小学校受験というニッチな市場で、急成長している幼児教室がある。設立わずか5年目に、慶應義塾幼稚舎19人、慶應義塾横浜初等部9人、早稲田実業学校初等部10人の合格実績(2017年度12月現在)を出した。教育の根幹にあるのは、小学校受験に終わらない“学ぶ力の基礎”と“人間力”を育てること。小規模教室ながら、独自のメソッドが口コミで広がり、保護者の間で関心を集めている。
矢野文彦代表
スイング幼児教室の設立は2011年。教室設立の中心メンバーは、小学校受験の塾としてはかなり異色の顔ぶれである。出身は大手通信キャリア。マーケティングや人事の仕事をしていた仲間が、起業して幼児教室をつくったのだ。なぜ幼児教育だったのか?
同教室の講師も務める矢野文彦代表はこう説明する。「僕らが社会に出て大切だと気付いたのは、いわゆる学力ではなく、自ら決断し、自ら責任を持ち、自ら行動する力、一言でいえば自律です。日々の失敗や成功を繰り返しながら、そのことを痛感してきました。しかし、そうした人間の能力が試されるのは、いわゆる“多面評価”が行われる小学校受験と就職試験のときだけ。ならば教育の“入り口”で、僕らが貢献できることがあるはずだ、と考えたのです」。
アウトプットを重視、
自分を表現する機会をたくさんつくる
これまで小学校受験の塾といえば、子どもを有名小学校に合格させた母親がそのノウハウを伝授するカリスマ的な個人塾や、合格する子どもの型をある程度決めて、知識を詰め込んでゆく大手の教室が主流だったという。だがスイング幼児教室の教育理念は、それらとはかなり違う。
「小学校受験で出題される絵画や工作などについても、ただ知識を身に付けるのではなく、自分の得意なことを表現させることに力を入れています。インプットも大事ですが、むしろアウトプットを大切にする。自分を表現する機会をたくさんつくっています」
大原英子 先生
そう語るのは、創立メンバーの1人で講師を務める大原英子先生である。
例えば、“絵画への取り組み”では、最初に人間の体の動きを表現する基礎的な技法を教える。その上で“他者とは違う自分らしいこと(個性)”を徹底的に考えさせる。「自由に描きなさい」ではなく、人に伝えたいことを明確にし、表現するテクニックを身に付けることが先決だと考えるからだ。絵を描く子どもたちの背中を押すのは、“個性の認識”や“描き方”であり、それを身に付けた子どもたちは見違えるように絵画で自分を表現していくという。このような合理的な考え方が、スイング幼児教室の全カリキュラムを貫いている。
小山文彦 先生
体操のカリキュラムでも、体を動かす訓練というよりは、自分を表現させることに重きを置く。体操を担当する小山文彦先生は、「体操とはつまるところ決断の連続です。考えて判断し、気付いたことを行動に移す。運動量ではなく、指示を理解し、自ら考え、決断・行動する力を身に付ける指導を行っています」と語る。