経営者の声を受けてシステムを独自開発
九州FG、そして熊本県を代表するリージョナルバンク・肥後銀行の10年後を見据えた「パーパス(存在意義)」と「ビジョン」には、金融機関でありながら「金融」という文字がない。
肥後銀行の笠原慶久頭取は、その理由をこう説明する。
「金融の枠を超えあらゆる可能性を追求し、地域課題解決に資するグループを目指すため、あえて金融という言葉を取りました。パラダイムシフトが起こっている今の社会では、金融機関も利益の追求が第一義ではなく、社会や世界の持続可能性を基軸としつつ、社会的価値と経済的価値との両立を行う共通価値の創造が求められているからです」
地域課題解決――その答えの一つがCO2排出量算定システム「炭削(たんさく)くん」だ。このシステムは自行のためではなく、地域企業の脱炭素経営を支援するために独自開発した。
開発の経緯は、肥後銀行が積極的に取り組むサステナブル経営やSDGsと密接に関わっている。
2018年、同行はサステナビリティ推進室を設置。金融の枠を超えて地域価値共創事業として、取引先や地域のサステナビリティの実現に向けて取り組んでいる。20年4月からはSDGsコンサルティングを開始し300以上の企業を支援してきた。
21年1月には、熊本県と共に「熊本県SDGs登録制度」を創設し、SDGsに積極的に取り組む企業や団体などを後押しして、その普及を促進してきた。登録制度の取り組みは現在、カーボンニュートラルの分野での連携も目指している。
県内企業の脱炭素、カーボンニュートラル経営に対する意識は非常に高い。だが、コンサルティングの現場には、経営者の「取り組みたいが社内のノウハウやマンパワーが不足している」「他社システムの利用料金が高い」といった声が多く集まっていた。
そこで当初は、開発費用の負担がなく、すぐに提供できる他社のCO2排出量算定システムと顧客企業をマッチングさせることも検討したが、自行で開発した方が行員の理解が深まり、また自信を持って提供できるという判断に至った。
24年1月、「炭削くん」のサービスが開始された。すると5月時点で県内企業を中心に1000社、12月時点で3000社の導入が決まり、25年3月は4000社の導入が視野に入る。
だが、ゴールはシステム導入企業の数ではないと笠原頭取。
「お客さまに活用していただき、そこから見えるデータに基づいて、行員がコンサルティングやサステナブルファイナンスなどカーボンニュートラル実現に向けた提案を行うという一貫した体制を作り上げていくことを目指しています」