労働力不足や環境問題などの課題が山積する物流業界。それらの課題を乗り越えるためのキーワードの一つが「共創」だ。三井倉庫グループの事業会社である三井倉庫ロジスティクス(MSL)は、顧客企業やIT、新技術などに強みを持つ複数企業とのパートナーシップを通じて、持続可能な物流を共に創造する「オーケストレーション戦略」を進めている。
強く意識しているのは、先行着手だ。松川健一取締役執行役員は「社会や物流を取り巻く環境が急速に変化する中で、単に頭の中で考えるだけでなく、実際の事業として動かしながら課題を解決していくスピード感が大事になります。多くのパートナーと知恵を出し合いながら、より多くの場数をこなしていくことが“解”への近道です」と説明する。
そうした大胆な取り組みを可能にしているのが「LLP」というビジネスモデルだ。リードロジスティクスプロバイダー(Lead Logistics Provider)と訳されることも多いが、同社は実際の物流運営からコンサルタントとしての改善提案までを包括的に担う「パートナー=伴走者」として物流改革をサポートする。
「LLP契約によって、お客さまやパートナー企業の理解を得ながら、先行的な取り組みへの着手が可能になります。パートナーが持つ優れた技術や知見も、物流現場をよく知る当社と一緒に取り組むことによって、より現場に適したものに磨かれます。そうしたオーケストレーションのタクト(指揮)を物流会社である当社が振ることで、ビジョンの解像度を上げていくことができます」と強調する。
未来像の実現へ複数プロジェクトが進行
では、MSLが目指す未来像とは何か――。その一つがGWC(ゲートウェイセンター)と呼ぶ基幹物流センターを基点として、複数のGWC間を緊密な輸配送ネットワークでつなぎ、それらを高度化されたデジタル基盤が支えるという構想だ。その全体像の完成を見据えながら今、複数のプロジェクトが同時並行的に進行している。
このうち輸配送領域では、自動運転トラックの実用化を目指すスタートアップのT2と共同で、自動運転トラックの走行実証を2025年2月から開始。パナソニックが荷主として参加し、実際の貨物を積載した状態での課題について検証している。
デンソーとの共創では、幹線中継輸送サービス「SLOC」を活用し、貨物を積載するコンテナ部分を着脱できるスワップボディコンテナ車両を用いた混載輸送の長期運行実証がスタートした。中継輸送やスワップボディによる荷役分離によってドライバーへの負荷を軽減。さらに、複数荷主の貨物を最適に混載する組み合わせについて、デンソーが独自開発したAIアルゴリズムによる算出結果で積載する検証を行い、積載効率と事業採算性を高めていく。
また、NTTデータとは「中継輸送最適化プラットフォーム(PF)」の構築で連携。同業他社を含む全国にある倉庫を貨物の積み替え拠点として有機的につなぎ、複数の運送事業者が複数拠点間で貨物を積み替えて中継輸送するオープン型のPF構想であり、現在、両社で最適化モデルの検証を進めている。
「輸配送ネットワークを持続可能なものにしていくためには、ネットワークの柔軟性やレジリエンスのための複線化に加え、効率化によってコストを抑制する仕組みが必要。そのために、共同化や新技術のエッセンスを取り込みながら、誰もが利用しやすい輸配送PFの構築に取り組んでいます」