2023年度入試での女子大学の入学定員割れは77%

 本年2024年度から、恵泉女学園大学と神戸海星女子学院大学は募集停止となり、愛知県の開校120年の桜花学園大学は男女共学化に踏み切りました。2025年度からは、名古屋女子大学と神戸松蔭女子学院大学、長野県の清泉女学院大学と兵庫県の園田学園女子大学が共学化され、東京家政学院大学が段階的に共学化を実施します。学習院女子大学は最短で2026年度にも学習院大学に統合されます。

2021年度以降の私立女子大の設置に関する動き

2021年度以降の私立女子大の設置に関する動き

※各大学の発表をもとに東京個別指導学院が作成(2024年3月18日現在)

 国立女子大学はお茶の水女子大学(東京都)と奈良女子大学(奈良県)の2校、私立女子大学は70校ほどがあります。女子大学の大部分を占める私立女子大学について、学生募集面の現状を見てみましょう。2023年度入試における私立大学の入学定員割れ大学数の割合は53.3%と過去最大になりましたが、私立女子大学に限ると、入学定員割れ大学数の割合はさらに増えて77.1%にのぼります*¹。

 2023年度入試で入学定員を満たす入学者があった女子大学は以下の通りです。

2023年度入学者数が入学定員を充足した大学(五十音順)

大妻女子大、学習院女子大、鎌倉女子大、京都女子大、共立女子大、実践女子大、昭和女子大、女子栄養大、女子美術大、聖心女子大、清泉女学院大、津田塾大、東京女子大、東京女子医大、同志社女子大、日本女子大

※『2024年度用 大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)などをもとに東京個別指導学院が作成*¹

 上に名前のない大学の中には、入学定員は満たしていなくても収容定員(全学年での定員)を満たしている大学もあり、入学定員割れ大学=人気のない大学ということではありません。しかし、経営的に厳しい大学の割合は、共学大学より女子大学のほうが高いようです。

私立大学の入学定員充足率の分布

※「令和5年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」(日本私立学校振興・共済事業団) 『2024年度用 大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)などをもとに東京個別指導学院が作成*¹ *²

*¹ 私立大学全体の数字は「令和5年度私立大学・短期大学等入学志願動向」(日本私立学校振興・共済事業団)による。女子大学は『2024年度用 大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)による。ただし、同誌にデータ未掲載の恵泉女学園大東京家政大、神戸海星女子学院大(入学者入学定員)、日本女子大(入学者入学定員)は大学HP等より収集
*² ここでの入学定員充足率は、全国の大学を各学校の入学定員規模別に、各入学定員規模の総入学者数/総入学定員を示している

 なお、女子の大学進学率の伸び率は男子よりも高く、1990年度に対して2023年度では359%にもなっています。男子は182%ですから、伸び率のポイントではほぼ倍です。

 そのような中で、なぜ多くの女子大学の経営は厳しい状況に陥っているのでしょうか。

4年制大学進学率の変化

4年制大学進学率の変化※文部科学省「学校基本調査」をもとに東京個別指導学院が作成

女子大学の経営が厳しい理由➀少子化の影響

 2024年度以降の募集を停止する恵泉女学園大学と神戸海星女子学院大学はともに、募集停止に至った理由の第一に「18歳人口の減少」を挙げています。確かに、1990年度と比較して2023年度の18歳人口は55%に減少し、女子大学の数も約2割減少しました。それでいて、短期大学の4年制大学化や女子大学の共学化、専門職大学の新設などにより、大学数そのものは1.6倍に増えているのです。数を増やした大学の中で、減少し続ける受験生の奪い合いが起きているということになります。

大学数・短大数の変化※大学数・女子大学数・短期大学数は私立大学以外も含む。文部科学省「学校基本調査」、武庫川女子大学「大学・短期大学・女子大学数と18歳人口の推移」をもとに東京個別指導学院が作成

