プロジェクト責任者が語る新校舎のポイントとは

大友義博先生・有山智雄先生
大友 義博 先生(左)・有山 智雄 先生(右)
開成高等学校美術科教員 大友 義博 先生

 1965年熊本生まれ。東京藝術大学絵画科油絵専攻卒業、同大学院修了。1995年より現職。建築委員会副委員長。

開成高等学校理科(地学)教員 有山 智雄 先生

 1960年東京生まれ。開成高校卒業。東京大学理学部地学科卒業、同大学院修了。1989年より現職。建築委員会委員長。

 新しいキャンパスに生まれ変わった開成中学校・高等学校。創立150周年記念事業として、今から12年前の2012年に新校舎建築計画がスタートした。2021年にA棟、2023年にB・C棟が竣工。長い年月をかけて設計・建築された高校の新校舎のポイントは、主に3つある。

 1つは、現場の教職員の意見が全面に反映されていること。建築会社のアイデアを選択するのではなく、できるだけ現場の意見を吸い上げて集約し、皆で一緒に考えていくという姿勢で建築が進められた。

単なるデザイン重視ではなく、生徒たちが笑顔で、いきいきと生活している姿をイメージして作った」と語るのは、取材に応じてくれた有山教諭(建築委員会委員長・理科教員)と、大友教諭(建築委員会副委員長・美術科教員)。初期段階からこのプロジェクトを牽引し、生徒ファーストの姿勢を最後まで貫いた。

 もう1つのポイントは、回遊性が生まれたことである。これまで中学と高校のベースフロアは統一されていなかったが、新校舎では同じ3階に統一され、上空通路を一本増設したことで、その間をアップダウンなしで行き来できるようになった。敷地面積が限られているので、どうしても高層の校舎になってしまうが、生徒の負担が少なくなるように工夫がなされている。

「高校の普通教室は3~5階に配置されていますが、グラウンドは4階の床面と同じ高さにあり、3・5階の学年も1フロア分を移動すればすぐにグラウンドに出られるようになりました。また、防災の観点でも、避難経路をよりスムーズにすることにつながりました」(有山教諭)

 そして、3つ目のポイントは、共有スペースが増えたことである。これまで、普通教室と体育館は別々の棟に配置されていたが、新校舎では同じ棟に集約され、その分の余剰スペースが生まれたのである。

 3~6階の角には北広場があり、生徒が自由に活用し、交流することができる。また、4階の芝テラスでは大空の下で寝転がったり、お弁当を食べたり、風通しのよい空間でリフレッシュすることができる。

「共有スペースを増やしたことで、風も視界も抜けますから、生徒は気持ちよさそうに生活しています。その姿を見ると、現場の教職員主導で作り上げてよかったと思います。卒業生が来ても、異口同音に『以前よりとても広く感じる』と言ってくれます」(大友教諭)

「開成の未来を創る」というコンセプトを掲げたものの、将来的に必要となる物を全て想像することは難しい。だからこそ、まずは自由に活用できるスペースを確保し、その時々のニーズに臨機応変に応えられる環境を整えたのだ。また、その開放的な校舎の造りは、同校が世界に向かって開かれていることを象徴しているようだ。

先生に聞きました!新校舎のポイントは?

大友先生 

 敷地にある12mの高低差を建物で解消することで、キャンパス全体に回遊性とスムーズな動線が生まれ、中高間の移動時間も短縮することができました。

有山先生

 中学・高校全体の使いやすさと、活動スペースの確保を重視しました。生徒たちが笑顔で、いきいきと生活できる生徒ファーストの新校舎です。

校舎という教育装置にあらゆる仕掛けを作る

 続けて両教諭は、「生徒たちは、それぞれに気に入った場所を見つけて、活用しやすいように工夫していきます。その結果として校舎の伝統が生まれていきます」と語る。校舎は、自ら成長していく生徒を支援するための1つの教育装置だという。

 その教育装置には、生徒の心を引き締めたり和らげたりできる、あらゆる仕掛けがなされていて注目に値する。それらを順を追って紹介していきたい。

校舎外観

校舎外観_1

 校章は大友教諭が実際に原型を彫刻したもので、風になびいているような躍動感がある。正面の左3本のルーバーは中学3年間、右3本のルーバーは高校3年間、それぞれの3本をつなぐ上1本の横ルーバーは中高一貫校を表している。

