物流の「2024年問題」で叫ばれたドライバー不足という社会課題。これを解決する「切り札」とされるのが、モーダルシフトである。幹線輸送をトラックから鉄道や船舶など他の輸送機関に切り替え、「運べない危機」を乗り越えるというものだ。 

その中でも貨物鉄道は、1編成の貨物列車で、最大で大型トラック65台分の貨物を運ぶことができる。この輸送効率の高さに加え、CO2排出量が営業用トラックの約10分の1という優れた環境特性から、物流の担い手としての注目と期待が、にわかに高まっている。

こうした流れは日本貨物鉄道(JR貨物)の輸送実績にも表れ始めており、同社の2024年度のコンテナ輸送量は、前年を上回って推移している(25年2月現在)。執行役員鉄道ロジスティクス本部の麦谷泰秀営業部長は「荷主企業からの案件や引き合いが着実に増えており、鉄道輸送が選択肢の一つとして認識されていることを強く感じます」と語る。 

「2024年問題」がいわれ始めた当初は、目の前の運べない事態をどう乗り切るかという短期的な相談が多かったが、ここにきて中長期的な視点から鉄道へのモーダルシフトを検討する企業が急増しているという。 

「少子高齢化を背景とした構造的なドライバー減少への対応や、カーボンニュートラルの実現といった将来の課題に対して、自社のサプライチェーンをどのように構築していくかという強い問題意識を持った企業が増えています。物流への関心が格段に高くなっている印象があります」と荷主側の意識変化を指摘する。  

着実に広がる貨物鉄道利用の裾野

そうした変化を端的に表す事例が、利用方法の多様化だ。

これまで貨物鉄道のボリュームゾーンは、輸送距離1000キロメートル前後の長距離帯だった。ところが、最近はドライバーの負担軽減やCO2排出量の削減策として、トラックの“主戦場”である300~600キロメートルの中距離帯、場合によっては150キロメートル程度の短距離帯でも輸送依頼や相談が増えてきたという。 

実際、ネスレ日本は24年2月、静岡県内の工場から出荷されるボトルコーヒーの大阪までの幹線輸送(約330キロメートル)の一部を鉄道にシフトし、大きな話題となった。運ぶ荷物自体も多様化し、輸送中の厳格な品質管理が求められる医薬品でも鉄道を利用する事例が出てきたという。

「医薬品にとどまらず、これまで検討の俎上に載らなかった商材についても前向きに考えていただけるケースが増えてきました。マーケットの着実な広がりを実感しています」

少しずつ輸送実績が増えてきたJR貨物だが、現状では輸送枠にまだ余裕がある。現在の列車の積載率は7割程度(全日平均)だが、数年前のピーク時と比べるとまだ下回っている。「線区や時間帯によっても違いがあるものの、余力はあります。特に土・日曜日の積載率は低く、輸送リードタイムが多少延びたとしても着実に運びたいというニーズにもお応えすることができます。物流危機が顕在化したことで、輸送日数に対するお客さまの許容度は広がっています」と説明する。