女子大学の経営が厳しい理由➁共学志向の高まり

 近年は社会情勢の変化の中で、高等学校教育も共学化が進んでいます。下表のように、9割以上の高校は共学になっており、特に私立高校の共学化が顕著です。

男女とも在学している高等学校の割合

男女とも在学している高等学校の割合※文部科学省「学校基本調査」男女別学校数をもとに東京個別指導学院が作成*³

 共学の高校に通う生徒が共学の大学を選ぶことは自然な流れですが、少数派である女子高校に通う生徒がみな女子大学を選ぶかというと、そうではありません。男女共同参画が求められる中、性別を問わない開かれた学び舎で、視点を広げる経験の必要性を考える女子学生は多いのではないでしょうか。

 かつてはバンカラ *4な校風で知られた早稲田大学の学部生の女子比率は、1990年度では19.3%に過ぎませんでした。しかし、2023年度には38.7%と倍増しています。

早稲田大学の女子学生比率の推移

早稲田大学の女子学生比率の推移※早稲田大学「1990~2010年度 学生数推移」「Vision 150 数値目標に対する数字の推移」をもとに東京個別指導学院が作成

 2023年度の入学者に限ると、早稲田大学国際教養学部の入学者女子比率は62.9%です。同様に、明治大学国際日本学部は64.0%、法政大学国際文化学部は74.8%、関西大学外国語学部は66.0%、立命館大学食マネジメント学部が67.0%と、共学の大学であっても女子入学者比率が高い学部が目立ってきています。

*³ この表は学校基本調査の集計通り、男子校あるいは女子校という分類ではなく、本校(分校を除く)に現実に在学している生徒の状況により分類して集計している。
*4 「バンカラ」という言葉は、大正時代から昭和初期にかけての日本の学生文化を指します。元々は「ハイカラ」の対義語として使われました。バンカラは、「野蛮」と「ハイカラ」を掛け合わせた造語で、粗野でありながらも情熱的で自由な生き方を象徴しています。当時の学生は、自らのスタイルを強調するためにわざとボロボロの制服やマントを着たり、下駄を履いたりすることが多かったです。

女子大学の経営が厳しい理由③実学・理系志向の高まり

 下表は、2014年度と2023年度の大学入学者数の差異を学問系統別に示したものです。これによると、文学・史学・哲学といった人文科学系統、家政学系統、教育学系統の入学者が減少し、経済・経営・商学・法学といった社会学系統に加え、理学系統、工学系統、農学系統、医・歯・薬を含む保健系統の入学者が増加傾向にあり、近年の大学生は「実学・理系」志向といえます。特に女子学生に、この傾向は顕著です。

2023年と2014年の大学学問系統別入学者数差異と増減率

2023年と2014年の大学学問系統別入学者数差異と増減率※文部科学省「学校基本調査」をもとに東京個別指導学院が作成

 かつて私立女子大学の多くは「良妻賢母を育てる」といった当時の社会状況を前提として、文学部、教養学部、家政学部などの1~2学部のみで構成されていました。しかし、1986年に男女雇用機会均等法が施行されるなど、社会での女性活躍推進の動きに女子大学も呼応します。資格取得に直結する看護、保健、薬学、社会福祉、ビジネスなど、女性の社会進出につながりやすい学部を新設する動きが強まりました。

武庫川女子大学「私立女子大学における学部数分布と経年変化(1950~2020)」をもとに東京個別指導学院が作成 2023年度は『2024年度用 大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)などをもとに東京個別指導学院が作成

※武庫川女子大学「私立女子大学における学部数分布と経年変化(1950~2020)」をもとに東京個別指導学院が作成。2023年度は『2024年度用 大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)などをもとに東京個別指導学院が作成

 2023年度には日本女子大学が国際文化学部、共立女子大学が建築・デザイン学部、京都女子大学がデータサイエンス学部、武庫川女子大学が心理・社会福祉学部と社会情報学部を開設しています。2024年度も実践女子大学が国際学部、日本女子大学が建築デザイン学部、ノートルダム清心女子大学が国際文化学部と情報デザイン学部を新設しました。

