気密性が高い空間の大きな効果

 日本でエネルギーが使われる先は、大きく分けて三つ。

 第1がエネルギー変換(主に石炭や天然ガスを電気に変えるとき)。第2にものづくり。第3が日々のくらしだ。

 小宮山氏はさらに、第1のエネルギー変換を、「ものづくりにかかるエネルギー」と「日々のくらしで使うエネルギー」に分けてみた。その結果、ものづくりが43%、日々のくらしが57%と、後者のほうが大きなボリュームになっていることがわかった(図1参照)。

 これだけでも非常に大きな値だが、さらに東京都に限れば、「約9割が“日々のくらし”にカウントされる」という(図2参照)。「私は、東京の人に対し、CO2削減を議論する前に“自分でやれ!”と言いたい。会社の窓ガラスを二重窓にするくらい、すぐにできます。簡単に元が取れるうえ、快適になる。省エネ効果だけでなく、結露しなくなるからカビを抑えることにもつながり、健康にいい」

 ちなみに小宮山氏は、東京大学の総長時代に、総長室を二重ガラスに取り替える実験をしたところ、10年で投資額を回収できたという。多くの企業がこうした取り組みを始めれば、回収期間は半減できるはずだと試算している。

 仮に企業が省エネ投資するとして、何から始めるべきか。統計を見ると照明やOA機器などコンセントを通じ使っているエネルギーが最も大きい。

 次いで暖房、給湯、冷房の順だ(図3参照)。冷暖房が約3割を占めており、窓を複層ガラスにするなど、気密性を高めることが重要だとわかる。

 照明の省エネについては、ダウンライトはLEDに、蛍光灯はインバータ式にと、より省エネ性能が高いものに替えていくことも大事だが、照明やOA機器自体が「熱源」であることも見逃してはならない。

 小宮山氏は教授時代に、東大教養学部の試験にこんな問題を出した。「まったく同じ広さ、条件の部屋で、一つでは1キロワットの電気ヒーターをつけ、もう一つでは合計1キロワットのテレビ、冷蔵庫、掃除機を使ったとする。同じ時間使用したとして、二つの部屋の気温はどちらが高くなるか」

 おわかりだろうか。答えは「同じ」だ(ちなみに東大生の正答率は4%)。つまりオフィスを熱が逃げない造りにすれば、照明やOA機器の熱を、暖房の熱として利用できるのである。

 家庭のエネルギー使用を考えると、暖房と給湯で約6割。こちらにはヒートポンプ式の給湯器など、より効率のいい給湯システムの導入が急がれる。

 住宅を気密性の高い、エネルギー効率のよいものに変えていくことは、家庭内でのヒートショックによる脳血管障害の発症の予防にもなり、高齢社会においてもいろいろな意味で注目されている。

学校のゼロエミッションで生きた環境教育を

 企業によるオフィスの省エネ化、社員を通じた家庭での省エネ化の推進に加え、小宮山氏が「これからのCSR」として強く推しているのが、「地域の学校のゼロエミッション化」だ。

「小中学校はコンクリート造りの校舎がほとんど。コンクリートは容易に熱を通すため、断熱策を講じないとエネルギー効率が非常に悪い。そこで、たとえば既存の建物を、すっぽりと断熱壁で覆い外断熱にして、窓は複層ガラス、屋根には太陽光発電、給食室にも最新の省エネ給湯器を入れるとよいでしょう。そして見える化が最善の教育になる。1校当たり1億円程度で実現可能なはずです」

 企業がCSRとして学校の省エネ化に取り組む意義は深い。

 第1に生きた環境教育が地域に浸透する。第2に、子どもたちを通じて家庭にも省エネ化が浸透していく。広告宣伝効果も大きく、企業ブランドの向上にも結び付く。この案に対してもすでに、いくつかの企業が実施を申し出ているという。

「環境問題とひと口に言っても、生態系の問題と、地球温暖化に結び付くエネルギーの問題に大きく二分されます。学校での環境教育は、生態系に関するものはまだしも、エネルギー教育が非常に遅れています。そこを、おカネがない文部科学省になり代わり、企業が率先して行っていく意味はきわめて大きい」

 日本は環境先進国といわれる。それは、生態系の保全に対しても、エネルギー効率の改善に関しても、企業が地道な努力を積み重ねてきた結果ゆえだ。企業努力は、ビジネスを経て、さまざまなシーンで社会を変えてきたわけだが、「これからのCSR」では、よりダイレクトな動きが期待されている。

 なにより、子どもたちへの投資は、未来への投資だ。CSRに向けたおカネが、いつか社会を変え、循環型の世の中をつくっていくのだとしたら、じつに正しい使い方になるといえるのではないだろうか。