東洋大学が新入試方式の導入を発表
東洋大学「学校推薦入試 基礎学力テスト型」の試験日は12月1日。「英語・国語」または「英語・数学」の2教科入試です。英語は外部試験のスコアが利用可能で、一般選抜と同じ外部試験を同じ基準で利用します。
2教科を受験したうえで、英語では当日得点と外部試験のスコアをもとにした「みなし得点」とを比較して、得点の高いほうを合否判定に採用できるというものです。実用英語技能検定(以下、英検®)でいうと、英検®2級レベルのスコアを所持していると当日得点にかかわらず80点、準1級レベルスコアを所持していると100点が保証され、当日得点がそれを上回っていると当日得点が採用されます。(※英検®は、公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。)
詳細は2024年6月に東洋大学の入試情報サイトで公開されました。
※「2025年度 東洋大学入試情報」をもとに東京個別指導学院が作成。
英検®は1級・準1級・2級のいずれかを受験(一次試験のみ、二次試験のみでも可)し、上記のスコアを取得していること(不合格でも可)。
学校推薦型選抜というと、全体の学習成績の状況(いわゆる評定平均)による出願基準があるのではと考える方もいるかもしれませんが、この入試方式では評定の出願基準がありません。東洋大学入試部によると、「志望理由書や学修計画書のような書類の提出も不要で、面接も実施せず、2教科の成績で合格者を決定する入試である」とのことです。2024年6月19日に、過去の同大学の入試問題をもとにしたサンプル問題も発表されています。
東洋大学で実施している一般選抜と同様に、この推薦入試内でも併願が可能です。例えば、12月1日の1回の受験で経済学部と経営学部の併願が可能です。学部・学科によっては2科均等配点方式だけでなく、特定教科や高得点教科を重視する判定方式も併願でき、1回の受験で複数の合否判定を受けることができます。他学部や他方式の併願をしやすくするように、受験料は1出願でも2出願でも同額に設定されています。
前述したとおり、この「学校推薦入試 基礎学力テスト型」は、他大学や東洋大学の一般選抜との併願も可能な入試方式です。募集人員は、合計(全学部)578人ですが、1出願でも2出願でも受験料が同額に設定されていることから、募集人員の5倍相当の3,000人程度の合格者を発表するのではないかと予想されます。
東洋大学の新入試導入で予想される影響
東洋大学は、2024年度一般選抜の志願者数が近畿大学、千葉工業大学、明治大学に次ぐ第4位の10万2,895人にものぼる (大学通信調べ)、志願者の多い大学です。さらに言えば、東洋大学はこれまで「一般選抜での入学者の割合が多い」という特徴がありました。首都圏の主な大学で、一般選抜での入学者の割合が東洋大学よりも高いのは明治大学と駒澤大学だけでした。
このため、私見ですが、今回の「学校推薦入試 基礎学力テスト型」の導入は多方面に影響をもたらすと見ています。
ここからは「学校推薦入試 基礎学力テスト型」が12月1日に実施される影響について考えてみましょう。
「学校推薦入試 基礎学力テスト型」はどんな生徒が受験するか
Ⅰ 東洋大学が第一志望の受験生が受験する
東洋大学が第一志望の受験生にとっては、「英語・国語」もしくは「英語・数学」の2教科で受験できるうえ、年内に合格を勝ち取れるチャンスが増えます。もし不合格になったとしても、2月の一般選抜で再度挑戦することが可能です。出題傾向や難易度が2月の一般選抜と大きく変わらないのであれば、志望大学対策の負担は変わりません。
このことから、多くの東洋大学第一志望者が受験すると予想できます。大学側にとっても、東洋大学第一志望者を早期に確保できるメリットがあるでしょう。
Ⅱ 「GMARCH」第一志望者が併願先として受験する
いわゆる「GMARCH」等が第一志望の受験生にとっても魅力があります。GMARCH第一志望者の中には、東洋大学を併願先として考える受験生が少なからずいます。
東洋大学は2024年度の経済学部の入試を2月8日~11日に実施しましたが、学習院大学、明治大学、立教大学、中央大学、法政大学の経済学部・政治経済学部の入試日に重なりました。このため、「できればGMARCH、でも東洋大学も」という受験生が8日~11日に東洋大学経済学部を受験すると、GMARCHの中で受験できない日が出てくることがありました。
それが、「学校推薦入試 基礎学力テスト型」で年内に東洋大学の合格を確保しておけば、合格発表日(12月10日)以降は、年明けのGMARCHの受験に専念できることになります。ただし、東洋大学への入学の権利を確保しておくためには、12月17日までに入学金に相当する入学手続金の納入が必要で、入学を辞退した場合でも返金されません。
東洋大学としても、GMARCH・早慶上智を併願する受験生の一部が「学校推薦入試 基礎学力テスト型」経由で入学することを見込んでいるのでしょう。この方式の最終的な入学手続日が2月28日なのは、このような期待を込めているように思います。