 このような動きはあるものの、社会科学系・理工学系などの新設学部の存在を受験生に認知させるには、ある程度の年月が必要です。また、認知が広がった後には、競合する共学大学との受験生の奪い合いになります。理系、特に工学系においては女子学生の入学者が増加傾向にあるものの、依然として入学者数の男女比には偏りがあります。

大学入学者の女子の割合の変化

大学入学者の女子の割合の変化※文部科学省「学校基本調査」をもとに東京個別指導学院が作成

 このため共学大学の理工系学部では、多様性の確保を理由に「女子枠」を設ける大学が増加しています。2026年度入試から京都大学、大阪大学、広島大学でも「女子枠」を新設します。共学大学の「女子枠」が増加することは、女子大学の理系学部にとって、受験生の獲得競争が激しくなることを意味します。

「女子枠」を設けた主な大学※各大学のHPから東京個別指導学院が作成

*5東京工業大は2024年10月に東京医科歯科大と統合し、東京科学大学になる予定

女子大学の経営が厳しい理由➃「総合大学」志向の高まり

 女子大学は概して、小規模の大学が多いのが特徴です。少人数だからこそ学生と教員との距離が近く、一人ひとりの学生に目が届きやすいことがメリットのひとつですが、近年の大学受験生は規模の大きな大学を志望する傾向があります。

 大規模な大学ほど多くの学部を擁していることが一般的で、多様な科目や専門性の高いコースを提供しています。また、研究資源が豊富な傾向があり、最先端の研究に触れる機会も多いのが特徴です。自分の興味やキャリア形成の目標に合わせて学びを深めることが可能で、学術的なキャリアを目指す学生にとっても魅力的な環境です。

 このため、入学定員の多い大学ほど入学定員充足率が高い傾向にあります。さらに、文部科学省が2022年に収容定員充足率5割以下の学部があると新学部設置を認可しないと基準を改めたため、定員充足率の高い大学ほど新学部を増やして「総合大学」化しやすくなっているのが現状です。

 そうした中、2023年度入試では、入学定員1,500人以上の私立大学は83大学ありましたが、私立女子大学はそのうちの4大学にとどまっています。

入学定員規模別の2023年度入学定員充足率

※「令和5年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」(日本私立学校振興・共済事業団) 『2024年度用 大学の真の実力 情報公開BOOK』(旺文社)などをもとに東京個別指導学院が作成。*¹ *² なお、入学定員3,000人以上の私立女子大学は存在しない。

女子大学の経営が厳しい理由➄売り手市場の就職状況

「令和4年度大学等卒業者の就職状況調査」(2023年3月卒業)では、男女とも就職内定率は97.3%で、前年より向上しました。2011年3月大学卒業者の女子内定率は90.9%(男子は91.1%)ですから、就職率は上昇基調です。少子化の影響はここでも大きく、就活生の人数よりも採用予定人数が多い状態(売り手市場)が今後も続くと見られています。

 後述するように、女子大学の強みのひとつに「就職に強い」点があります。しかし現在の就活状況を見ると、就職面を考えて、あえて女子大学を選ぶ受験生は減少していくのではないかと個人的には推測しています。

※文部科学省「令和4年度大学等卒業者の就職状況調査

女子大学で学ぶメリットとは?

