受験率は過去最高を記録、最難関層は激戦が続く

 まず、Z会エクタス池袋校の教室責任者・白田真先生より最難関中学の入試概況が説明される。

 今年は受験生が微減したものの、受験率は過去最高を記録した。中学受験で増えているのは中堅校志望者で、その一方で上位層は少しずつ受験者数が減ってきているが、最難関層はあまり減っていない。

 激戦が続く最難関校受験では、毎年「今年は算数で合否が決まった」「4教科のバランス型だった」と傾向が分析されるが、2024年度は明らかに「4教科のバランス型」であった。

 理由としては算数の傾向にある。中学受験の最重要科目は算数とされる。理由はもっとも点差がつくからだ。国語は書き取りや語彙などの知識問題が出るのでゼロ点ということはまずないし、逆に満点も取りにくい。しかし算数はゼロ点が毎年出る上に、満点を取る生徒もいる。算数は点差が出るといわれるゆえんだ。

 しかし、今年はそうもいかなかったようだ。試験を終えたある受験生から算数の感想を聞いた際に、白田先生は「今年は厳しい入試になるかもしれない」と思ったそうだ。

 その受験生は算数が得意なので、捨て問(難問なのであえて解かないことを選択する)と優先して解くべき問題の判別ができる。その受験生から見て今年の算数は、「難しくてみんなが得点できない問題」と「みんなが得点できる問題」の二極化していて、差がつかない問題だったのだ。

 そうなると、算数の学力が高い受験生は、自分の得意科目でライバルに差をつけて入試を突破することができない。また、差がつかないと、ひとつのミスで5点を落とすことが合否を分けることになる。

 算数で差がつかなかったので、ほかの科目で点数を取った受験生が合格する傾向だったと白田先生は分析した。

「緩急をつける」併願パターンが流行り

 最難関校受験では、学力を高める対策だけではなく出願戦略も重要になってくる。

 まず、1月入試は受験をすべきで、合格した場合は弾みをつけることになるし、うまくいかなかった場合は「なぜ残念な結果になったのか」を検証する機会になるからだ。実際の入試を経験することは、ライバルに鍛えてもらえる機会にもなるので、1校か2校は1月に受験すべきだろう。そして、その1月受験校の合否で2月の併願を変えていくこともある。

 最難関校を目指す受験生たちも、受験校には「緩急をつける」ことが必要だ。難易度が高い学校と、比較的やさしい学校の両方を織り交ぜながら受験する必要があるという。2月1日の午後入試はその日のうちに合否がわかるため、受験する生徒は非常に多い。例えばZ会エクタスでは、開成の受験生の半数が2月1日の午後入試を受けている。

 下記は、ある開成受験生の併願パターンだ。

 1月は西大和、栄東A、栄東東大。2月1日の午前が開成、午後が巣鴨算数選抜、2日が渋谷学園渋谷(第2回)、3日が筑駒。この場合、開成と筑駒が緩急の急、つまりハードルが高い入試で、渋谷学園渋谷と巣鴨算数選抜が比較的ハードルが高くない入試となる。

 巣鴨は開成と近い場所にあるから移動がしやすい。しかも1教科入試なので、体力的な負担が少ないから受験する生徒は多い。巣鴨の算数選抜は学力上位層が受験するため激戦であり、毎年、開成に合格しても巣鴨の算数選抜は残念というケースも見られる。

 開成受験生の併願パターンその2は、1月は栄東東大、渋谷幕張。2月は1日が開成、2日が聖光(第1回)、3日が筑駒。2月の受験スケジュールはすべて最難関校であり、「緩急の緩がないじゃないか」というふうにも見えるが、この生徒は1月に渋谷幕張に合格していて、2月は強気に攻めているのだ。

 開成受験生で、筑駒を受験しない生徒の併願パターンも紹介された。この場合、開成がチャレンジ校で第一志望となる。1月は栄東A、栄東東大特待Ⅰ。2月は1日が開成、午後が巣鴨算数選抜、2月2日は本郷(第2回)、2月3日は海城(第2回)。1月に合格を決めていて、その学校に進学してもいいという意思があれば、2月はチャレンジ校と人気の難関校を受験する。

 Z会エクタスの塾生のうち、麻布の受験生は1日の午後入試受験の割合が40%、世田谷学園や巣鴨算数選抜、東京都市大(第1回)など幅広く受験校を選んでいる。2日は栄光と本郷が多く、3日は海城(第2回)と筑駒が大半を占める。

