした経緯のなかで、岡安は昨年から妻と男のもとへ通うようになった。

「聞いていない」「話が理解できない」
会社で部長から執拗に攻撃されて

 足もとで岡安には、新たな悩みが生まれていた。現在の上司である部長からの「攻撃」だ。虐待に近いのだという。仕事の報告をしているにもかかわらず、「聞いていない」と皆の前で叱られる。ご機嫌をとり相談をすると、「君の話の意味が理解できない」と軽くあしらわれる。

 ところが部長は、他の社員には丁寧に接する。自分とはまるで違うのだという。最も腹だたしいのは、部長のミスでありながら責任転嫁されることだという。トラブルがあると、部長には「もっと早く報告をしてくれていたなら……」「課長ならば、そのくらいのことを素早くできるはずなのに……」と大きな声で言われる。しかも、そのトラブルをわざわざ他の管理職などに伝える。

 だが、岡安は反抗しない。黙々と黙って仕事をする。周囲の社員には、ここまでされても耐え抜く岡安の態度は異様に見えるらしい。

 部長は50代前半。名門私立大学の付属から大学に進み、親のコネクションで入社したと噂される。実は、そのプロフィールは岡安に似ている。似ているからこそ、憎しみ合うのかもしれない。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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