ビジョンに共感すれば、
現場は自然に目的を持って動き始める

 では、現場にいるメンバーが自律的に動けるようにするにはどうすればいいのか。それを実現するために必要なのは、働く目的をメンバー全員に伝えてゆくビジョン型のリーダーシップだという。リーダーの仕事は、ビジョンを作ること。それをメンバーに浸透させることなのだ。ビジョンとは、リーダーが実現したいことであり、メンバーに「何のために働いているのか」を考える土台を用意することに他ならない。

 「ビジョンとは、物語(ストーリー)と言い換えてもいいでしょう。例えば“自分が働いている会社は、生産者の人たちの暮らしを良くする会社であり、自分たちの役割は仕事を通じてそれを実現することだ”というストーリーがあるとします。その物語が示す仕事の目的に共感できれば、人は誰かに指示されなくても、自ら考えて動き始めるのです」

 ここでいうビジョンとは、実務的な中期経営計画などではない。もっと遠く、100年後の未来にも続く物語のことだ。実際に“100年企業”といわれる老舗の企業では、そうしたビジョンをしっかり持っているという。

 “100年企業”は、もともとビジョン型のリーダーシップを実践しているともいえる。老舗企業のリーダーが大切にしている経営理念は、働く目的としてのビジョンと同義であり、その基にある企業哲学は目的に向かって働くときのベースとなるからだ。もちろん、そうしたビジョンや哲学が、お題目であっては意味がない。これを現場に浸透させることに成功した企業だけが、“100年企業”になる資格がある。

 「危機があったときに、ピンチをくぐり抜けて復活を遂げるのは、確固たる哲学に支えられたビジョンが継承されている会社です。それが途絶えてしまうと、組織を支える根っこがなくなって、従業員がよって立つところを見失ってしまう。凋ちょう落らくをささやかれる会社では、何らかの理由で哲学やビジョンの継承がうまくいっていないケースが多いのです」

なぜ働くのか?という問いに
ビジョンを明確に示すこと

 お題目ではなく、ビジョンを現場に浸透させるには、一言で言えば、リーダーが現場で自らの言葉を持って語るしかない。「優秀なリーダーであればあるほど、現場に降りてよく話をしています。直接話すことで、言葉以外のパワーが伝わることもある。何を語るのかではなく、誰が語るのかが大事。言葉や態度が一致していれば、メンバーは信頼します。あるいはビジョンや行動指針が書かれたカード、クレドを使うという方法もあります。何度もビジョンを振り返る習慣をつくることで、理念が心に刻まれます。現場レベルで決断を下すときに、必ずクレドカードを見るというルールを設ければ、個別の判断が現場でできるという体制も生まれます」

 もう一つ、藤沢代表が提案するのは、ビジョンの理解度を評価制度に加えるという方法だ。リーダーがいつも格好のいいビジョンを語っていても、評価軸に売り上げに対する貢献度しかなかったりすると、メンバーは「結局は売り上げしか見ていないのか」と考えてしまう。評価制度にビジョンへの理解度を加えることで、自律的に動ける人材が育つ。

 なぜ働くのか、という問いは、特に若い世代にとって重要なポイントだ。今は精神的な豊かさにハングリーになっている。例えばノルマを達成すれば給料が上がる、と言われても今の若い世代は頑張れない。そのノルマ達成は、他者へのどんな幸福につながっているのか?というビジョンを明確に示し、それに納得すれば積極的に動く。

 「その意味で、これからのリーダーが語るべき成果とは、売り上げや利益、昇進や昇級ではなく、仕事の先にある社会への貢献かもしれません。新しいハングリー精神をビジョンに組み込むことも大切なのです」と藤沢代表はアドバイスする。

 躍進する企業の経営者の仕事は、指示を出すことではなくビジョンを語ること。企業の継続を考えるならば、時代は変わってもその根幹は変わらない。

「危機のときピンチをくぐり抜けられるのは、
ビジョンが上手に継承されている会社です」
藤沢代表

 

ダイヤモンド経営者倶楽部とは

ダイヤモンド経営者倶楽部は日本経済の活性化に貢献する趣旨の下、次世代産業の中核を担う中堅・ベンチャー企業経営者の方々の多面的支援を目的として設立。ダイヤモンド社の80周年プロジェクトとして1993年に創設された。現在の会員数は約500人。成長意欲の高い魅力的な経営者が集う“場”を提供する日本有数の経営者倶楽部として高い評価を得ている。