校舎外観_2

 また、全体のレイアウト、ファサードも大友教諭のデザイン。いかにも新築という雰囲気が出ないように、落ち着いたグレーを基調としているが、正門敷石だけは気を引き締められるように白とした。伝統の教育理念「質実剛健」のイメージを出すため、直線だけに統一し、細部までこだわり抜いた。

新校舎[高校]キャンパス内MAP:A~C棟

キャンパス内map

大体育館:A棟B1F

体育館

 バスケットボールの正規コートが2面、バドミントンのコートが8面敷かれている。これまでバドミントンは6面だったので、スペースが広がった。ここで入学式、卒業式なども執り行われる。

 グラウンド、小体育館、武道場もあって、体育施設がとても充実。育ちざかりの男子が目いっぱいに体を動かせる環境が整備されており、そのニーズへの配慮が行き届いている。強固な柱と梁は、上のフロアを支えている様子が感じられるようにカラーリングで印象的に仕上げた。

小ホール:A棟3・4F

小ホール

 OBの講演会、プレゼン型の授業、ミニコンサート、演劇などで使用する。110席(2クラス分)あり、窓がなく、赤とグレーのコントラストはまるで映画館のようで、集中して楽しみやすい空間。

北広場:A棟3〜6F

北広場

 生徒が自由に活用、交流できる空間。共有スペースを増やしたことで、より伸び伸びと生活できるようになった。

吹抜テラス:A棟3〜6F

吹き抜けテラス

 学年ごとのフロアをつなぎ、生徒同士が行き来して交流しやすくなった。休み時間など、風に当たってくつろぐこともできる。

予備教室:B棟4・5F

予備教室

 授業や文化祭で使用し、1教室に50人ほど収容。パーティションを開ければ100人収容の大教室になる。分割・合併授業などの選択授業にも対応できる。大きな黒板があり、プロジェクターをさらに増やすことも検討されている。

理科実験室:B棟6F

理科実験室

 全面のホワイトボードが印象的な理科実験室。

天文ドーム:B棟屋上

天体ドーム

 屋上の天文ドームには、太陽観測などに使う天体望遠鏡を設置。屋上からは富士山も見える。

学生ホール:C棟2F

学生ホール_1

 食堂でもあり、勉強や部活動などのいろいろな活動ができる1つの拠点。ガラス張りでお互いにやっていることが見え、生徒同士が刺激を与え合えるように造られた。北側の窓には向陵稲荷坂の桜並木が広がる。

 学業はもちろんスポーツ・芸術など、さまざまな分野に打ち込む開成生。新校舎は、普通教室など学年別で固まれる場所、学生ホールなど共用できる場所、図書館など一人で集中できる場所が取り交ぜて造られている。

学生ホール_3

 ピアノを弾く生徒もいる。ガラス張りの窓によって、生徒同士がお互いの活動を見られるようになっている。

図書館:C棟2・3F

図書館_1

 実質2フロアとなっていて、70席ほどあり、授業で利用されることもある。高校生だけでなく中学生も利用しやすい場所に設置され、蔵書は約60,000冊、購読雑誌37誌、購読新聞10紙。

図書館_2

 休み時間・放課後・自習時間などは生徒でにぎわい、読書離れといわれる昨今にあって、帯出される本も多分野にわたる。授業の課題学習や学年旅行、クラブ活動の資料調査にも積極的に活用されている。

美術教室・芝テラス:C棟4F

美術教室

 美術教室は、おしゃれなカフェのような洗練されたデザイン。ドアを広く開け放つことができ、匂いがこもらないようになっている。

芝テラス

 芝テラスはC棟屋上の気持ちのよい空間。ここでお弁当を食べて、くつろぐこともできる。美術教室の前には、美術にちなんでオリーブと月桂樹が植えられている。

太陽光発電

太陽光発電
▲複層ガラスの窓で発電。校舎全体で42枚設置されている。

 大通りに面したガラス窓の一部に太陽光発電が導入され、同校が初の実用例となった。平常時には照明などの設備に電力を供給。非常時には特定のコンセントに電力を供給し、スマートフォンの充電などに使用できる。

太陽光発電ディスプレイ
▲発電電力量の推移はディスプレイで可視化。

取材を終えて

 以前と比べてグラウンドに出やすくなり、体育施設もより充実していて、男子生徒の期待に応えるまさに生徒ファーストの新校舎です。どこにでも移動しやすい回遊性。ゆとりのある空間。風も視界も抜けて、本当に過ごしやすいキャンパスです。ぜひ、多くの受験生に足を運んでいただければと思います(取材:TOMAS教務本部 松井 誠)。