「通うことを前提とした」埼玉県の中学校への受験が増えた
――今年は埼玉の中学校に受験生が集まったことが話題になりましたが、やはり開智所沢の開校の影響でしょうか。
藤田:開智所沢は、開智と一度に両方が受験できるということで、約8,000人の受験生が集まりました。
新規開校といっても、開智という実績のある学校の系列校ですから、内容がしっかりしている安心感もあっての人気でしょう。入学手続きをした受験生の数も多く、「お試し受験」ではなく、通うことを前提に受験したケースも多かったことがわかります。場所も東所沢なので、東京の西武沿線やJR沿線からアクセスがよく、今後も人気を集めそうです。
――他にも人気の注目校はありますか。
藤田:栄東は安定した人気で、毎年1万人を超える受験生が集まりますが、今年も前年度比で受験生が149人増えています。浦和ルーテルは青学の系属校ということもあって、人気が高まっています。英検を利用した入試方法もあるのも、注目が集まっている理由の一つです。特にさいたま市は、小学校の英語教育に力を入れているという土地柄ともマッチしています。
――東京の受験生が埼玉の学校を多く受けたといわれますが。
藤田:淑徳与野は1月と2月に入試を行います。1月13日入試は受験生が1,560人、2月4日の受験生は149人です。2月は東京の受験生が受験しないと推測できますから、それだけ1月は東京勢が多く受験したことがわかります。淑徳与野もそうですが、東京からアクセスがよい京浜東北線沿線の学校が人気ですね。西武池袋線沿線の学校も、同じ理由で受験生が集まります。
最近では東京以外の地域からの受験生も増えています。今年は千葉の流山エリアからの受験生も目立ちましたね。武蔵野線などから乗り換えなしで通えるということで、受験するケースもあるようです。
1月に埼玉で入試を行う学校は、合格しても入学金の納入期限が2月以降で、東京の学校の合格発表があってからなんです。栄東は2月9日が納入期限で、大学付属校である立教新座でも2月2日の16時59分までですからね。
他にもメリットはあります。たとえば合格発表の時に得点を開示し、全体の中での順位を示してくれる学校がいくつもあるので、2月の東京の入試に備えて、今どの位置にいるのかを把握することができます。浦和実業、大宮開成、開智、開智所沢、埼玉栄、栄東、西武文理などが得点開示をしています。そういった配慮がなされていることもあって、埼玉の学校は受験生を増やしているのだと思います。
以前ですと、東京在住の受験生は埼玉で1校だけ受けておくことが多かったですが、2校、3校と受けるケースも増えてきました。午前に栄東を受けて、午後に淑徳与野を受験するというようなパターンでしょうか。
埼玉在住の受験生の東京受験は減少傾向に
――埼玉在住の受験生の動向はいかがですか。
藤田:東京の受験生が埼玉の学校を受験するケースは増えていますが、反対に埼玉在住の受験生が東京の学校を受ける数は減少しています。埼玉に私立中が増え、県内でもわが子に合った学校選びができることがわかってきたので、わざわざ東京まで出なくてもいいと判断されるご家庭が増えているのでしょう。
埼玉の学校は大学受験に向けたサポートが手厚く、成績が振るわない際のフォロー体制もしっかりしている印象があり、それが進路実績にも表れてきているように思います。また、理数コースや外国語コースなど、さまざまなコースを設けている学校が多いので、目的に合った学びができる点も魅力でしょう。
――コース別というと、今年は淑徳与野が医進コースを開設して注目を集めました。女子校の動向はいかがでしょうか。
藤田:淑徳与野の医進コースは県外からの受験生も多く、御三家との併願も目立ちました。1月11日の午後にも入試を行ったので、埼玉の他の学校とも併願がしやすかったようです。淑徳与野は学習面の面倒見がいいため人気が高く、第1志望にするケースも多くなっています。
一方、浦和明の星は東京のトップ層の女子が受験に来るので、難度がとても高く、受験生の数は伸びていません。大妻嵐山は進学コースを設置したり、適性検査型入試を採用したりと新しい試みをしています。
落ちつく都立一貫校人気。一方、埼玉は公立一貫校もまだまだ倍率が高い。
――公立一貫校の動向はいかがですか。東京では都立一貫校の受験者数は落ち着いているように見えますが。
藤田:東京だけでなく、千葉、神奈川では公立一貫校の受験生が減っていますが、埼玉は増えています。埼玉の公立一貫校の最難関、市立浦和は2023年度の倍率が男子7.52倍、女子8.10倍だったのが、2024年度は男子が7.58倍、女子が8.68倍と増えています。都立一貫校の最難関、小石川の今年の倍率が男子3.61倍、女子が4.09倍ですから、いかに市立浦和の倍率が高いかが分かっていただけるかと思います。
ではなぜ、埼玉は公立一貫校が人気なのか。その背景としてはまず、県内の中学受験生が増えていることがあると推測しています。公立中高一貫校を第1志望にする生徒たちは、浦和実業、武南、狭山ヶ丘、聖望学園といった私立の適性検査型入試を併願で受け、第1志望の公立中高一貫校が不合格だった場合、そちらの私立に進学するケースも増えています。2021年に川口市立が開校したことで、武南の受験生が大変増えているのは併願校として選ばれているからでしょう。
なぜ埼玉だけ、公立一貫校の受験生が減らないのかというと、難度がそこまで高くない印象があるからでしょう。都立一貫校は合格のハードルが高いという事実が周知されているので、敬遠するトレンドがありますが、埼玉だとまだまだ合格の可能性があるという印象かもしれません。しかし実際には、先に挙げた市立浦和はハードルが高くなっており、十分な対策をしてもそう簡単に合格できる学校ではありません。
――東京では「難易度よりも校風」「子どもに合った学校に入れたい」という方針が主流になってきていますが、都外だと「偏差値60以下の市立中学には進学させたくないので、地元の公立中学に進学し、高校受験でリベンジをする」というケースも目立つと聞きます。
藤田:大宮より北ですと距離的なものもあり、「栄東だけを受けて合格に届かなかったら地元の公立中学に進学」というパターンも見受けられます。通学時間を考えると、東京の学校は検討しないことも多いでしょうから。
一方、大宮より南では中学受験率が高くなってきていますね。中には半数が受験をするという小学校もあります。そのエリアですと、東京型の受験方針のご家庭が多いですね。校風やカリキュラムが「わが子に合うか」で学校を選択する傾向があり、せっかく中学受験をするのだから、受かった学校に通わせようという方針です。そういったご家庭が選ぶのが埼玉県内の学校になっていることもあって、埼玉の学校は受験生を増やしているわけです。
埼玉の学校の人気が高まる中では、併願の戦略が重要になってきています。栄光ゼミナールは首都圏全域に校舎があるので、その校舎の周辺の私立中学だけではなく、市外や県外の学校の正確な情報提供を今後も行っていきたいと思います。