行政計画も同様である。

「政府がEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)を推進する動きに沿って、各自治体でもデータ分析に基づいたまちづくりなどの取り組みが広がってきました。そのため、自治体による人流データの活用例も年を追うごとに増えています」(大橋氏)

「駅カルテ」で推計でなく“実数”を把握、Suica利用データがマーケティング戦略を高度化する東日本旅客鉄道(JR東日本) マーケティング本部
戦略・プラットフォーム部門 データマーケティングユニット
大橋昌宏

高度な戦略立案に役立つ「駅カルテ」他にはない三つの特長

人流データを提供するサービスも増えているが、利用する企業や自治体からは、分析の精度や使い勝手に対する不満も聞こえてくるようだ。

「同じ範囲の人流データを集める場合でも、その取得方法はさまざまです。そもそもデータの種類が違うため、それぞれの結果に大きな誤差が生じる場合があります」(大橋氏)

そのためどのくらいの精度のデータが必要か、使用目的によって、使い分ける必要がある。

例えば、都市全体の人の流れを分析する際には、大まかな移動経路を把握するメッシュ(範囲)の広いGPSデータの活用で十分である。しかし、詳細な動線や特定の施設への流入状況など、商圏分析をする場合には、より精度の高いデータが求められる。

「住宅地に面した駅の西口と、商業地に面した東口のどちらに人が流れているかなど、実態・実数を把握したい場合『駅カルテ』が非常に有効です」

「駅カルテ」はJR東日本の人流データサービスで、精度の高さに定評がある。Suicaの利用データを基に人流を追跡するからだ。

Suicaは、利用者が駅への入出場時に自動改札機にタッチすると、その履歴がほぼ確実に記録されるので、欠損データが生まれにくい。しかも、出発地と目的地が明確なので、通勤・通学や、買い物、レジャーなどの人の流れが、かなり高い精度でトレースできるのである。

「どの改札機から入出場したのかも記録されるので、出口ごとの人の流れも分かります」と大橋氏は説明する。

「駅カルテ」は、JR東日本の約600駅分の人流分析レポートを、月次・年次で提供するサービスだ。通常版はPDF形式のレポートだが、データを加工しやすいエクセル版も希望に応じて提供している。

そのサービスには、大きく三つの特長がある。

一つ目は、各駅を利用する正確な人数や性別・年代が分かること。しかも、推計ではなく実数で把握できるのが、他の人流データサービスとの大きな違いだ。

二つ目は、入出場データに基づいて、通勤・通学圏や商圏が把握できること(図1)。さらに、どの駅からどの駅に向かっているのかという人の流れだけでなく、次の入場までの滞在時間も分かるので、通勤・通学客か、買い物・レジャー客か、住民なのかといった細かな分析もできる。

「駅カルテ」で推計でなく“実数”を把握、Suica利用データがマーケティング戦略を高度化するSuicaの情報から訪問者の発駅や、通勤・通学区間を把握できるため、不動産の広告戦略などに活用できる。※サンプル図のため当駅(●)は不表示
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そして三つ目の特長は、過去からの人の流れの変化が分かることである。約600駅分の月次レポートは、2017年度までさかのぼってダウンロードが可能。時系列でレポートを見比べれば、駅ごとの人流の変化が浮かび上がってくる。

開発地の最新の消費規模を把握できる

22年5月に提供開始した「駅カルテ」は、すでに多くの企業や自治体が活用している。

「あるデベロッパーのお客さまは、通勤・通学圏データを基にマンション開発の候補地や、広告宣伝を行う沿線の選定などを行っています。自治体では、駅前の再開発に当たって、どの属性の人が1日何人訪れているのかといったデータを開発計画作りに利用されるケースが多いようです」と大橋氏。

駅利用者数だけでなく、属性まで把握できる「駅カルテ」は、小売・飲食業の出店計画にも活用されている。

さらなるニーズに応え、24年10月には「駅カルテ 消費ポテンシャル」という新たなサービスも提供開始している(図2)。

「駅カルテ」で推計でなく“実数”を把握、Suica利用データがマーケティング戦略を高度化するSuicaデータと、国勢調査などの公的統計データを掛け合わせることで該当駅周辺の消費の可能性を可視化。対象駅と対象年次を入力すると、居住者、訪問者、居住者+訪問者それぞれの1人当たり平均年間消費支出額が表示される。類似駅との比較も可能で出店計画などの参考となる
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 これは、Suicaデータと、公的統計による年収や支出などのデータを掛け合わせた指標で、駅や駅周辺エリアにおける、周辺居住者と電車で訪問する人の消費額を知ることができる。

大橋氏は、「今後も、Suicaを基盤に外部データと組み合わせるなど、価値の高い人流データの提供で、開発戦略やマーケティングの支援をしていきたい」と語った。

●問い合わせ先
東日本旅客鉄道株式会社
駅カルテの詳しい情報はこちら
https://www.jreast.co.jp/suica/corporate/suicadata/eki-karte.html