※各大学の2024年度入試日程をもとに東京個別指導学院が作成(2025年度入試では入試日が変更になる場合もあります)。東洋大学は第2部・イブニングコースを除きます。
Ⅲ 「日東駒専」等志望の受験生が受験する
いわゆる「日東駒専」の一般選抜は3教科入試が主流です。日東駒専志望者の中には、学べる研究内容へのこだわりから「絶対に行きたい大学がある」という受験生がもちろん多数存在します。しかし、日東駒専に入学できれば十分満足できるという受験生も少なからず存在します。
東洋大学の「学校推薦入試 基礎学力テスト型」で年内に合格を手にした時点で、大学受験を終了する受験生が出てくれば、日本大学や駒澤大学、専修大学等の一般選抜出願者数に影響が生じるかもしれません。
Ⅳ 「大東亜帝国」志望者の挑戦校として受験する
大東文化大学、東海大学、亜細亜大学、帝京大学、国士舘大学という、いわゆる「大東亜帝国」といわれる大学群の一般選抜の入試教科数は、帝京大学を除いて2教科の入試方式が大半です*¹。3教科の一般選抜は自信がなくても、「国語・英語」もしくは「英語・数学」ならば自信があるという大東亜帝国志望者にとっても、東洋大学の「学校推薦入試 基礎学力テスト型」は魅力がある入試方式だといえるでしょう。
*¹ 大東文化大学の全学部統一入試、亜細亜大学の全学統一入試、国士舘大学のデリバリー選抜は2科入試。東海大学の文系・理系学部統一選抜は3教科受験後、高得点2教科で判定。いずれも2024年度入試の場合。
国公立大学志望や、英語や数学が得意な受験生に期待
前述したように、いわゆる日東駒専の一般選抜は3教科入試が主流ですが、東洋大学では「多教科型入試」(4科目・5科目型入試)の募集人員を増やしており、2024年度一般選抜前期の募集人員構成比が15.4%であったのに対し、2025年度は17.3%まで拡大します。反対に、これまで一般選抜中期・後期で実施してきた2教科入試は2025年度から全廃します。
東洋大学は文系学部の一般選抜でも「数学必須入試」を実施しており、その募集人員は2011年度の15人から2025年度は838人へと、55.9倍に拡大しています。また、同大学の多くの文系学部での数学入試範囲は、2024年度までは「数学Ⅰ・数学A・数学Ⅱ」でしたが、2025年度からは「数学Ⅰ・数学A(図形の性質・場合の数と確率)・数学Ⅱ・数学B(数列)・数学C(ベクトル)」に拡大されます。この試験範囲は「学校推薦入試 基礎学力テスト型」も同様です。
さらに、本コラム前半で紹介した「英検®などの英語資格検定のスコアが基準以上の場合に、英語試験得点のみなし得点を与える」という制度を、一般選抜前期の全14学部で導入しています。
このように、東洋大学は一般選抜での多教科化と、英語・数学への重視を進めています。最後まで多くの教科の受験勉強を続けてきた国公立大学志望の受験生や、英語や数学の基礎学力(特に知識・技能)の高い受験生に入学してほしいという意図で、「入試は受験生への最大のメッセージである」と同大学の加藤建二理事・入試部長は話しています。
学生募集で苦しむ大学の中には、入試教科・科目数を減らしたり出題範囲を狭くしたりする大学もあります。しかし、個人的には判定教科・科目数が多い入試のほうが、学力の高い受験生が集まりやすいように思いますので、一般選抜の重量化方針は妥当だと思います。
今の受験生にとっては「コスパ」の良い入試
これまでも、首都圏で基礎学力検査型の年内入試を実施している大学はありました。桜美林大学、帝京大学、関東学院大学などです。しかし、これらの大学では志望理由書や学修計画書等の提出が必要であったり、小論文や面接が課されていたりしました。
大学で学ぶうえで自己分析をして、810ある大学の中から自分に合いそうな大学を選び、卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)、入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)を調べ、その大学の志望理由書や学修計画書を書いては推敲し、小論文や面接の練習をすることは、大学とのアンマッチを防ぐ意味で大変重要なことなのですが、それらを「面倒だ、コスパが悪い」と感じる受験生は少なくないようです。
高校時代に「探究活動」や部活動、校外の諸活動で顕著な実績を上げ、それらをアピールできる生徒が大多数というわけではありません。個人的な感覚では、「他人にアピールできるような顕彰歴があるわけではないが、英語・数学・国語の勉強はそれなりに頑張ってきた」という生徒が多いように思います。
このようなタイプの生徒は、「評定基準なし」「志望理由書等の提出不要」「面接や小論文対策不要」「併願可能」「年内で受験終了可能」の東洋大学「学校推薦入試 基礎学力テスト型」は、コスパの良い入試だと捉えるのではないでしょうか。
近畿圏や中京圏ではすでに導入されている
併願可能な年内入試は、近畿圏や中京圏の私大入試ではすでに定着しています。例えば、近畿大学は2023年11月18日~19日、12月2日~3日に公募制推薦(評定基準なし・志望理由書なし)の2教科入試*²を行い、短期大学を除いて5万108人が志願し、1万3,364人が合格しました。近畿大学内においてもこの人数は、一般選抜のメイン日程である前期A日程に次ぐ規模になっています。
