競争激化する首都圏の中学入試概況と、早稲アカの対応

 第一部は中学入試の概況報告だ。まず、早稲田アカデミー作成の動画が紹介され、夏の合宿や集中特訓、そして正月特訓の様子がスクリーンに映し出される。講師も生徒もハチマキを巻いての熱い授業が繰り広げられる。

 動画が終わると、竹中孝二教務本部長が登壇し、2024年度の中学入試概況が語られる。

引き続き受験者数が募集定員を上回る

 2019年度までは募集定員が受験者数より多かったが、2020年度以降は受験生数が募集定員を上回っている。2024年度の募集定員は4万1,021人で、受験者数は4万2,943人。2,000人近く受験者数のほうが多くなっている。少子化の中、東京都の小学校在籍者数は今年卒業する6年生に対して全学年で子どもの数が増えており、しばらくは受験者数が大幅に減ることはないと予想される。

 早稲田アカデミーの生徒たちの受験動向を見ていこう。

 コロナ禍においては遠方の受験を敬遠してか、受験生1人あたりの出願校数や受験校数は少なくなっていたが、2023年5月の5類感染症移行の影響もあり、2024年度は近年の中でも出願校数や受験校数が非常に多くなった。地域でいうと、埼玉に住む生徒たちの出願校数や受験校数が増え、また他の地域からの埼玉県内の学校への出願数も増えている。栄東、大宮開成、埼玉栄、淑徳与野といった学校で受験者数が増えたこともあるが、開智所沢の開校も大きい。

 日にち別に見ると、これまで午後入試は2月1日や2月2日が中心であったが、今年は2月3日も受験者が多かった。

 午前中の受験校に面接があると、終わる時間によっては午後入試が受けられないケースも出てくる。コロナ禍で取りやめになっていた面接がここに来て復活しているので、出願しても受けられないケースが増えてきたので注意が必要だ。

塾側が受験校を押しつけることはない

 そんな激戦の中学入試だが、学校選びは偏差値や進学実績、設備だけではなく、学校の建学の精神や教育の中身を見ていただきたいと竹中本部長。第一志望は子ども本人が「目指したい学校」、併願校は子どもが「この学校は好きだ」と思える要素があるところを選んでほしいとのこと。そのため、5年生までに多くの学校を見学に行って、目星をつけてほしい。

 ある女子生徒は「スカートをはきたくない。制服はスカートじゃなくてもいい学校がいい」と希望を言い、スラックスが選択できる学校を探して、いくつか候補を見つけたという。そういった身の回りや日常に関することでもいいから、子ども本人の希望に耳を傾け、6年間、心地よく笑顔で通える学校を選んでいくことが大切だろう。

 早稲田アカデミーは家庭が決めた志望校を中心に、家庭の希望を聞きながら併願校についてアドバイスし、子どもや保護者の希望が叶う受験の手助けをしていくとのこと。

 志望校合格のためには、生徒の頑張りと家族の支えが大切だ。しかし、生徒に前向きに頑張ってもらい、効率的かつ効果的に学習を進めていくためにも家庭内で悩みを抱え込まず、生徒と保護者、生徒と塾だけでなく、保護者と講師とが連携して、生徒、保護者、塾の三位一体で後悔のない受験にすることが大切である。

 その三位一体の受験をよりスムーズにすべく、早稲田アカデミーは教務システムの改善を推し進め、メインテキストは四谷大塚の『予習シリーズ』だがオリジナルテキストも作成し、改定を重ねている。

 コロナ禍にあって早稲田アカデミーはオンライン授業への対応が早く、そのクオリティの高さが評判となったが、現在も「早稲アカDUAL」というシステムでオンラインとリアル授業の選択ができる。体調が悪かったり急用ができたりして塾に行けないときは、自宅でオンライン授業が受講可能だ。

 大手塾でありながら、常に新しい試みを模索しているようだ。

入試問題は知識量だけでなく、論述する問題も増加!

 第二部は科目別の入試問題分析だ。早稲田アカデミーの各科目の責任者が登壇し、2024年度の中学入試問題の傾向や対策法について解説した。

国語:問題文に新しい作品が採用される傾向

 国語科責任者の本多弘篤先生が登壇し、入試問題を分析する。

 国語では問題文にどの文章が採用されるかが注目されるが、早稲田アカデミーが分析対象としている中学校の入試問題の約50%は、直近2年以内に発表・発刊された作品から出題されている。中学校としては、塾のテキストや模試で使われていない文章から出題し、受験生が「初めて見る文章」をその場で読み解く力を試したいからだ。

 2024年度の問題を見ていくと、説明的文章では哲学者・戸谷洋志氏の「コミュニケーション」を題材にした文章、生命環境科学の研究者である市橋伯一氏の「ヒト」について論じた文章に注目したい。説明的文章はどうしても時事的なテーマが多くなりがちだが、平時に戻りつつある2024年は、時事的なテーマというよりも「普遍的な人間の本質」をテーマにしたものが目立った。

