海外の投資家は、ドルやユーロで表示された数値で業績評価するのだから、ニッサンやホンダは着実に企業業績を拡大しているように見える。「国内生産分」をドルやユーロで表示した業績は、円高によってさぞや大きく見えることだろう。その追い風が、〔図表 15〕や〔図表 16〕で描いた赤色の矢印の正体なのかもしれない。
それに対して、トヨタは雇用確保のためにニッポン国内にとどまり、輸出型企業の看板を下ろしていない、と株式市場は「現物評価」しているようだ。同社にとっての円高は、輸出へのブレーキが働くと同時に、海外で稼いだ外貨の目減りをもたらす。まさに二重苦だ。
国内雇用の確保ばかりが国益ではない
東日本大震災によって、自動車業界はかなりの被害を受けた。部品メーカーの復旧作業に、筆者も軍手を持参して走り回った。先月から始まった「木金休業」は、心配したほどの混乱はないようだ。
そうした現場を走り回って実感したのは、〔図表 17〕にもある通り、国内生産台数の最も多いトヨタが、最も被害を受けている、ということであった。現場を知らぬ評論家などは、業界を十把一絡げで論じてしまうので、注意が必要だ。
トヨタが国内に踏みとどまって雇用を優先するのは、同社についてしばしば囁かれる「経団連の呪縛」のせいだろうか。ニッサンやホンダにはそれがない。例えばニッサンが11年6月下旬に公表した新中期経営計画「日産パワー88」を見ると、その視線の先にあるのは中国市場だ。自動車業界は2009年以降、「トヨタ」vs.「ニッサン&ホンダ」とで、異なる道を歩み始めたようだ。
雇用を確保するために国内に踏みとどまっているトヨタに声援を送りたくなるが、だからといって、ニッサンとホンダが海外脱出を図ることを責めることはできない。海外で稼いだ資金が、外国子会社の配当などを通じてニッポン国内へ還流されるのであれば(法人税法23条の2)、それもまた国益にかなうものだからだ。
人は、同じカネを手に入れるにしても、雇用されて働くより、生活保護で暮らすほうを好む。厚生労働省(中央最低賃金審議会)の報告によると、最低賃金で働くよりも生活保護収入のほうが多い逆転現象が、9都道府県に拡大しているという。
ニッポン人の生活保護を支えている原資はいまや、海外の稼ぎに依存しているのではないか。このコラムを書きながら奥田英朗『無理』を読んでいるとき、世界をマタにかけた「所得再分配策」もあることを知った。