*² 文芸学部芸術学科造形芸術専攻では、実技:デッサンも課される。また、医学部は二次試験で小論文と面接が課される。
※「近畿大学入試ガイド2025」より東京個別指導学院が作成
また、志願者5万人というと、2024年度一般選抜の志願者数では青山学院大学の4万7,109人より多く、同志社大学(5万974人)や専修大学(5万1,289人)に匹敵する志願者数であり、大規模な入試だということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
他にも京都産業大学や龍谷大学など、多くの私立大学でも同様の公募制推薦入試を実施しています。
上図のとおり、首都圏の私立大学とは異なり、近畿圏の私立大学は「関関同立以外は公募制推薦による入学者の割合が多い」という点が特徴です。中には一般選抜同様に複数の入試日を設けたり、1教科入試や高得点の科目の配点を高くしたりする入試を実施している大学もあり、「併願可能な公募制推薦入試」の併願指導が学校や塾で行われています。
近年では、当初は関関同立が第一志望の生徒でも公募制推薦で近畿大学の合格を得ると、関関同立の受験をとりやめるという例も目に付くようになっています。生徒だけではなく、保護者から受験の年内終了を申し出ることも少なくなく、受験生・保護者の大学受験に対する意識の多様化を痛感します。
専願が主流だった「年内入試」も併願可能に
立教大学が2006年度入試から始めたといわれている「全学部入試」(全学部が同一日に一斉に行う入試)は、今や多くの大学で実施されるようになりました。私見ですが、近畿圏や中京圏で行われている「併願可能な学力試験型の公募制推薦」も、同じように首都圏にも次第に広がっていくように思います。
2023年度入試で私立大学の約半数が定員割れしているのですから、ほとんどの私立大学は生き残りをかけて、受験生が集まることならば可能な限り何でもやるというスタンスです。そのため、規模が大きくて知名度も高い東洋大学が始める「学校推薦入試 基礎学力テスト型」に追随する大学が今後出てくると思われます。
特に、東洋大学と同じ大学群にある大学や、東洋大学より入試難易度の低い大学では、「学校推薦入試 基礎学力テスト型」で合格者を持っていかれると、年明けの一般選抜の志願者数が減少します。その対抗策をすぐにでも始めるのではないかと予想します。
実際、大東文化大学や東京福祉大学は、2025年度入試から東洋大学と同じような2科の基礎学力のみで合否を判定する、併願可能な「年内入試」を実施すると発表しています。大東文化大学の「公募制 基礎学力テスト型」と東洋大学「学校推薦入試 基礎学力テスト型」の入試日程を見てみると、大東文化大学の入試日は東洋大学の1週間前、大東文化大学の第1次入学手続締切日は東洋大学の結果発表日の後になっており、両大学を併願しやすくなっています。同様に大東文化大学と東京福祉大学の日程を見ると、両大学を併願しやすい日程になっています。
※東洋大学「2025年度東洋大学入試情報 2025年4月・9月入学用入試情報[新教育課程履修者用]」、大東文化大学HP「11月に新たに試験科目が国語・英語の学校推薦型選抜(公募制 基礎学力テスト型)を導入します。」、東京福祉大学「入試Information 2025年4月入学者対象」をもとに東京個別指導学院が作成。年が表記されていない日付は2024年。
首都圏では数年前まで、公募制の学校推薦型選抜や総合型選抜でも「専願」や「第一志望」という条件をつける大学が主流だったように思います。また、併願が可能であっても、学校推薦型選抜で出願するには、大学・学部ごとに志望理由書を書き上げたり、小論文や面接など学校に合わせた事前準備が必要だったりすることから、一人の受験生がいくつもの大学を学校推薦型選抜や総合型選抜で併願することは実質的に困難でした。
しかし、東洋大学「学校推薦入試 基礎学力テスト型」のような、併願可能で志望理由書や面接が不要な入試が首都圏で広まると、「年内入試での併願」が盛んになり、近畿圏と同じように11月から12月が大学入試のひとつのピークとなるような気がします。
まとめ|大学入試のピークが志望大学によって二分化する
近畿圏において、関関同立は「学校推薦入試 基礎学力テスト型」のような入試は行っておらず、関関同立や国公立大学を志望する受験生は年明けまで入試が続きます。対して、産近甲龍や「産近甲龍よりも入試難易度の低い大学」を第一志望とする受験生にとっては「年内入試」が主流となっています。
今回の東洋大学の動きに追随する私立大学が増えてくると、首都圏でも「国公立大学や早慶上理、GMARCHを志望する受験生は年明けまで入試」もしくは「日東駒専や『日東駒専よりも入試難易度の低い大学』を第一志望とする受験生は年内に入試終了」と二分されていくのではないかと思います。
この結果、正月に受験勉強をしている大学受験生のほうが少数派になる日が、近い将来にやってくるのかもしれません。