仕組みとして
試行錯誤と失敗を許容する

 イノベーションは、無数の試行錯誤とそれに付随する失敗の末に生まれる。しかし、厳しい経済状況の中、新たな試みには失敗も付きものとのみ込んで現場に任せることのできるリーダーは多くない。

 これはビジネスリーダーに限った話ではなく、市民から預かった税金を財源とする行政もやはり失敗のリスクを負うのは難しい。そのため、どうしても行政はこれまでやってきた方法の枠から出られなくなりがちだ。従来の施策(あるいは無策)が必ずしも成功を約束したものではないとしても、これまでのやり方を続けるだけならば納税者への説明責任は果たしやすい。しかしそれではイノベーティブな解決は望めない。

 SIBはその状況に対し、万が一失敗した場合には外部の投資家がその事業資金を負担するという形を取り、行政がリスクを負わなくても公共サービスで失敗を許容する環境をつくっている。

 英国で、中高生の学校中退防止事業をSIBの枠組みで公募したことがあった。公募に応じた民間事業者は約70団体。そのうち、10団体の事業が採択された。ある団体は都市部で、また別の団体は郊外で、中高生にスポーツをさせたり、幼稚園で教員アシスタントとして働いてもらったりして、自尊心を回復することで中退を防ぐさまざまなプログラムを行った。

 10の事業の中には、計画通りに成果を上げたものもあれば、苦戦したものもあった。しかし、成果が上がらなかった事業は単体で見れば「失敗」だが、10の事業を俯瞰してみると、類似の試みが都市部で複数成功している一方で郊外では失敗を繰り返しているという傾向が見えてきた。こうした情報は、その後の事業展開に必要な情報になるのと同時に、ケースによっては行政や大企業がこうした課題に取り組むことも考えられ、その重要な判断材料となるのである。