タンク内の水は、事業者によって異なる。天然水や水道水など、もととなる水(原水)の違いだけでなく、加熱殺菌(天然水)、ろ過して雑菌等の不純物を取り除く(天然水・水道水)など原水の処理方法にも違いがある。また、ろ過の際に技術的なキーになっているのが、RO膜(逆浸透膜)と呼ばれるろ過膜だ。水以外を透過しないので、雑菌だけでなくミネラルさえ取り除いた純粋な水が得られる。そのため、あらためて独自配合のミネラルを加えている場合もある。いずれも事業者それぞれの水に対するこだわりといえるだろう。
利用システムも、使い終わったタンクを再利用するリターナブルと、利用者が自分でタンクを処分するワンウェイの2つのタイプがある。また、サーバーについても無料、レンタル、購入などの提供スタイルの違いがあり、利用者にはさまざまな選択肢が用意されているといえるだろう。
安心とおいしさに圧倒的な支持
フードサイエンス事業部
幕田宏明 研究員
宅配水の利用者は年々増加を続け、矢野経済研究所の調べでは、市場規模は10年度に600億円と予測する。同研究所の幕田宏明・フードサイエンス事業部研究員
は、「ここ数年は、前年度比100%を超える成長を続けており、増加トレンドはさらに続くと予想されます。主要事業者はエリア限定のものを含めても30~40社を超えていると見ています」という。
増加については、いくつかの理由がある。
飲料大手のサントリーが91年から行っている消費者を対象にした「ミネラルウォーター消費者利用動向調査」10年度版では、宅配水を利用する理由で最も多いのが「安心だから」(63.8% 複数回答)だった。2位は「おいしいから」の62.3%。さらに「飲みやすいから」「自然・天然の水だから」と続く。「水道水が不安だから」と答えた人は37.7%しかいない。このことから利用者は、安心やおいしさを手に入れたいと積極的に願って宅配水を使ってきたことがうかがえる。
「ウォーターサーバーが利用できる、便利だから」(39.1%)、「持ち運ばないですむので」(29.0%)などの回答も増加傾向にあり、宅配水の利点への理解も深まってきている。
「当初は、法人向けのオフィス需要が中心でしたが、事業者が家庭に置けるようにサーバーの小型化やデザイン向上に努力した結果、現在では宅配水の利用者の約半数は個人・家庭と推測されます」(幕田氏)
厳しい日本の消費者の
評価眼に耐えられる水
そして今年は、原発事故による水源汚染へ関心が高まり、宅配水にとってエポックメーキングの年になった。実際、東日本大震災以後、各宅配水事業者に問い合わせと注文が殺到し、半年近くたっても受注残を抱えている事業者もいる。
ちなみに宅配水事業者には、LPガスの販売会社など地元に密着した会社が多い。LPガスの需要期は冬で、逆に水は夏が需要期なので従業員の勤務を平準化できたり、重い物を効率よく配送する手法を宅配水でも使えることなどが理由だ。いずれにしても地元密着型の会社が、水という生活に密着したサービスで安心・安全を提供していることの意義は大きい。
一方で、宅配水業界がまだ立ち上がってまもないだけに、課題も抱えている。直接体に取り込むものだけに、価格競争があってもぶれない品質基準や安全基準の検証、業界そのものへの信頼感の醸成、個別事業者にあっては認知度とブランド力の向上……等々。
かねてから日本は、「これほど安心して水が飲める国はない」といわれてきた。この「水」とは水道水のことであり、その優れた上水道技術は、今は世界の水ビジネス市場での飛躍が期待されている。そういう国で拡大期に入った宅配水ビジネスには、
消費者のシビアな評価の目が注がれている。事業者は、その点を忘れてはならない。