現場に生まれる「いじめ」の構造
前回は「いじめ」の定義を中心に考えてみました。今回は、「いじめ」の現場で加害者と被害者(心身の苦痛を感じている状態の生徒)を目にしたり、そのことを知っていたりする生徒の立ち位置について考えてみたいと思います。重大化を防ぐためには、「いじめ」の構造を知り、こうした周辺の生徒たちがどのように行動するかがとても大切になるからです。
まずは事例から。今回は合唱コンクールを取り上げます。中1で扱う学校もありますが、中高一貫校では中2で実施することが多いものです。前回は講義型で授業を行いましたが、今回は5~6人のグループ単位でディスカッションをしながら学習を進めていきます。
Aさんのクラス(40人)は、合唱コンクールで優勝するために学級委員のBくんを指揮者に選び、Bくんの発案で毎日30分間の朝練をすることになりました。この発案に異を唱える人は誰もいませんでした。
早起きすることが苦手なCさんは、練習に毎回10分ほど遅刻するようになりました。これに対して、練習熱心なDくんたち4人は、「Cさんはやる気がない」などと不満を口にするようになりました。
Dくんたちは遅刻して慌てて教室に駆け込んでくるCさんの姿を面白おかしくまね、それを見て15人ほどの生徒が大笑いするようになりました。Bくんはその様子を静かに見ていました。
ある日、DくんたちがCさんを「遅刻魔」などと呼ぶようになり、クラスの誰もCさんと話さなくなりました。Aさんは「このままではいけない。何とかしなくては」と思いつつも何もできませんでした。
(出所)『教師もできるいじめ予防授業』より要約・一部改変
合唱コンクールはたいていの学校で実施されますから、この事例は生徒さんたちにとっても「自分事化」しやすいようです。ただ、それだけに議論も白熱しすぎることがあるので、議論の進め方にはやや注意が必要です。実際にそのクラスで指揮者をしたことのある、あるいは、似たような状況に置かれたことがある生徒さんたちが、矢面に立たないよう配慮する必要があります。
トラブルの発端は「Cさんの遅刻」です。Cさんの遅刻がクラス全体の合唱練習の妨げとなり、その結果、Cさんは次第に周囲からからかいを受け、無視されるようになります。Aさんや練習の発案者である指揮者のBくんは、この状況を静観するだけ……。合唱コンクールに限らず、集団生活におけるさまざまな場面で起こりうる事態です。