 武蔵は練馬区にあるため、東京都の北地区か埼玉の受験生が多いようで、1月は栄東Aと立教新座(第1回)を受ける生徒が多い。2月1日の午後の受験率は53.3%と高めで、東京都市大(第2回)、巣鴨算数選抜、國學院久我山ST、世田谷算数など幅広く選択している。2月2日は本郷(第2回)、桐朋(第2回)、栄光が多く、ほかにも巣鴨(第2回)、城北(第2回)、攻玉社(第2回)など、東京の北方面の学校を受けていて地域性が見える。3日は海城(第2回)が多いが、浅野や筑駒を受ける生徒もいる。

 女子御三家を受験するZ会エクタス塾生は、1月は浦和明の星(第1回)、栄東A、市川(第1回)の順だ。それ以外で目立つところは、新規に設置された淑徳与野の医進コースを併願する生徒もいた点だ。

 Z会エクタス塾生の2月1日の午後入試の受験率は37.5%で男子よりは少ないが、広尾(第2回)、東京農大一、普連土算数など幅広く受けている。2月2日は豊島岡女子(第1回)、吉祥女子(第2回)、洗足(第2回)、大妻(第2回)。2月3日は豊島岡女子(第2回)、都立国立12.5%となっている。

 桜蔭を目指して勉強をしていると豊島岡女子に受かりやすくなり、雙葉と白百合は算数の出題傾向が似ているから併願がしやすい。一方で桜蔭に合格しても、豊島岡女子に進学する生徒も見られる。

家庭での日常会話からも学びが期待できる

 次に各科目の分析がされたが、この記事では細かい講評ではなく各科目の講師が伝えたいことを取り上げる。

 まずは国語だ。算数の場合、講師がヒントを与えると生徒が「わかった!」と問題を解けることがあるが、国語はそうではない。そのため対策も大変だが、国語では高点数を目指すよりも、失点しないことが大切だ。

 男子校や桜蔭では記述が多いため、その対策として日常的に会話をすることが必要である。例えば 「宿題をやった?」聞いてても「やった」「やってない」の二択の答えになる。しかし、「今日は学校でどんな授業を受けたの?」などと声掛けをすると、子どもは自分の言葉で説明することになる。そういった日々の生活での会話も大切にしてほしい。

 算数は先に述べたように、差がつきにくい入試傾向だった。ほとんどの受験生が解けない難問と、解けて当然の問題のみの組み合わせが多かったからだ。そうなると、必要になるのは問題を取捨選択する能力だ。解けない問題に時間を費やすことはしないようにしたい。解ける問題を解き、それらを見直すことが大切で、そのための時間配分を正しく行う力も必要である。

 社会では、知識をどう使うかが問われる。今の受験生たちはスマートフォンが普及してから生まれているから、それ以前のことは肌感覚としてわからないことも多いだろう。そうした自分が知らない過去の世界を想像できるようにしたい。そのためにも、家庭で「昔はこうだったんだよ」というような会話もしてほしいという。

 理科では、問題を正しく読み、理解し、活用することが大切だ。問題の隅から隅まで条件を拾い上げて、それを駆使して解いていく。例えば「蜃気楼」ならば、名前を知っているだけではなく、どういう原理で発生し、長く見えたり短く見えたりするのはなぜかまでを理解する必要がある。単純な暗記にとどまらず、本質を把握してないと太刀打ちできないのが難関校の理科である。

 入試問題分析の間には、今年、筑駒と桜蔭に合格した生徒が登壇し、体験記を読み上げた。筑駒に合格した生徒は1月入試で残念な結果になったが、その見直しをしながら勉強を続けたことが合格につながった。桜蔭に合格した生徒は秋の模試で伸び悩んだときも動じず、勉強の仕方を変えなかったことが合格につながった。さらに、うまくいかないときも自分を信じ、ブレずに努力することが大切だと発表した。

Z会エクタスの入試報告会に参加して

 大手塾の報告会は幅広い層に向けて行われるので、難関校の問題も、さほど難しくはない問題を取り上げることも多い。一方、最難関校対策専門塾であるZ会エクタスの報告会では、ほかでは扱わなかった難問も取り上げられた。そうした難問の分析や解説にも保護者たちは真剣に聞き入っており、最難関校を目指す家庭の熱意に触れる貴重な機会となった。