ビジネスを取り巻く環境は激変している。そのスピードに、人事マネジメントの対応が追いついていない。それは多くの日本企業が抱える課題だろう。人件費の適正化に苦心している企業もあれば、若手社員を中心に広がる新しい価値観に戸惑っている企業もあるだろう。さまざまな課題を整理したうえで、新しい人事マネジメントの構築が求められている。
激変するビジネス環境に対応するため、多くの企業が新興国への本格展開、M&Aの積極活用など新機軸を打ち出している。では、人事分野はどうだろうか。慶應義塾大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボ上席所員の高橋俊介氏は、「経済のグローバル化やビジネス環境の変化に対して、人事マネジメントが追いついていない」と語る。
では、人事マネジメントのどこに課題があるのか。高橋氏が最初に指摘するポイントは、人件費管理である。
「1990年頃から年功賃金の維持は困難という意識が高まり、人件費の適正化が深刻な問題となりました。多くの企業が成果主義を取り入れた主たる理由は、人件費総額の抑制でした」
その後は、非正規社員の比率を高めることで人件費の伸びをコントロールしようとしたが、リーマンショックでさまざまな前提条件が崩壊。日本企業はあらためて、人事マネジメントの再構築を迫られている。
新しい価値観を
持つ若い世代
「日本企業は賃金一律カットのような手法に傾きがちです。本来は、個々人に対して『この人にどの程度インプット(賃金)すれば、どれくらいのアウトプットが得られるか』という積み上げ方式で考えるべきです。もはや一律カットのような安直な手法が通用しないことは明らかです」と高橋氏は言う。

高橋氏の挙げる第2の課題は、人びとの価値観の変化への対応である。
「若い世代の価値観やキャリア観は、中高年世代にとっては驚くほど変化しています。自律的なキャリア形成、あるいはワークライフバランスを重視する若者が急増しているのです。彼らは管理職に興味がなく、会社に同化するつもりもない。会社にしがみついている先輩たちの姿を見て、『ああはなりたくない』と思っているのです」
このような動きに対しても、人事マネジメントが対応できていない。
たとえば、元気のない40代を励まし、再び輝かせるようなプログラムが機能していれば、「この会社で頑張ろう」という若手も増えるだろう。しかし、「欧米企業に比べてもともと低かった研修投資は、最近さらに落ち込んでいる」(高橋氏)のが実情。このような現状は、第3の課題にも関係する。