 この流れを考えると、今後は時事的なテーマに気を配りつつも、オーソドックスなテーマの文章も決して軽視してはならないだろう。早稲田アカデミーでは、普遍的なテーマや定番の問題での得点力はメインテキストの『予習シリーズ』で鍛え、時事的なテーマや新傾向問題への対応はオリジナルテキストで行うことで、変化する入試に柔軟に対応している。

算数:特色のある問題や初見の問題の多様化が見られる

 次に算数科責任者の松山圭介先生が壇上に登場した。中学受験の算数は三部構成で作られる。

①計算や単位換算といった基礎学力を問う問題

②中学受験に向けてしっかり学習をしてきたことを確かめる典型問題と呼ばれるもの

③学校ごとに特色のある問題や初見の問題

 難関中学校の入試については、この中でも③の問題をいかに解けるかで合否が決まってくる。中学校側も、この③の部分を工夫して問題を作成している。

 そのため、今回の解説は③を中心に展開されたが、注目されるのは出題形式の多様化だ。頌栄女子では場合の数の基礎計算を題材に、なぜその計算で求められるのかという理由を記述させる。公式を覚えるだけではなく、なぜその公式になるのかを理解しておく必要がある。

 また、表やグラフなどのデータを提示する問題も目立ってきており、データ分析の問題は今後も増えそうだ。今後は頌栄女子の問題で見られたように自分の考えを表現する力はもとより、また長くなってきている問題文から正確に情報を読み取る力、そしてデータを分析し、検証する能力も必要だ。

社会:日常の「はてな」を習慣的に意識する

 社会科については、責任者の村松優河先生が解説した。まず中学入試における社会という科目は、世の中の動きをリアルタイムで反映するものだと話した。

 2024年度は4つのテーマが目立った。地球環境問題とSDGs、教育、労働、日本文化だ。

 地球環境問題とSDGsに関する出題は定番化しつつある。出題パターンもさまざまで、正誤問題や記述問題など、近年増加傾向にある出題形式にも目を向けたいという。教育をテーマにしたものでは、海城が複数の資料を提示し、大学共通テストにおいて「記述式問題を導入することが検討された際に、多くの人が『公平性が損なわれる』と考えたのはなぜか」ということについて、190文字以内で説明させる問題を出題した。

 問題点や課題、可能性について、受験生に意見をまとめさせる論述形式の出題が近年増加傾向にある。この背景には、コロナ禍を通じて「正解はひとつではない」ことを痛感させられる場面が教育現場であったと考えられるほか、知識の多寡ではなく、入学する生徒の思考のプロセスを評価したい、そして生きる力や学び続ける力を養っていく中で、今後変わりゆく大学入試にも対応できるようにしたいという教育者のメッセージが存在していると考えられる。

 つまるところ、学習習慣として日頃から「はてな」をどれだけ意識できるかが重要だという。「どうしてロシアはウクライナに侵攻を開始したのか?」「どうしてイスラエルとパレスチナは衝突するのか?」といった、テレビの画面越しに入ってくる情報から「なぜ?」を意識する。この習慣化が大切なのだ。

 一方で、目先の時事問題に振り回されないようにすることも大切であると強調する。それらを題材にしても、土台となる基礎的な知識がなければ解けないからだ。社会は他教科に比べて積み重ねが大切な科目であり、普段のテストをおろそかにせず、一定のリズムを持って学習する必要性を語っていた。

理科:「それがあってから今年で何年目」で扱われそうな出来事に注目

 最後に理科責任者の織家聖先生が登壇した。

 理科でも時事問題が多く出題された。コロナ禍には感染症に関する問題が多く出題されたが、それにも増減がある。2022年度はコロナ関連の問題が増えたが翌年は減り、2024年度はまた増えた。筑駒ではパルスオキシメーターの問題が出題された。

 行動制限は解除されたとはいえ、感染症に終わりはないので、今後も要注意のテーマといえよう。感染症に関連して、人体や予防対策に関することを問われることもあるので、それらにも目を配りたい。

 また、2023年度は関東大震災から100年だったことから地震に関する問題がたくさん出された。今後も「それがあってから今年で何年目」という問題は出されそうで、2024年はアメダス運用から50年なので、来年度の入試ではそのあたりにも注目だ。

 そしてまた、2024年度入試では「暑さ」に関する問題も多かった。定番のフェーン現象のほか、開智では冷感シーツといった身近なものを取り上げる問題が出た。

 このような身近なものを扱った問題は、ほかでも多く出ている。よって、家庭でそういったことに関する会話も日常的にあるといいだろう。理科の学習で必要なのは、知識や解法を覚えることはもちろん、原理原則を理解したり、実際に観測や実験ができたりすると理想的だろう。

早稲田アカデミーの入試報告会に参加して

 とにかく参加者の人数が多いことに圧倒された。大きなスクリーンも2つ設置され、非常に規模の大きい会という印象だ。入試問題分析解説では「こういう問題が出題されるので、早稲田アカデミーではこういう対策をします」という、塾として何に取り組んでいるかを伝えるシーンが多く、保護者にとっては知りたい情報を提供してもらえる場だったはずだ。早稲田アカデミーといえば面倒見のよさで知られるが、報告会も保護者に寄り添った内容であった。