社会課題の解決に
企業を巻き込むための「触媒」

特別ソーシャルイノベーター最優秀賞に輝いた学校魅力化プラットフォーム共同代表の岩本悠氏。廃校寸前だった隠岐島前(おきどうぜん)高校を国内外から生徒が集まる人気校にした再生モデルを全国に展開しようと取り組む。

 企業を巻き込む場合も考え方は同じで、既存のプロジェクトを企業に紹介し、寄付や協業を依頼してうまくいくケースはほとんどない。無理に実現させても、寄付やCSR(企業の社会的責任)の域を出ず、広がりや継続性に限界があることも多い。そこで日本財団は、企業との連携を考える際には、自身が主体者となって、最初から企業と共にプロジェクトを立ち上げている。

 例えば、日本財団はこれまで子どもの貧困問題対策に力を入れてきたが、昨年5月、教育産業大手のベネッセホールディングと共に、貧困家庭の小学生のために学校でも家庭でもない「第三の居場所」をつくるという新たなプロジェクトを始めた。

 このプロジェクトは、地域社会の中に子どもたちが放課後の時間を過ごせる場所をつくり、健全な食習慣や生活習慣の形成、学習の支援を行うというもの。運営はもともとそうしたプロジェクトを小規模に行ってきたNPOが担うが、子どものための生活・学習習慣の養成に長い蓄積を持つベネッセホールディングスが制度設計から関わり、それまでのノウハウを生かしたサービスを提供している。

NPO同士の連携を深め子どもの貧困に取り組むCollective for Children共同代表の河内崇典氏・高亜希氏(優秀賞)。

 日本財団のマルチセクター推進の肝は、まずはそのハブとなる日本財団自身が汗を流し、違うセクターの人がそのプロジェクトに当事者として関わる動機を持てる状況をつくり出していることだろう。この「汗」が、異なるものを混ぜ合わせるための触媒となり、異分野融合という化学反応を誘発している。

 実はこうした哲学は、先述のソーシャルイノベーションフォーラムで行われたソーシャルイノベーター支援のコンテストにも表れていた。

 このコンテストの目的は全国から優れたソーシャルイノベーターを発掘し、支援すること。特にインパクトがあると評価された3組に対しては、日本財団が年間1億円に上る大規模な事業資金を数年にわたって提供する。

 選ばれた3組の共通項はいくつかある。自分がすでに持っているリソースの範囲で課題解決の方法を考えるのではなく、課題を解決するためにどんなリソースが必要かを考える視点や、局所的な解決を汎用的な解決につなげる展開力……。しかし、ここで注目したいのは「巻き込み力」だ。

人材や企業を地域資源と結びつけて新しい社会システムの構築を目指すNext Commons Lab代表の林篤志氏(優秀賞)。

 選ばれたソーシャルイノベーターは皆、マルチセクターによる協業で大きな社会変革を起こそうとしている。彼・彼女ら自身がプロジェクトのハブとなり、すでに異なるセクターの人々を巻き込んで動き始めている。巻き込み力は、ソーシャルイノベーターに必須の基礎力といえるだろう。

 ビジネス領域においても同じことがいえる。イノベーション環境をつくりたいと望む本人が、まずは巻き込み力を発揮することで異分野連携が実現し、イノベーションを生み出す土壌が生まれる。さまざまな部署の人間を集めるだけではなく、あるビジョンの下、あるプロジェクトにメンバーを巻き込み、彼らが連携できる舞台を用意することがビジネスリーダーの役割だろう。

 とはいえ異分野の人を巻き込む力は、地道に仕事をしていれば身に付くようなものではない。リーダーとしての役割を求められている人、これからリーダーになろうとしている人は、どうしたらそうした力を養えるのだろうか。

 次回第3回では、ソーシャル領域において「巻き込み力」がどう養われていくか、ソーシャル領域でこの力を身に付けた人材がビジネス領域でもいかに力を発揮するかを見ていこう。