ハイスペックを備えた高機能オフィスビルの需要が高まっている。堅固なセキュリティシステムはもちろん、免震・制振構造、災害時の事業継続のサポート体制、環境へ配慮した高効率の照明・空調システム……。さらには、そこに働く人びとの知的生産性を向上させる要素も求められている。今後、オフィスビルはどこへ向かって進化していくのか。建築設備と環境問題に詳しい、慶應義塾大学の伊香賀俊治教授に聞いた。

 高機能ビルに求められる要素は三つあるという。まずは「低炭素」。空調や照明の高効率化、太陽光発電の利用などで、CO2排出量を削減できること。

 二つ目が「知識創造」。働く人の作業効率やクリエーティビティを高め、知的生産性を向上させられること。

 そして「健康増進」。シックハウスならぬシックビルディング対策はもちろん、そこにいるだけで健康が増進できるような環境であること。これは、ビル本体だけでなく、ビルマネジメントの大切な点である。

 3.11以降は、これに“震災時の機能維持(BLCP=Business and Living Continuity Plan)”の要素が加わった。

 「オフィスビルにも免震や制振構造が導入され、建物自体が地震で被害を受けないことに加え、自家発電装置を十分に備えるなど、震災時にも事業の継続ができる機能が求められるようになってきました。とはいえ、先の三つの要素がきちんと備わっている建物は、いざ震災が起きても機能を維持できる性能を持ち合わせているものがほとんど。したがって三つの要素が達成できているか否かが高機能ビルの評価の基準になります」

高効率の空調システムで
CO2を削減

慶應義塾大学理工学部
システムデザイン工学科
伊香賀俊治教授
(いかが・としはる)
1959年3月生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。日建設計、東京大学助教授を経て現職。建築と都市を対象とした持続可能性工学を研究。建築環境工学、ライフサイクルアセスメント、産業関連分析などの分野で産官学をまたいで活動。

 「低炭素」については、地球温暖化対策基本法案(閣議決定された段階)で、温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%、50年までに80%削減するという目標がある。この数字を達成するためには、当然ながらオフィスビルの削減対策が急務となる。

 「じつは、オフィスビルにおいて1年間に使うエネルギー(CO2排出量)の約半分は、空調が占めています。2割が照明で、もう2割がOA機器類、残りがエレベーターや水回りなど。つまり、目標達成のためには、制御システムに優れた高効率の空調システムの導入、LEDなどを利用した照明の効率化を図ることなどが求められます。最近は、太陽電池を南向きの外壁や窓ガラスに設置するオフィスビルも現れていて、設置コストはまだ高いのですが、前年比15%減の節電になる程度の発電ができます」

 エネルギーの運用段階でこのような対策を講じれば、年間のCO2排出量を約半分に削減することも可能だという。いずれCO2削減が義務づけられれば、高機能ビルは太陽電池の装備を含め、「低炭素」の最先端のノウハウが集積したビルになるはずである。