4月中旬、人材派遣大手のテンプスタッフと中堅のピープルスタッフは、共同持ち株会社「テンプホールディングス」を10月に設立して経営統合すると発表した。売上高2289億円(2007年3月期)で業界3位のテンプが同301億円のピープルと組めば、僅差でパソナグループを抜いて業界2位に浮上する。

 業界では昨年12月、業界5位のリクルートが最大手のスタッフサービスを約1700億円で買収して、売上高5000億円超の圧倒的首位にのし上がり、大再編の口火を切った。

 トヨタグループなどを顧客に持つピープルは、多くの同業他社が次の目玉の1つとして買収を狙っていた。それを、再編に慎重だったはずのテンプが「以前から交流があり、ごく自然な流れで」(篠原欣子社長)とあっさり奪ったのだ。

 「地盤である東海地区以外のエリアにクライアントが進出したとき、今のネットワークでは現地で人材を確保し切れず、彼らの進出先で満足に受注できない」とピープルの日比野三吉彦社長は語る。そのため、事業拡大を目指すうえで自らの企業規模に限界を感じ、誘いを受けた外資大手との統合を検討してきた。

 しかし、外資のドライな体質を警戒する女性経営陣が反対。相手先を決断できずにいたタイミングに、業界の祖であるテンプから声がかかると、女性役員たちがうなずいた。

 「うちも女性が強いんでね」。苦笑いを浮かべる日比野社長だが、自身も創業した4半世紀前に篠原社長を訪れ、「フランチャイズ展開させてほしい」と頼んだ経緯がある。当時のテンプは創成期だったため、「まだノウハウを提供できるレベルではない」と断られたものの、両社は交流を続けてきた。

 違法派遣問題などで業界が揺れるなか、共同会見で両社社長は「コンプライアンスを重視する相手を選んだ」とし、クリーンな陣営である点を強調する。玉石混交の派遣業界で注目株を引き寄せた“業界の祖”は、再編に距離を置くどころか、むしろ台風の目となるかもしれない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)