アベノミクスの追い風もあり、ここ数年、好景気が続いている。大企業を中心に、新卒・中途の採用意欲は旺盛だ。しかし、多くの中小・ベンチャー企業では、採用やその後の定着・育成についてトラブルが絶えない。
もともと中小企業は、新卒採用より中途採用に重きをおいてきただけに、急遽新卒採用をしようとしたところで、なかなかうまくはいかない。ましてや、採用した後の定着や育成となると、そのノウハウがまるでない場合もある。
今回は、入社後2年近くにわたり、会社でまともな仕事が与えられなかった男性社員を紹介しよう。信じられないようだが、彼が今春から夏にかけて数回に分けて筆者に語ってくれたものだ。この男性の行動には、賛否両論があるかもしれない。必ずしもほめられる行動をとっているとは言えないが、なぜこんな状況になってしまったのか。
あなたの職場にも、このような社員や管理職がいないだろうか、一緒に考えてみてほしい。
「入社以来、ヒマでヒマで……」
仕事がなくて悶絶する広告マン
「ヒマで、ヒマで……。1年近くの間、することがないんです」
「仕事がないの?」
「朝、出社してもすることがない。だから、『都庁でリサーチをしてきます』と言って席を離れます。そのまま、新宿のあの周辺を歩くだけ……」
「上司は、何も言わないの?」
「何かを言いたい感じだけど……。ものすごく忙しいみたいです。部長だけど、社長から滅茶苦茶怒られている。仕事を大量に抱え込んで、息苦しい感じ」
「ならば、あなたは部長を支えないと……」
「仕事をさせてほしい、と言うんだけど……。僕は何もできないから……。そんな事務所にいるのが、嫌だから……」
新宿駅付近の喫茶店で、堂本(23歳)が取引先の広告制作プロダクションに勤務する吉池(46歳)に、この1年間のことを打ち明けていた。183センチの長身で、長い背中をぐいっと曲げて前かがみになり、話し込む。
堂本は、有名私立大学の教育学部を卒業し、広告代理店に入った。1年在籍しただけだが、今や「ヒマで、ヒマで……」が口ぐせとなっている。一応は広告マン。だが入社以来、担当する大きな仕事がない。