 前述したように、女子大学は概して小規模・少人数の大学が多く、学生と教員との距離が近いため、一人ひとりの学生に目が届きやすいことがメリットのひとつです。また、異性に気を遣わずに自分らしくいられることや、社会における女性の問題などを認識する機会が多いというメリットもあるでしょう。さらに、自分の目指す進路のロールモデルになるOGを発見しやすくもあるようです。

 就職面のメリットも女子大学の強みのひとつです。女子大学に求人票を送る企業は女性を積極的に採用する意思があるということであり、就活におけるミスマッチが少ないのです。

「2023年有名企業400社実就職率ランキング」(大学通信調べ)のベスト100大学には、8つの私立女子大学がランクインしています(津田塾大、日本女子大、東京女子大、聖心女子大、神戸女学院大、フェリス女学院大、学習院女子大、昭和女子大)。新卒の就職活動をサポートするだけではなく、出産・育児等を経て再就職する際の支援を積極的に行う女子大学もあります(日本女子大、昭和女子大、女子栄養大、武庫川女子大など)。

※大学通信「2023年有名企業400社実就職率ランキング

 学びたい学問が明確で、その学問を学べる環境があり、女子大学ならではメリットに共感する受験生にとっては、女子大学は大いに大学選びの選択肢となるでしょう。

 本コラム前半で述べた5つの理由が影響して、有名女子大学においても一般選抜の入試難易度(偏差値※)が下降している学部があります(※偏差値は大学や、その研究・教育内容の価値を示すものではありません)。したがって、以前よりも合格しやすくなっている女子大学の学部が増えているといえます。第一志望として考える場合でも併願として考える場合でも、これは有利です。

主な女子大学の合格者平均偏差値の推移(10年前との比較)

主な女子大学の合格者平均偏差値の推移(10年前との比較)※ベネッセコーポレーションの進研模試 総合学力記述模試での合格者平均偏差値(学部代表偏差値)をもとに東京個別指導学院が作成(学科、入試方式や入試日程によって合格者平均偏差値は異なります)

女子大学は生き残りをかけた改革の最中

 入学定員を確保している女子大学も、生き残りをかけた動きを見せています。理由➃で触れたように、女子大学は学べる学問領域を増やしてきましたが、新時代に対応すべく学部学科の新設・再編の動きも盛んです。

 2025年度にも大妻女子大学がデータサイエンス学部、実践女子大学が環境デザイン学部、安田女子大学が理工学部と教育学部、武庫川女子大学が環境共生学部、甲南女子大学が心理学部の新設を予定しています。駒沢女子大学、清泉女子大学、東京女子大学、日本女子大学、フェリス女学院大学、神戸女学院大学は、2025年度からの学部学科再編を発表しています。このような変革は、共学大学よりも急ピッチで進んでいるように思います。

 さらに私立女子大学は、社会の変化に対応したさまざまな取り組みを行っています。日本女子大学は近年の受験生の都心志向に対応して、2021年4月に神奈川県川崎市にあった人間社会学部を移転し、全4学部と大学院を東京都文京区の目白キャンパスに統合しました。東京女子大学は国際基督教大学と包括協定を締結しました。

 在籍以外の大学で単位を取得できる「単位互換制度」を活用して、共学大学でも学べる機会を設けている女子大学もあります。津田塾大学、東京女子大学、日本女子大学などがその一例です。

女子大学の共学大学との単位互換制度の例

女子大学の共学大学との単位互換制度の例※各大学のHPをもとに東京個別指導学院が作成

 加えて、「高大連携」にも積極的です。高大連携は、提携高校に対して大学独自の研究内容や学部の情報を提供したり、大学生や教員と交流する機会も設けたりなど、活発なコミュニケーションがあるのが特徴です。

女子大学の「高大連携」の例
女子大学の「高大連携」の例※各大学のHPをもとに東京個別指導学院が作成

 以上のように、女性の社会進出や男女共同参画が当たり前となった今の時代にあわせて多くの女子大学では女子学生にとってのメリットを第一に考えた変革や取り組みを行っています。「時代遅れ」と安易に決めつけることなく、それぞれの大学独自の取り組みに目を向けてみてはいかがでしょうか。

 そして女子大学側には、大学そのものが持つ魅力や変革の取り組みを、高校生や保護者へわかりやすく伝える努力が、今まで以上に求められていくことでしょう。