平時のビジネスシーンに
さまざまな用途が
同機は移動のためのキャスターと、安全のためのハンドルブレーキも備えている。フロアからフロアへ、またイベント会場などオフィスとは異なるスペースにも、手軽に運ぶことができるのが特徴。そのため、開発時には思いもつかなかった用途にも活用できそうだ。
「スタート時はオフィス内の危機管理センターや社長室への設置など、『1社に1台』を想定していましたが、電源が近くにない場所での電子看板や、静粛さが求められるゴルフの中継にも活用できるでしょう。このほか祭りの山車(だし)の電飾用電源など、アイディア次第で多様な使い道が広がっています」(吉田社長)
稼動時でもパソコンのファン程度の音しか発生しないパワーイレは、静かさが求められる環境にぴったりというわけだ。軽油を用いるディーゼル発電機では騒音が発生するうえ、排煙の必要もあってビル内での使用には限界があるが、パワーイレならその点も心配ない。
「現在すでに20万セル(1台のパワーイレには16セルを搭載)を製造できるラインが稼動していますが、今年は新たに100万セルの量産工場に着手します。今後はビジネスユースの拡大だけでなく、個人ユーザーも積極的に視野に入れていくつもりです」(吉田社長)
省エネから創エネ、
そして蓄エネへ
パワーイレの量産普及が進めば、オフィスでも家庭でも、太陽光で発電したクリーンなエネルギーや割安な夜間の電力を蓄電して、日中に使える時代がやって来る。「エネルギー自給率の低い日本において消費電力の平準化に資するだけでなく、やがて世界中に当社のリチウムイオン蓄電池が普及することが、環境問題解決の一助になると考えています」(吉田社長)。
元銀行マンの吉田社長は、1997年に住友銀行(当時)を副頭取で退任後、リース会社の会長兼社長となったが、そこでリース物件の廃棄の問題に直面し、環境問題への関心を深めた。
その後、慶應義塾大学が研究を進めるEV(電気自動車)に試乗したことがきっかけで、同大学教授としてEVプロジェクトを立ち上げた。ところが大型リチウムイオン電池は当時、高価であり量産する会社がなかったため、自ら2006年に69歳で起業したという異色のベンチャー経営者だ。創業メンバーに電池の技術者はおらず、「あるのは“思い”だけだった」と、当時を振り返る。
エリーパワーの電池はリン酸鉄リチウムという、安全性は高いがエネルギー密度は低いとされた素材が主成分だが、同社はいち早く性能問題をクリアした。
将来、住宅に設置するのであれば、高い安全性が要求される。住宅メーカーからの高度な要求に応えるためにも、特殊な製法により、マイナス20度から60度という温度域で連続して使用できる大容量の電池を開発。さらに、「釘で刺しても発煙・発火しない」安全性を実現した。「こうあるべき」という“思い”が業界の常識を覆し、新たな価値を生み出したことになる。
現在、大型リチウムイオン蓄電池の規格は整っておらず、普及のためには乾電池のように規格が整備される必要がある。「大型のリチウムイオン蓄電池が量産できて初めて、再生可能エネルギーの広範囲な活用が始まると信じています」(吉田社長)。