ハーバード、スタンフォード、MITなど世界の超一流大学で次々と上映会が開催され、学生たちに大きな衝撃を与えている映画がある。8月6日から日本でも公開されている『ポバディー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実』だ。
タイトルでは「寄付の不都合な真実」となっているが、これは寄付だけに限らず、さまざまな支援、援助や人々の善意が、いかに途上国の社会を破壊し、現地の人たちを傷つけているかを描いたドキュメンタリー作品である。世界各国の映画祭でも上映され、11の映画祭でさまざまな賞を受賞している。
ハイチ地震の被害を
さらに大きくしたもの
とにかく、途上国や災害の被災地の援助は複雑だ。その複雑な背景を理解しなければ、物事の本質は見えてこない。たとえばハイチ。2010年に大地震に襲われ、首都ポルトープランスはがれきの山と化した。その凄惨な映像は世界中に大きな衝撃を与え、世界中からNGOが駆けつけた。しかし、この惨劇はなぜ起きたのか。もちろん、直接的な原因は地震だ。しかし、被害を大きくしたその背景はもっと複雑だ。その真相はこうだ。
かつてのハイチでは、米産業が成立していた。昔は、米はハイチの人たちにとってちょっとした贅沢品で、つまり米農家にとってはちゃんと儲かる商品だった。それが1995年にアメリカと自由貿易協定が結ばれ、補助金漬けの安い米国産の米が大量にハイチの市場になだれ込んできた。米の価格は暴落し、米農家は大きな打撃を受け、米産業は壊滅した。それでハイチは食糧輸入国に転落した。かつては自給率90%とも言われていた農業が破壊されたのだ。
その結果、食っていけなくなった米農家の人たちは都会に出るしかなくなった。しかし、農村から出てきた人たちがすぐに十分な給料をもらえる仕事にありつけることは難しく、スラムを形成してそこに住みついた。粗悪なコンクリートでできたボロボロの家屋に住むしかなかった。そこに地震が襲った。
もし、アメリカの補助金漬けの安価な米が入ってこなければ、米農家の人たちはポルトープランスの粗悪な住居で暮らすこともなく、あの地震での被害者ももっと少なくてすんだかもしれない。アメリカの補助金はアメリカの農家を救うためのものだが、ハイチの農業と農家の人々の命を奪うものだったというわけだ。