医療技術の進歩により、がんの診断・治療は急速に「安価、安全、短時間」にシフトしている。例えば、日本人のがんによる死因トップの肺がんは、早期であれば、短時間の光線力学的治療(PDT)により高い確率での治癒が可能になっている。開発者の加藤治文医師は、PDTは今後さまざまな進行がんの治療にも貢献していくという。

遺伝よりも後天的要因が
がんの発症を左右する

新座志木中央総合病院
加藤治文
名誉院長

1942年生まれ。国際医療福祉大学大学院教授、東京医科大学名誉教授、新座志木中央総合病院名誉院長。国際肺癌学会会長、日本肺癌学会会長、国際光線力学学会会長、国際細胞学会会長などを歴任。治療した肺がん症例は1万件超。

 肺がんは日本人男性の死因として1993年以来トップを独走し、がんの部位別の死因でも男女合わせて1位だ(下の図)。不思議なのは、喫煙率が下がっている(厚生労働省調査)のに患者数が増えていることである。

 肺がん治療に高い実績を持つ加藤治文医師によると、「理由は、喫煙の影響が表れるまでのタイムラグ」だという。喫煙率が死亡者数などに反映されるまでには20〜30年の開きがあるらしい。さらに「PM2.5の影響も大きい」とのこと。PM2.5の粒子は非常に細かく、肺の奥まで侵入する。「以前は太い気管支にできる扁平上皮がんが多かったが、今は肺の奥にできる腺がんが増えた」と加藤医師。

 生活習慣や環境要因に加え、注目されているのが遺伝だ。親ががんを経験している場合、遺伝的な要因は子にどの程度影響するのか。加藤医師は、「遺伝性がんには、大腸がん、乳がん、前立腺がんなどがあるが、遺伝子の影響は全部のがんの5%以下、あまり心配する必要はない」と言う。がんの発症には、遺伝よりも環境などの後天的な要因が大きく関係しており、環境を変えることで大部分は予防できると考えられているという。

進行がんの治療も
安・安・短へと進化

 どうやらがん死を免れるには、生活習慣に気を付けるだけでなく、やはり早期発見が重要だ。例えば肺がんならば、集団検診で受ける胸部エックス線検査・喀痰検査では心もとない場合も。

 「一番良いのはCT検査。肺を輪切り状態にした鮮明な画像が得られ、奥にある腺がんも見つけられます。発見率は胸部エックス線検査の10倍程度も高い」

 他にも「蛍光気管支鏡検査」といった新しい検査が登場しており、早期発見の技術は着実に進歩している。加藤医師が開発したPDTも進化しており、今では治療可能な段階も、がんの種類も拡大している。

 「昔は早期の扁平上皮がん限定でしたが、現在は、腺がんに対する臨床試験が進んでいます。子宮頸がん、早期食道がん、胃がんは前から治療できましたが、さらに近年、難治性食道がんに免疫療法とPDTを組み合わせた治療法が誕生しました」

 PDTをはじめ、がんの治療法は、安価で安全、短時間へとシフトしている。研究が順調に進めば、「今後は進行がんも治せるようになるでしょう」と、加藤医師は語る。